おののけ!七不思議!

氷泉白夢

絵を描くのは怪談とは特に関係ないんだよ

 草木も眠る丑三つ時。文月小学校の三階奥の空き教室。

 こんな真夜中にこの席に着く人間など当然存在しない。

 しかし、人ならざる者ならば。

 それらは……いや、彼女たちはというべきだろう。

 7人いる彼女たちは全て、ある意味ではこの場に似つかわしい女子小学生のような外見であったからだ。

 しかし、彼女たちは人間ではない。


「では、そろそろはじめるとしようか」


 その証拠に今、発言をしている彼女は美しい顔立ちに金色の長い髪。

 そして頭頂部には狐のような耳が存在しており、さらにはやはり狐のようなふわりとした尻尾が装束の隙間から抜け出して、自分が人外の存在であるということを主張しているかのように揺れていた。


「えー、ではこれより文月小学校七不思議定例会議を始める」




 おののけ!ななふしぎ!




「起立!」

「こっさん!あたし足ないんだけどどうやって立てばいい!?」

「ちょっと高く飛べ」

「あい!」

「気を付け!礼!着席!」

「こっさん!あたし足ないんだけどどうやって座ればいい!?」

「ちょっと低く飛べ」

「あい!」

「ではこれより点呼を開始する!いち!」


 七不思議その1、こっくりさん。

 巫女服を着た狐耳の少女の姿で現れる。

 夜中にこっくりさんの儀式によって呼び出すことでなんでも答えてくれるらしい。

 通称こっくり。


「2」


 七不思議その2、トイレの花子さん。

 和服を着たおかっぱの少女の姿で現れる。

 三階の女子トイレの一番奥の扉を夜中にノックすると引きずり込まれるらしい。

 通称花子。


「さーん!!」


 七不思議その3、芸術家の亡霊。

 ベレー帽をかぶった足のない少女の姿で現れる。

 夜の美術室にこもり、生血で絵を描いているらしい。

 通称レオナ。

 

「死」


 七不思議その4、理科室の人体模型。

 体の半分を服と仮面で隠した少女の姿で現れる。

 普段は普通の人体模型だが実は本物の少女で作られており、夜中に動き出すらしい。

 通称もけ。


「5、ですわ」


 七不思議その5、音楽室の幽霊。

 チョーカーが目立つゴスロリ衣装の少女の姿で現れる。

 夜の音楽室に聞こえてくる曲に釣られドアを開けると首を吊った少女が睨みつけてくるらしい。

 通称ドルチェ。


「ろくー」


 七不思議その6、園芸室の赤い花。

 真っ赤な花が生えた少女の姿で現れる。

 夜中にしか咲かない園芸室の赤い花はここに埋められた死体の血を吸って育ったらしい。

 通称ローザ。 


「な、なな」


 七不思議その7、プールに浮かぶ水死体。

 スクール水着を着た、全身が隠れるほどの長さの髪の少女として現れる。

 かつて溺れた少女の髪の毛が仲間を求めてからみついてくるらしい。

 通称ミカ。


「8」

「おい誰じゃ今はち言うたの、七人しかいないはずじゃろ」

「どっかの浮遊霊かなんかじゃないですの、気にしすぎですわ」

「それもそうじゃな。さてじゃあどうする、今宵の七不思議会議の議題。どうする」


 仕切り役のこっくりが全員の顔を見回す。

 まず手を挙げたのは花子である。

 

「とりあえずまず言いたいことがあるとするならさ、こっくり」

「うむ、なんじゃ花子」

「あたしの記憶が正しければこんなことするの初めてだと思うんだけど」

「そうじゃな」

「じゃあ如何にも恒例行事みたいですなノリで進行するのやめなよ」

「ノリノリで点呼しとったくせに……」


 こっくりと花子は昔馴染みであり、この学校の七不思議の中でも古参である。

 故に一番遠慮しない間柄でもあった。


「そんなことはどうでもええんじゃ。建設的な意見を出せ、建設的な意見を」

「建設的な意見って言われてもねー」

「と、突然言われても困ります、ね……」


 ローザとミカが顔を見合わせる。

 そもそもいきなり呼び出されていきなり椅子に座らせられて、この有様である。

 いきなり意見と言われても困るのは当然のことだ。


「そもそも幽霊や妖怪にとって建設的ってなんですの」

「そりゃーお前、あれじゃろ、いかにして人間を驚かせるか、とか、そういうやつじゃろ」

「つまりこっくりもなんも考えてないんかい」

「だまらっしゃい。じゃあ、もうええ。これでいこう。いかにして人間を驚かせるか、はい議題!」


 こっくりはいつもだいたいこんな感じであった。

 一番の古参であるにも関わらず子どもっぽいのである。


「いかにして驚かせるっつっても、アタシたち七不思議だしー?驚かせ方決まってんじゃん?」

「甘いぞローザよ、人間は飽きっぽい。ついでに子どもは流行に敏感じゃぞ。いつまでも同じ手では飽きられるぞ。これ経験談な」

「そうは言っても結局なんも変えてないだろこっくり」

「というかこっくりセンパイあれじゃん?一人だけ驚かしてないじゃん。人生相談しちゃってんじゃん」

「だからわしの事はいいの!もっと面白い話をせい!」

「やっぱそれが本音か」


 耳と尻尾を逆立てながらこっくりが怒るのを花子が冷ややかに見つめる。

 その様子を見ていたレオナが勢いよく手をあげる。


「驚かせ方の話ね!あるよあたし!言いたいこと!!」

「おお、いいぞレオナ。言うてみ言うてみ」

「あのね!生血で絵を描くってあるけどね!!」

「ふんふん」

「赤一色だと、とても描きにくい……」

「……」

「そうだろうね……」


 しゅんとするレオナを周りが慰める。

 レオナは亡霊である前に絵を描くことが大好きなのだ。


「あと、生血で絵は、無理です……今は赤い絵の具で描いてる……」

「まあ、そうですわよね」

「まともな画材で描かせてください!!レオナからのお願いです!!」

「あー、まあ、そうじゃな。それはとりあえず考えておこう、ほかに何かあるものはおるか」

「では僭越ながら、ワタクシもよろしいでしょうか」

「ドルチェか」


 ゴスロリの少女、ドルチェが控えめに手を上げる。

 黒いドレスが優雅に舞った。

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おののけ!七不思議! 氷泉白夢 @hakumu0906

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