幕間 その二

文字ラジオ番組・毎日がモルヤン




「皆様、いかがお過ごしでしょうか。文字ラジオ番組『Everyday Y○unglife モルヤン』。司会進行は〝御耳の愛人〟管制塔・オルガゼルフ……」


「待てい! 何て番組名してるんだ。この話を潰す気か!?」


「向こう見ずにも程があります。即座に変更なさい」


「えぇ~……」


「おいコラ。見え無いからって、物凄く変な顔するな」


「判りましたよ。変更しやすよ。だから、お願い。〝御耳の愛人〟だけは使わせてくだせぇ」


「放置しましょう。……皆様、改めまして御挨拶を。第二回・幕間を担当させて頂きます。

 管制塔・パルセフィアで御座います。宜しく御願い致します」


「同じく、ヴァイレルドで御座います。今回は質疑応答を主に、幕間を進行させて頂きますので、ご了承下さいますように」


「堅い。堅いんだよ、御二方おふたかた。ラジオって言うのは、滑舌の善さ、心に響く私のような美声。言葉は正確で、適度な心地よさと、適度な崩し方に視聴者の方々は……」


「当番組は、盛大なネタバレと、本筋に触れ無いと割愛させて頂いた設定、何よりも、オルガゼルフの御耳汚し。もとい、御目汚し口調が御座います。御不快の方は、この先の立入は御注意下さいますように」


「うわ~……ぁ。非道ひどい。ねぇ、私の扱い非道く無い?」


「早速、貴重な御意見・御質問の紹介を致します。

 Mモルヤンネーム〝あの時の風鈴は何処どこへ?〟様。有り難う御座います」




 ── 天貴人あまつあてひとって、不老不死ですか? それと、性別がないような感じで、恋愛対象も曖昧で分かりにくいです。そもそも、天貴人って何なんですか? ──




「善い質問が来やしたねぇ」


「作者、本筋に関係が無い説明を端折りし始めたもんな」


「身の程知らずにも、文字縛りなどするからですよ。それと、学習の賜物たまものでしょう」


「この幕間を、言い訳に使おうと目論んだ結果でしょうなぁ。さてさて、御説明をば。

 物語は、〝向こう側(異世界)〟〝中間(異世界と人界の干渉を受け歪んだ世界)〟〝こちら側(人界)〟で構成されて居りやす。


 天貴人ってのは、〝向こう側〟の住民。登場した面々で言えば~。ロゼル隊長、その御兄様方、シグナ長官、八住御兄弟、シュレイフラルツ様、彤十琅様……等々でやすなぁ。〝中間〟の代表格は、今は絶滅したレヅルの〝ベルジン族〟。太阿たいあくにの〝巫覡ふげき〟。


 こちらは存続中のゼランシダルの〝異若ことわか皆志間みなしま様。残る方々は、ほぼ〝こちら側〟ですな。一部は、情報封鎖が指定されて居りやすんで、御了承下さいな。


 そこで、天貴人の構造が何に近いかと申し上げやすと……、虫?」


「違うだろ。度胸あるよな、オルガゼルフ」


「植物ですかねぇ」


「隊長は、華って言うより森林の匂いがするが、ちょっと違う」


「粘菌。もしくは、人様の腸内細菌」


「それかなぁ」


「それを肯定するのかい? ヴァイレルド」


「非道いのは、提言したオルガゼルフだ」


「天貴人は、そうで御座いますね。骨董品のような物です。価値を見出みいだされ、世代を越え多くの皆様に愛でられ必要とされた器。姿形は産まれ出でたまま。扱い次第では割れて果てる運命で御座います」


「綺麗な例えだなパルセフィア。さすがに、天貴人を競売に賭けられ無いけれどね」


「かつては、似たような事はあったみたいですがね。長官なんかは、ある日突然、条件が合ったからとの理由で、別の《高威界域》に召喚されて縛り付けられた挙げ句、ポイッとお役御免になって、下働きさせられてたってんですから。非道ぇ話でやすな。


 普通は、両者が了承の元〝外戚がいせき〟ってな盟約関係を結ぶんですがね? 大昔は無許可にて強引に召喚され、長官みたいな大物を偶然捕まえてた時代もあったんですな。怖い怖い」


