十八、棚のすきま

 ヒデオは顔は見せないが、聞こえるようにただいまと言うようになった。まあ、良しとしよう。

 でも、マサルさんは相変わらずだ。こんどの仕事も出発日と行き先、帰国予定日だけ教えてくれたが、細かい日程はわからない。聞くと、うるさそうに、急に変わることがあるから言っても無駄だよと言う。それでもいまのところの予定を教えといてよと食い下がると無視された。

 行き先は永久凍土のあるような寒い土地だ。そこの資源に関わる仕事らしい。


 日に一回は連絡してよと言ったが、つながったらな、とわざとらしい冗談口調でごまかされた。いまどき地球上でつながらない土地なんかあるものか。月の調査隊だって家族と連絡が取れるのに。

 それとも、マサルさんは月より遠い所にいるのだろうか。


 ユリは、マグカップのない棚のすきまをじっと見つめた。

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