01-03

「長谷川は信用ならないのよ」


 と、クッキーを齧りながらリルカちゃんは言った。

 長谷川さんが帰った後に冷めた紅茶を飲んでいると、何も言わず隣に座ってきた彼女の顔は不満をあらわにしている。


「その点あたしたちは信用できるでしょ?」

「ははは…うん、そうかも」

「でしょでしょ?どんどん遊びに来ていいから、お話ししに来ていいからね!」


 リルカちゃん、それはサボりたいだけじゃないのかな。

 清代さんは今度は苦笑いしながら私たちを眺めている。長谷川さんが使ったティーカップ一式はきれいに磨かれて棚の中だ。


「リルカちゃんとは関係なしにですね。いつも通り帰り道にでも寄っていただければ助かります。やっぱり葉月ちゃんの元気な顔をみると安心しますから」

「清代さん…」


 信頼って大事だよね。おんなじことを長谷川さんと清代さんから言われたとしても受ける印象が全く違うもの。長谷川さんと仲良くしたいかというとそこはまた別の話だ。特に仲良くしたいとかは思ってない。

 第一何を考えているか全くわからない人だ。あれは笑顔を顔に貼り付けてるんじゃないかってくらい。


「長谷川は怖いですか?」

「あはは。怖いというか、得体が知れないですね。魔術協会の…異形対策部ってなんじゃそりゃあって思いますよ」

「あの人も葉月ちゃんには気を遣ってるんですが、どうもうまくいかないですねぇ」

「うっそだぁ。あの何考えてるかわかんない顔なんていっつもじゃん」


 ばりばり。とクッキーがリルカちゃんの口の中へ消えていく。口の中はパサパサにならないのだろうか。


「ねぇ、葉月は結局ユウキに言ったの?」

「…………言えると思う?」

「にゃはは。言えないよねー」


 やっぱりという顔でリルカちゃんは笑った。やっぱり口の中がパサついたようで持参した水を口に含んでいる。


「言ってどうにかなるわけでもないですし、信じてもらえるわけでもないので難しいところですね。葉月ちゃんには皆情報を伝えてますけど、家族の人に伝えるかは…」


 葉月ちゃんに任せます、ということか。すまなそうな顔でこちらを見る清代さんに私は思わず苦笑した。

 もし今後何事もなく事態が過ぎ去るかもしれないじゃない。その可能性のほうが信じられるなら、言わないほうがいいに決まってる。下手に話して頭の病気を疑われたりしたときが怖い。熱でもあるのかと言われても嫌だ。


「ですね。…まぁ、言えるときに言うと思います。じゃあ私も家に帰りますね」


 正直今日得た情報を消化しないとうまい事言葉が出ないような状況だ。家に帰ろう。

 

「はい。じゃあまた来てくださいね」

「またねー」


 と手を振る2人に見送られて私は家路についた。

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