ソラノカナタ

紅凪

第1話 プラネット・セル

20XX年。人々は発展した科学力で平和な日々を送っていた。しかし、その平和はある日、一瞬で崩れ去ることとなる。

「おい・・・!なんだよあれ!」

それは世界中で同時に発見された。

「あれは・・・黒い雲・・・?」

それは、音もなく現れた。

「見ろ!何かを吐き出しているぞ!」

それは、空を覆い隠すような大きさの、黒い物質。

そして・・・

「あれは・・・化け物・・・!?」

それは、人類に敵対するもの。

名を、プラネット・セルと言う。


地球を覆いつくすような量のプラネット・セルたちは、地上に降り立ち、人類へと攻撃を始めた。

人類もその脅威に対し、持ちうる限りの兵器を打ち込んだが、彼らの量は圧倒的であり、せん滅することは不可能と判断された。

次々とやってくるプラネット・セルに対し、人類はなす術がなく、このまま全滅の危機に瀕していた。

そんな時、人類は彼らの行動に統一性があることに気が付く。それは月だ。

空に浮かぶプラネット・セルを生み出す物質も、プラネット・セルたちも、なぜか月の光がある場所では行動が阻害、または行動が停止していた。

この状態を解決する手段は月にある。そう確信した人類は、急ぎ月へと飛んだ。

月へと向かうロケットは、幾つかはプラネット・セルにより撃墜されたが、月の影響力の強いエリアのロケットは、無事月へと飛ぶことができた。


月へと到達した人類は、そこに残された過去に月へと到達した人類の残したメッセージを発見した。

そこには、月の裏側で待つ。プラネット・セルの脅威を打ち滅ぼす、人類の希望となるものがあるだろう。と書かれていた。

人類はその言葉を信じ、月の裏側へと向かった。長い長い道のりの後、人類は月の裏側へと到達した。

そこで人類が目にしたものは・・・


「・・・って、聞いてますか、レイア候補生?」

心地のいい電子音声が止まる。少女の見た目をしたそのアンドロイド・・・サクライは、半分寝ていた俺を揺さぶる。

「・・・あぁ、聞いてるよ。月の裏側に俺たち人類がやってきて、そこでお前達・・・インビジを発見したんだろう?」

サクライは、むすっとした表情を作りながら揺さぶるのをやめる。ロボットとは思えないほど人間に近い彼女は、ショート気味の金髪を揺らしながら続けた。

「そうです。私たちインビジは、未来に人類がプラネット・セルと呼ばれる地球外生命体の脅威にあったときのために、それに対抗する手段・・・プラネッターを託す存在です。そして、あなたはそのプラネッターを扱える貴重な人材なんですから、このあたりの事情をもっとよく知っていただいて…」

サクライの小言が始まった。俺はそれを聞き流しながら、母から聞いた月に来た時の話を思い出す。

月の裏側。そこに眠っていたのは現代科学をはるかに超えた、巨大な都市だった。その都市へと到達した人類たちは

「プラネット・セルの脅威から逃げ出すことのできた人間たちよ。その脅威に対抗する術を君たちに託そう。」

という言葉とともに、小型ロボットの案内を受ける。

人類は都市の中心へと案内され、そこで目にしたのがこの目の前にいるサクライをはじめとしたインビジ、と呼ばれる人工生命体・・・アンドロイドだった。

インビジたちは過去にも同じように地球にプラネット・セルたちが侵攻していたこと、その時撃破したセルから彼らの生態を解明していたこと、彼らの技術を使い人類は今よりも優れた文明を築いていたことを話したのだった。

そして、その時に作られた、対プラネット・セルの兵器・・・プラネッターの存在を。

「・・・ところでさ、なんでお前たちはここ・・・月にいたんだ?あいつらに対抗できる武器があるんならさ、地球に置いておいたってよかっただろ?」

思い返しながら、ふと思った疑問を口にする。サクライはまだぐちぐちと小言を言っていたが、その言葉に反応して小言を止める。

「・・・そうですね。それは私たちが生まれたことにも関係するのですが・・・。」

彼女は少し言いにくそうな顔をしながらも話し出す。

「人間というものは過ぎたる力を持ちすぎるとそれを悪用し始めます。過去に作られたダイナマイトがその最たる例です。・・・それよりも強力である、未知の生命体すらも撃退できるプラネッターが、人間同士の争いに使われないはずがなかったのです。」

