01-04
*
志久間は眠っていた。そして起きて店内に戻ってきた頃には長谷川も葉月も居なかった。
普通のお客をしり目に見ながらカウンターに入って清代に声をかける。
「交代しよう。お疲れ」
「まったく、くたびれましたよ」
心の底からそう思っていないと出ない表情で清代はそう言ってカウンターの陰に隠れた。
隠れた先には小型の冷蔵庫があり、冷えた麦茶と作り置きのサンドイッチなどの軽食が入っている。察するに緊張した空気のせいで空腹だったのだろう。仮眠をとるといってすぐに出てくるつもりだったのだがそれなりに時間が経過していたらしい。
「リルカは?」
「葉月ちゃんを見送った後にお出かけしました。もう少しすれば戻るでしょう……ハカセって、人見知りする人なんですねぇ。見てるこっちが疲れました」
「今に始まったことじゃない。僕は葉月ちゃんじゃなくてハカセのほうが心配だったくらいだ」
清代は冷蔵庫を漁ると朝作ったらしいサンドイッチを端から齧る。じっと見ているのもおかしいだろうから、僕はカウンターに座り注文がないかを待つ。
長谷川。は偽名だ。彼女の家の魔術師は本名を知られることを嫌っている。だから僕らは愛称を含めて彼女をハカセと読んでいる。あの人は僕たちの直属の上司、監察係。協会の首輪の付いた犬。…とはいっても従順かというとその点は謎だ。
ハカセに葉月ちゃんの事を伝えたあと、記憶を抹消する必要がないと最終判断したのは彼女だ。それは葉月ちゃんの保護という側面ももちろんあるけれど、彼女の特異性にハカセは注目した。これは清代と僕の推測だけど、協会には葉月ちゃんの特異性について強調せずに報告したのではないかと考えている。
なんでって、協会から深く追及されてもめんどくさいし、もしかしたら自分の魔術の研究に役立つんじゃないかって思っているからだ。自分じゃ言わないけどね。
『ほんと、あの面の皮引っぺがしてやりたいなー。その下の顔がどうなってるのか気になりません?ご主人』
嗜虐性のある顔でそういったリルカの丸い目を思い出す。
その問いに是と答えはしなかったが、ちょっと興味はあるなぁとだけ考えた。でもそんな引っぺがせそうな人物が今のところ現れていないから実現することはないだろう。
葉月ちゃんの保護について話すと言っていたから、きっと話したんだろうけどあの子が心配だ。帰ってきたらリルカからも様子を聞かなければいけない。
「…あ、はい。伺いますー」
すみませんと声を掛けられたので、清代に一度目くばせしてから注文を取りに行った。
君の箱庭 ササラヤ @clenast
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