「その辺りの話は、後々に長官から語られますので、お待ち頂けると幸いで御座います」


「骨董品とは言え、とてつも無く丈夫ですし、永持ちしやすので、その辺りが不老不死って受け取られるのやも、しれませんやねぇ」


「天貴人には、生殖能力は御座いません。種の存続、繁殖方法は各界域で異なり、その機密は厳重に管理されて居ります。共通するのが、〝むすび手〟の存在です。選別、増産方法、周期、産み出される数。それらが伏せられて居るようです」


「〝向こう側〟にとっちゃぁ、大問題でやすから。数が少ない上、増え方もゆるやか。かえって減る始末。《人界》の生命は人様も含め、種としての繁殖方法が明確でさぁね。血脈で生命を運ぶ事が叶いやすが、天貴人は途絶えます。絶命・消失に至ろうが、同じ天貴人を複製したり、系譜として残ら無いんですなぁ。詰まり、隊長が死ぬと代わりが無いと来たもんです」


「生殖能力が無いのに、恋愛感情や性別、血縁の概念があるのって不思議だよな」


「それは、アト=グロリネスが持ち込んだ異文化の流入って奴ですな。《高威界域》の境界を越え、分け入りやした。そこで御仁は囁くんですなぁ。世界には終わりが待って居る事。外には別の世界がある事。侵略・制覇・殺滅が可能である事。《人界》には、生命の素晴らしさと、世界を存続せしめる方法が眠っている事。


 渡りに渡り、災厄と希望を撒き散らした天貴人です。この御名、隊長の前では禁句なんですよねぇ。《高威界域》によっちゃぁ〝あかつきの英雄〟と称賛の対象ですが、隊長のように〝黄昏たそがれ簒奪者さんだつしゃ〟と、禁忌の位置付けをなすってます。


 グラーエン財団創設者であり、初代総会長。太阿の洲・二代目女王。《正の高威界域・リーン=ラーン》のシュレイフラルツ様の姉君。未だに姿を現されぬ、アーレイン=グロリネス様の母君で御座いやすね。えぇ、えぇ」


「ひとまず、この辺りでめましょうか。時間も押して参りましたので、次の御質問へ移ります。

 M・N〝モルヤンヘの転生希望・第一号〟様。有り難う御座います」




 ── ロゼル(士紅)が異世界の住人なのは分かりました。

 そこに戻った時、変な名前で呼ばれていましたが、何の事ですか? 特殊な地位なのでしょうか ──




「はいな。ロゼル隊長は、〝外戚契約〟で縛られる《負界・鏡の都》の次期〝太帝たいてい〟後継者で御座いやすね。御兄様は現太帝陛下の御子息に当たる方々で、それぞれ居住される、塔の名で呼ばれやす。


 長兄・はじめ様は〝中黄ちゅうき御塔みとう〟。

 次男・かつと様は〝紺青こんじょうの御塔〟。

 三男・いぶき様は〝深緋こきあけの御塔〟。

 四男・しめす様は〝白練しろねりの御塔〟。

 長女・おわる(ロゼル隊長)様は〝鉄黒てつぐろの御塔〟で御座いやすな。


 ただ、〝鉄黒の御塔〟は、先日……と言いやしても、《人界》での時間軸にして千年前に、で激昂されたロゼル隊長は、居住区画である御塔を粉砕されやしてねぇ。帰還されても住む場所が無いと言う笑える状況ですな」


「笑え無いっての。続きましては、

 M・N〝幸せ過ぎて釣り竿を振っちゃう〟様。有り難う御座います」



 ── 第十九節で、九名の敵がいて、あっと言う間に刈り取られましたが、どこの誰だったのでしょうか ──




「あの九名は、各経済圏の協力者が内側から招き入れた、正真正銘の天貴人なので御座います」


「問題は所属先では無く、何が動くのかが焦点でしたので隊長各位は、空間移動で現地入り。叢の虚ろ発動。空間移動で帰還。その手順で御役目を果たされました」


「御陰様で、善い動きを観測出来やしたぜ。三の幕で、皆様に結果を御披露目致しやす。お待ち下さいやし。


 関連で、この方の御質問へ移りやすね。

 M・N〝生まれ変わったら、イルカになりたいかも〟様。有り難う御座います」




 ── その時に遣われた〝ししむらうつろ〟って何ですか? ──




「俗に言いやすと〝天貴人殺し〟の一種ですな。先程、パルセフィアが申し上げやしたが、仮に陶器のポットがあると致しやしょう。ポットが割れました。破片が飛び散り、怪我をするやもしれません。何より中身が零れて大変です。破片の始末も大変ですが、中身がこれまた大変でして。