プラネッターを作り出し、地球に攻め込んできていたプラネット・セルを一時退けた昔の人類は、今まで共通の敵という存在で保っていた均衡を、戦争という暴力で崩し始めた。その戦いは今まで築き上げてきた文明をほぼすべて、破壊するまでに及んだ。

それを見かねたプラネッターの開発者たちは、使われずに残っていたプラネッター数基とそれを守るプログラム・・・彼女たちインビジを、月へと逃がしたのだ。プラネッターを破棄できなかったのは、また遠い未来、同じように文明が発達してきた際にまた、彼らプラネット・セルは地球にやってくるだろう。その時に手助けとなるように未来へと残したのだ。

「・・・そして、現在彼らの予言は的中し、再びプラネット・セルたちは地球へとやってきた、というわけです」

「・・・」

俺は何も返せなかった。

人類が争いの歴史を繰り返していたことは事実だ。そして、それが原因で新たな文明が生まれたり、過去の技術が失われてきたことも知っていた。しかし、プラネット・セルという巨大な敵を相手にしても、変わらない人間がいたのだ。

「今の人間たちがプラネット・セルを撃退した時、再び同じことが起きないとも限りません。それでも、私たちはこの力を現在の人間に託しています。私たちが人間に作られた存在である、ということでもありますが・・・」

そこで言葉を途切れさせ、サクライはこちらの目を見て再び話しだす。

「人々にはやはり、地球、という星がとても似合っています。あのようなおぞましい存在ではなく、人間が地球にいる。それが大切なことなのだと思っています。だから・・・」

「俺たちが力を合わせてやつらをぶっ倒し、地球に帰る。そういうこったろ?」

いつからそこにいたのか。俺たちの個室のドアが開いており、そこにもたれかかるように大柄の男性が立っていた。

「スバルさん!?いつからそこにいらっしゃったんですか!?」

彼の名はスバル・キリシマ。俺たち訓練生の指揮教官であり、過去から受け渡されたプラネッター「マーズ」を操るプラネット・チェイサーである。

「お前らがいつまで経っても訓練室にこねぇから様子を見に来てたんだよ。お前達訓練生は空いているプラネット・チェイサー九位候補なんだ。他の候補生たちに追い抜かされても知らねぇぞ?」

時計を見る。時刻は10時を大幅に超えている。訓練は10時からなので、確かに心配されても仕方ない。

「す、すいませんっ!今準備してきますのでっ!」

俺は急いで支度をする。プラネット・チェイサー候補生は現代の技術では完全には再現できない数少ないプラネッターを使いこなすための訓練をするため、簡易的な量産型プラネッターで訓練をする。俺は母の写真に礼をし、お守りを握りしめて着替えを始める。

「サクライ。お前も時間管理くらいはしっかりしてやれよな。レイアの専属サポーターだろ?」

「は、はい・・・すみません」

サクライも小言で気づいていなかったようで、申し訳なさそうにしている。

「ま、歴史の勉強もたまにはいいってもんさ。俺たちは昔の連中みたいにならねぇようにしよう、そういう気持ちだって大切だからな」

ガハハ、とスバルさんは笑う。プラネット・チェイサーの人たちは変わり者が多い、とよく聞くが、スバルさんはその中でもまともな人だと言う。彼のバトルスタイルはその見た目に違わず豪快で派手であり、その姿に、俺は憧れを抱いて訓練生に志願した。またそれは、いなくなった母の手がかりを探すためでもある。

