第2のセクサロイド篇

十四発目『エロの使い魔』

《次のニュースです。先月から行方不明だった小説家の東雲メメさんですが、昨日に東京都・上野動物園内で暴れていたところを警察により保護されました。東雲氏は『ジャパリパークに行きたかった』などと意味不明な言及をしており──》


「ヒマです超ヒマですヒマ過ぎますヒマ死にそうです辰兵衛さぁん!」

「うるさい。あと句読点使え」


 休日の昼間。子供のように駄々をこね始めたラビに対し、僕は呆れてため息をついた。

 彼女が22世紀の未来から遥々とやって来てからというもの、いつもこんな感じである。家にいようと学校にいようと、僕の周りでやかましく騒いでいるばかりだ。

 これで秘密道具の一つでも出せるのなら目を瞑るところだったのだが、こいつはそんな便利なポケットなんざ持ち合わせていない。唯一のアイデンティティであるセクサロイドとしての能力も、僕のアレがしないため実質的に無駄となってしまっている。

 つまり今のラビは、どっかの青タヌキ以下の金食い虫でしかないのだ。


(てかこのままじゃ、人類の存亡云々うんぬんより先に、ウチの家計が破滅の一途を辿る気がするぞ……。父さんは本当にちゃんと働いているかどうかわからないし……)


 そういえば父に仕事のことを問い質そうとしていたことを思い出したが、生憎にも彼は母さんと一緒に出掛けてしまっているのだった。

 夫婦仲が非常に良好なうちの両親は、今でも週一でデートをするくらいにはアツアツなのである。よって、留守番の僕は家のマンションでラビと二人きりだ。


「そうだ。暇つぶしにセッ◯スしましょう!」

「課せられたミッションを暇つぶし扱いするなよ……」


 と、そんな時、不意にインターホンのチャイムが響いた。

 きっと宅配便か何かだろう。『えー、誰も家に居ないしイイじゃないですかぁっ!』などと騒いで抱きついてくるラビを引き摺りながらも、僕は判子を片手に玄関へと向かう。


「しーたーいー! えっちしましょうよぉ!」

「うるせぇ、あといい加減はなせ! ……はーい、いま出ますから」


 結局絡みついてくるラビを振りほどけないまま、ドアが開け放たれる。

 そこに立っていたのは配達員のおじさん。


 ──ではなく、メイド服に身を包んだ少女だった。


「は……?」

「ほえ……?」


 予期せぬ来客を前に、思わずそんな声が漏れてしまう。

 メイド服といっても、それは所謂“アキバ系”と称されるようなゴシック・ロリータファッションのものではなく、由緒正しい純粋な仕事着としてのヴィクトリアンメイド型だった。シンプルで装飾の少ないモノクロの衣装ではあったが、それを身につける少女に“質素”といった印象はなく、むしろ包み隠せないほどの妖艶ささえ漂わせている。

 やや細っそりとした華奢な身体つきに、シルクのように白く柔らかそうな肌。黒く長い髪や吊り上がった目の印象も相まって、どこか退廃的な雰囲気を纏った美女は、うっすらとこちらに微笑みながらお辞儀をした。


「初めまして、今日から辰兵衛様のお世話をさせて頂く“ネルコ”と申します。不束者ふつつかものですが、これからよろしくお願いしますね。ご主人様♡」


「ご主人……ちょ、えぇ……?」

「あら、この呼び方はお気に召しませんでしたか。でしたら“お兄ちゃん”、“旦那様”、“ゲロ豚”など辰兵衛様のご希望に合わせてお呼び致しますが」

「メイド喫茶かよ……!?」


 あとそんなに性癖は偏ってないからね?

 ネルコと名乗った少女の突拍子もない発言に面食らっていると、やきもちを焼いたのかラビが頬を膨らませて前へとしゃしゃり出る。


「残念でしたねー。生憎ですけど辰兵衛さんのお世話係りはで間に合ってますので……っ!」

「あら、アナタみたいな三流セクサロイドは下の世話が手一杯でしょう。一流の私と一緒にしないでくださらないかしら?」

「キィーッ! 辰兵衛さんなんかこいつムカつきますー!!」

「……? いま、“セクサロイド”って……」


 訊ねると、ネルコは『はい』とにこやかに告げた。


「申し遅れました、私は22世紀の未来からによって送られてきた超高性能多機能型奉仕用セクサロイドです。ラビとは違うのですよ、紛い物ラビとは」

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