第38話 ナシメの語り
ナシメは、四人で担ぐ
改めて、明るい日の下でナシメを見る。しばらく見ないうちに、……いや、日々会っていた。初めてナシメが痩せて見えて身体を慮ってそのあと、私はナシメについてしかと見ていただろうか。ナシメを慮ることを、はじめにしてしまってそれで満ち足りてしまっていたのではないか。声はかけていた。でもそれだけ。まことに慮っていなかった。
ナシメが切り出す。「トヨ様、暇乞いに参りました」
声はすっかり枯れて、ナシメのモノではないようだ。でも、もとのナシメの声は思い出せない。
「そうですか、……忙しかったもの。ゆっくり家で休んでください」
ナシメがこれを受けて声を出そうとして、私も言葉を続けようとして、互いに詰まってしまう。いつもなら言葉を年上のナシメに譲るのだけれど、ナシメがあまりにつらそうだから私が言葉を連ねることにする。
「ナシメ、あなたはヒミコおばさまの御時からこのかた、まことに……能く、……」いつの間にか右と左のそれぞれの裾で顔を覆って、顔を下げて裾に埋めてしまっていた。そのまま、くぐもった声で「私、まことに助けられました。ありがたいことです」。
やや時を置いてから、ナシメの声が聞こえてきた。
「トヨ様はヒミコ様亡き後に、よく占い、まじなっていただいております。引き続き、勤めてまいられますよう、
幼いころや宮に籠められたばかりのころを思い起こす。幼いころのようにナシメにくっついていたいと強く思う。けれど、それは叶わないことだ。私は巫女だから、他の人と隔てられていて、他の人に触れると穢れてしまうのだ。男の人ならなおさら。他の人も見ているし。でも手を握るくらいは……と思うも、身体は動かない。私の心はすっかり宮に篭められている。
ナシメはまことによくわかっていた。傾いて座るのと逆さの手、左手をさっと挙げて小さく前と後ろに揺らす。控えている六人の端女に頭を下げるよう指し示した。
ナシメは傾いた身体から、さらに首をかしげる。「構わない」と示してくれて、私がナシメに甘えられるようにしてくれた。近づいて、ナシメの手を握って、それから胸に顔をうずめる。
ナシメは小声で「伝えたいことはおおよそ伝え切りました。これから、能く生きてください。上の者が死ぬと色々と変わります。あ、私ではないですよ。ヒコとか、です。まじないをするときのように、能く見極めて」と話す。
私は言葉を探して、幼いころのことと、ここ数カ月の話を短くした。ナシメは「まさか姫にまつりごとの要について、密かに説くとは思いませんでした。優れた者はどこにいるかわかりませんな。私も、カラクニを旅した時と同じくらい楽しく語れました」と述べて、私の肩を抱いて、引き離す向きに力を少し込める。お別れのときがきた。
顔を拭って、ナシメの顔を見た。遠くにはシギ山とカツラギ山が見える。ナシメが声を出して、端女に去ることを告げる。
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