「準備、できましたっ!」

「おう。じゃ、遅れた分は後でしっかりと働いてもらうからな!」

そう言って、準備ができた俺とスバルさんは訓練室へと向かう。その時だった。

『緊急事態発生!緊急事態発生!』

そう告げるアナウンスが耳に飛び込んでくる。アラートは更に続ける。

『訓練室にプラネット・セル成体が襲来!手の空いているプラネット・チェイサー各位は至急現場へ向かってください!』

「なっ・・・!?」

訓練室。そこには先に訓練を始めている候補生たちがいるはずだ。

「ちっ!よりにもよってそこかよ!レイア!お前は避難してくる候補生たちと一緒に避難区域に退避してろ!」

スバルさんはそう言って訓練室へと向かった。俺は言われた通り逃げてくる候補生たちを待った。訓練室はここから近い。出てくる人たちはすぐに見えてきた。

しかし。

ガシャン!というガラスが割れるような大きな音。

その音とともに逃げる候補生たちと俺の間にトカゲのような姿をした成体のプラネット・セルが窓を突き破り侵入してきた。唐突なことに反応が遅れる。

「逃げ・・・っ!」

俺がそう言おうとした。その瞬間。

一閃。

長く伸びたプラネット・セルの尻尾が振り回され、候補生たちをなぎ倒していく。

壁へと吹き飛ばされる候補生達。それに追撃するようにプラネット・セルが飛びかかる。

「クソっ・・・!これでも喰らえっ!」

唯一別方向にいて無事だった俺は、候補生たちから目標をそらすため、手に持つプラネッターでプラネット・セルを撃つ。プラネッターの発する弾丸にはプラネット・セルから取れたDNAを変異させた物質が使われており、プラネット・セルに着弾した際、その遺伝子との拒絶反応により内部からの破壊を行うのがプラネッターの原理である。しかし、成体のプラネット・セルには外部装甲があり、量産型である簡易プラネッターでは傷をつけることができない。そんなことは分かっていたが、少しでも興味をそらせば彼らは逃げられる。そう考えたのである。

狙い通り、攻撃が当たったプラネット・セルは攻撃を止め、俺の方へと向く。

「クソッタレ!お前の相手はこっちだ!」

俺は割れた窓から外へと出る。やつを外におびき出せれば後は逃げながら戦える。そうすれば他の訓練生たちは助かるだろう。そしてその後は他のプラネット・チェイサーたちが駆けつけてくれるまで逃げ延びれれば・・・そう、考えていた。

「・・・なんだよ、これ」

外に出た俺の目に入ってきたのは、大量のプラネット・セル。

その姿はエイリアンのような見た目の幼生体から、先程のトカゲのような姿に変異した成体までが存在していた。そして、それに襲われたのであろう、外に出ていた一般人たちの死体。

「こんな量が・・・いつの間に・・・!」

遠くでアラートが聞こえる。そのアラートは施設全体にプラネット・セルが出現した、とのことだったが、どう見ても施設の外にまで奴らは存在している。

呆然としている俺の背後から殺気。俺は咄嗟に避けようと動いたが、胴体に感じる鈍い痛み。

俺は数メートル吹き飛ばされていた。視界の端に映るのは先程のプラネット・セル。あまりの出来事に呆けていたのが失敗だった。

「ぐっ・・・がっ・・・!」

痛みで立ち上がれない。俺はポケットの中にしまってある母から貰ったお守りを握る。いなくなった母が最後に残していったお守り。それに念じる。

俺を動かしてくれ。みんなを守らせてくれ、と。

その時。お守りが熱くなっていることに気がつく。俺はお守りを取り出し確認する。手にとって見ると、先程の攻撃でお守りの紐が解け、その中から金属質のパーツがこぼれ出ていることがわかる。

「これは・・・?」

それはプラネッターのパーツに似ていた。小さいがそれは、簡易プラネッターには存在しない、再現ができなかった唯一のパーツ・・・プラネッターの真価である装甲を超えるための破壊力を与えるパーツ。

「なんで母さんのお守りの中に・・・?」

その疑問が浮かんだが、今はそんなことを考えている暇はない。メンテナンスのときにそのパーツがどこに付くのかは知っていた。俺は痛む体を必死に抑え、そのパーツを自身の持つプラネッターにはめ込んだ。