 熱い紅茶ならまだしも、未知の気体。手に負えぬ致死性の高い液体。もしくは、反物質に転化する可能性がある何か。天貴人は〝器章きしょう〟と認定される器があってこそ、境界を渡り、活動が叶いやす。その〝器章〟を、中身を撒き散らす事無く、綺麗に消去せしめる業が〝天貴人殺し〟。中でも〝叢の虚〟は、人様と同じ血肉に堕とし、殺傷に転化する御業みわざ


 当然ながら、《公正》や暗黙の良識で、開発・精製・行使には厳しい規制が掛けられて居りやす。秘密裏に進めた所で、かなり大掛かりな気配が立ちますんで、成就する前に発覚して制裁の対象に指定されやすねぇ。まぁ、《人界》で実行可能な遣い手も限られてますし、そのための、グランツァークの〝群狼〟とグラーエンの〝分室〟ですわな」


「随分、血生臭い話題が続いてしまいましたので、こちらに参りましょう。

 M・N〝同居人は素晴らしき猫達〟様。有り難う御座います」




 ── 士紅(ロゼル)、女の子だったんだ……。

 でも、部室や強化組との風呂のアレは一体何だったの? ──




「公式経済圏で表記される所の〝ヒト型 第Ⅰ種〟です。そりゃ、驚きます。付いてるじゃない! ってなりますよね。隊長って変わった方で、誰かの前で服を脱ぐなんて、決してされません。なのに〝皮膜ひまく〟を被って居られると、服を着たままの感覚なんです」


「あれですやね。自社製品の実地検査ですな。隊長も《人界》では企業に身を置かれる立場なので、可能な限り自社関連企業の製品を召し上がったり、塗ったり、貼ったり、身に着けたり、寝たりなすってます。要するに、少年用の皮膜を被って居た。開発元の深歳医療製薬の関係者、深歳みとせ桐子とうこ様が検品するため足を運ばれた。第十八節は、そのような訳でも御座いやした」


「微妙に身体の線も違うから、隊長は余計に裸身の感覚が欠落してるんだろうな」


「さすが、事故とは言え隊長を抱き締めちまった事はあるわなぁ、ヴァイレルド」


「……言うなよ」


「線って言やぁ、胸はどうなっているのか? との御質問もありやすわな。ついでさらしちまいやすか」


「ついでに、あの時の会話も暴露したら? せっかくの幕間なんだし」


「でさぁね。ちょいと会話記録を……」




 ●○●




「シグナ、話をしても大丈夫か」


「どうした、ロゼル」


「時折、老若男女問わず肉体関係を交わして居るが、愉楽は感じるものなのか?」


いいや、全く無い」


「何が楽しいんだよ」


「相手の反応。君は過敏そうだな。相手になってみるか? 私も、初めて愉楽を得られるやもしれぬ。邪魔だと言って平らにする、女性の象徴たる証を元に戻して欲しい」


「胸を出し入れするのは可能だが、最初から存在せず受けれる場所が無いから不可能だな。……私の口を見るな。気持ち悪い」




 ●○●




「……大丈夫か。最後の一言」


「気のせいですな」


「このように、天貴人は千差万別の探究心と、揺るがぬ意志によって彩られて御座います」


在純ありすま青一郎せいいちろう坊ちゃまに、御説教された吹様ですがね。しっかりと、ルブーレン最大の危険区域『デーラ区・二六番街』で男女問わず遊んで居らしやした」


「十年前、外部からの致死性感染病の封じ込めが確保されて居るか、身を持って確認された。と、添えさせて頂きます。感染検査は受けられましたので、御安心を」


「こんな言い方は失礼だが、その辺りは真面目だよな。感心するんだよ、本当に」


「そりゃ、そうでしょうよ。《人界》で活動を開始されたばかりの長官は、別口の致死性感染病を知らずに感染爆発を起こしやしたからね。元より、御塔様方は《人界》での常識や知識量は一日の長がありやす」