その瞬間、プラネッターから光が漏れ出す。それは最初からそうなるように作られていたかのように形を変化させていく。その光にくらんだのか、プラネット・セルの動きが止まる。

そして光が収まった時、俺の手元にはパイルバンカーのような形をした武器があった。

「これは・・・」

プラネッターは本来銃の形だけではなく、様々な形状のものがあると聞いていたが、このプラネッターは近接攻撃に特化した形状のようだ。

光が広がっていたせいか、いたるところからプラネット・セルがこちらへとやってきていた。俺は痛みを必死に抑え、その武器に動かされているかのように戦闘を開始した。

「うおおぉぉぉぉっ!」

トカゲ型のプラネット・セルが飛びかかってくる。その攻撃を躱し、胴体にプラネッターを密着させ、バーストする。

そこから発射される高密度の破壊遺伝子はセルの装甲をたやすく打ち砕き、体内に入った弾丸によりセルの体が崩壊を始め、目の前から消滅した。

その光景を見て、恐怖、という感情があるのかわからないがセルたちの動きが止まる。俺はその隙を見逃さず突撃する。

「俺はっ!みんなを守るんだっ!!」

一撃。プラネッターから放たれる必殺の弾丸は二匹目のセルを撃破した。

「よし、このまま・・・っ!?」

そう思った瞬間、プラネッターを持つ手に激痛が走る。プラネッターを見ると、その威力の反動か高温で色が変わるほどだった。

その隙をセルたちは見逃さず、俺の方へとやってくる。

「こんなところで・・・せっかくプラネッターを使えるのにっ・・・!」

俺は咄嗟に目を瞑る。・・・しかし、セルたちの攻撃が俺へと届くことはなかった。

「よく持ちこたえたねっ!ここからはおねーさんに任せて!」

そんな声が聞こえ、俺は目を開く。目の前に広がっていたのは、高熱のレーザーで地面に縫い付けられ、そこから崩壊を始めているセルたちだった。

「まさか・・・」

俺は上を見る。攻撃の放出点にはレーザー衛星のような形をしたプラネッターの上に乗る赤髪を靡かせる女性。俺は彼女を知っている。

「マリーネさん・・・!」

「いえーす!プラネット・チェイサー第五位、マリーネ・オリヴィアおねーさんの登場だーい!」

危機感のないその声は緊張した俺の精神を解したが、無理をして動かしてきた体の反動で俺はその場で気を失った。


「・・・はっ!」

次に目がさめると、そこは医療室だった。

「レイア、無事でしたか・・・良かったです」

隣にはサクライがいた。そして、スバルさんとマリーネさんも近くにいた。

「ったく、まさかお前がジアースのプラネッターのパーツを持っていたなんてな」

「本当ビックリしましたよー。全域にセルが出たって聞いたから飛び出したら彼がプラネッターでセルを倒してるんですもの。」

俺はその話を聞いて飛び起きる。

「そうだ!他の候補生たちは・・・!」

その言葉を聞いて、スバルさんはニッコリと笑う。

「おう、あいつらなら全員無事だ。お前さんが奴らを引きつけてくれてた間に全員逃げ延びれたってよ。お手柄だぜ?」

それを聞いて俺は安堵し胸に手を当てる。

「それは・・・良かったです。俺でも役に立てて・・・」

「だが、もうあいつらは候補生じゃなくなったがな」

俺はその言葉を聞いてもしかして、何かがあったのか・・・という思いが駆け巡る。しかし、先の言葉を聞いて、俺は更に驚くこととなる。

「レイア。お前が第九のプラネッター、ジアースの所持者だ。それはつまり、現在欠番であるプラネット・チェイサー第九位の存在と同じだ。つまりだな・・・」

「レイア・キルフ!あなたが新たなプラネット・チェイサーって事だよっ!」

「・・・ええええええっ!?」

こうして、俺はプラネット・チェイサーとなった。

消えた母さんの行方。そして、母なる大地、地球の奪還。

俺は、地球を取り戻す。そして、母さんも・・・!

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