「その時、隊長は何してたんだ?」


「傍観者として観察」


「うわ……。隊長らしいな。隊長って、そう言う所ある。さっきの長官との会話もしかりだが、無神経な部分が目立つ。普通、愛を囁いて来る相手に、あんな事を尋ねるか?」


「善い流れが来ましたので、この御質問です。

 M・N〝オンラインゲームは世界を救う〟様。有り難う御座います」




 ── 実際、士紅(ロゼル)は、シグナの事をどう思っているのでしょうか。

 あの二人は恋人同士なんですか? ──




「留守番」


「違うでしょうに。しかし、我々の認識領域に設定される、隊長の長官への想いは……」


「留守番ですなぁ」


「そうなのですよね。明らかに異なる想いを刻んで居られるはずなのですが。ヴァイレルド、この際なので視て頂けませんか」


「隊長の表層思考って凄く判りやすいんだが、当然、深層で考え事されると判ら無いんだよな」


「……隊長、視るまでも無く、私でも判る場合があるんですがね。ちょいと問題じゃありやせんか?」


「基本、我々の説教は聞き流して居られますし、面倒だから家に帰りたい。眠い。学校の給食、社員食堂の献立。部活の参加時刻。最近は、これらが表層に漂いますね」


「天貴人に不必要な事ばっかじゃないですか。寝食なんざ、る方が難しいって事象ですぜ?」


「《人界》での滞在が永いと、こんな事になってしまうんだよ。恐らくな」


「哀愁が漂い始めた所で、続いての質問に参りましょうか。

 M・N〝元祖・引きと焦らしの女王〟様。有り難う御座います」




 ── BL? ──




「そう受け取られても、致し方ありやせんな」


「自由過ぎるから。作者も出演者も」


「そのようで御座いますね。おや、次で最後の御質問のようです。

 M・N〝小説界の未来を一緒に感じましょう〟様。有り難う御座います」




 ── 管制塔の正体とは何ですか? ──




「厳密には天貴人ではありやせん。我々は、隊長によって創り出された〝ローリット〟なる天貴人類似品種です。要は地球で言う所の、人工知能を搭載したヒト型無機物生命体みたいな感じですかねぇ。要は、限界数式の塊ですな。第十九節に登場した、エンレルグ様方もでやすが、制作者が遂様、吹様だったり致しやす」


「我々が生産された場所にも、ローリットは存在しましたね。今は消失して場所は既に御座いませぬが」


「公式経済圏では、文明を築き上げる第一種生命体に似せた人工生命、人工知能の生産・開発は禁止されてるんですよねぇ。我々が生まれた世界と同じ道を辿る怖れがありやすので。その場所が、公式経済圏に参入する前の時代に、我々は製造されやしたが、その辺りの物語も日の目を見る時節が来るのでしょうかねぇ」


「他にも、作者のプロットで眠る物語も御座いますから、いつかは披露が叶う場が来ると善いですね」


「夢を見つつ、長々と番組にお付き合い頂き、有り難う御座いました。物語は三の幕・全国大会へ向けての内容となって居ります。引き続き、本編を追って頂けると、作者・我々一同は幸いで御座います。文字ラジオ・毎日がモルヤン。お相手は、管制塔・ヴァイレルド」


「本当に長い御時間、お疲れ様で御座いました。また御目にかかれる日を、待ち望んで居ります。同じく・パルセフィアで御座いました」


「お騒ぎさせて頂きやした。同じく・オルガゼルフでお送り致しました。今後も、御意見、御感想、どのような些細ささいな御質問、苦情にも、作者がお答え致しますのでよろしく御願い申し上げます。


 改題〝毎日がモルヤン〟。お付き合い頂いた皆々様に、善き日々が訪れますように」





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