第2話


如月瑛梨奈きさらぎえりなは完璧だった。

家は某企業の社長を父に持ち、容姿端麗頭脳明晰、街で歩けば多くの人が見つめてしまう。そんな人間。

小学生までの私からすれば、「なんで自殺なんかするの?勿体ない。」なんて言われちゃうだろう。たしかに勿体ないと私も思う。だって、私は可愛いのだから。じゃあ小学生の頃の私が言うように、なぜ自殺を選んだのって?

そんなものは簡単で、すごくくだらない、不可抗力な理由。

─いじめだった。

主に女子から、学校で些細な嫌がらせを受けたり、「あの子先生に媚び売ってる。誰々先輩にも良い顔して、ビッチかよ。」とかわざと聞こえるように悪口を言われた。そんなものただの嫉妬から生まれたものだとひと目でわかるし、同時にそんな事しか出来ないなんて、なんて貴女たちは哀れなのだろうとも思った。

別に友達がいなくても勉強して、将来良い仕事についてお金を稼げば人生ハッピー。可愛い子アシストで会社も男も人生イージーモード。社会出ればいくらでもこんな低レベルな人とは比べ物にならない人が沢山いるじゃない。

だから私はずっと、1人で頑張ってきた。

そうポジティブに考えている時、私は学校で悪口言われても余裕だった。

陰口なんてただの嫉妬。負け組が私を羨むコトバ。

そんな事を言われるって事は、やっぱり私は可愛いの。だから大丈夫。

─大丈夫。




……それから何ヶ月、いや何日経ったのだろう。気づけば私はもう壊れてた。

ふふ、それはもう手遅れなくらい。

「ねぇ如月さん」と女子から声をかけられる度、私は震え上がった。怖かった。もう、怖かった。

また何かされるんだって、傷つけられるんだって。

なにがポジティブでいれば余裕だよ(笑)どこも余裕じゃなかったじゃん。

たぶんそんな気じゃない子もいたかもしれないけど、その頃の私はもう誰も信じられない。

結局私は不登校になる。

私の知らないところで陰口を言われるんだ。なんか負けみたいじゃん。なにそれダサ。なんて思ってたけどそんな思考は一瞬で崩れ去り、もう悪口を聞かなくて済むならその方が良いって思えた。ネットで知り合えば良いじゃん。知らない人に会うのは怖いけど、もう私別にどうなっても良いし。

不登校になった翌日、私はSNSアプリのTwiteに新規のアカウントを持ち、ちょっと可愛い自撮りをしてみては投稿、フォロワーを増やして優越に浸る。

なんだ、こっちの方が良いじゃん。みんな私のこと可愛いって言ってくれるし、話しかけに来てくれる。現実なんかより全然楽しい。

「会いたい」だって。ウケる。何する気だよ。(笑)

「……まぁ、楽しそうだし会って見るかぁ…」

そんな簡単な気持ちで色々な人と会った。

会ってみた後結局どうなったかは詳しく話さないけど、会って見てわかったことはみんなを見ていた訳じゃなかったってこと。

なんか突然、こんなことしてる自分に冷めてきちゃって、結果私はあの日あの橋に行ったのだ。






冒頭に戻る。



目の前にいる男の子は私が自殺しようとしていた事がまるで信じられないとでも言わんばかりの顔だった。

「仲間?だね。自殺志願の。」

自分で言っていて少し笑える。自殺志願に仲間ってあるのかな。

男の子はどうしたものかと髪をくしゃくしゃ弄ったあと、私の方に向き直った。

「……あの、どうぞ」

……?

どういう意味だろ……。

「あぁ、僕見られてるの嫌なので、先に死んでいいですよ」

「…あはっ。」

私は思わず吹き出してしまった。

そう来たか。どうぞってなに、どうぞって。

「な…なんで笑うんですか!」

「はぁー、ごめんなさい、でも、どうぞって…っ」

「笑いすぎ!うるさい!僕も言ってておかしいと思いましたよ!」

彼の顔はよほど恥ずかしかったのか真っ赤だった。

なんだかそれがまたおもしろくて、私は笑い続けてまう。

「あははっ。はー。やばい、これ久しぶりにキたよぉー」

「来なくていいわ、あんた笑い死にますよ本当。」

「笑い死ねたら本望、ふふふっ。」

「こいつ……!」

イライラとした表情をしながらも笑っている彼。

「とりあえず、もう今日は死ぬの諦める。こんな笑った後に死ぬなんてなんかもったいないしっ」

「キミ、なに?私を笑わせるとか才能あるよ。漫才でもしてるの」

未だ少し残る笑いに身を捩りながら私はそう言う。

「してないわ!売れなくて死ぬみたいな設定勝手に作らないでくれますかね!」

「ふふふ、ねぇねぇ、キミもどうせ今日は死なないでしょ?私夜ご飯食べてないからそこら辺のファミレス行こうよ。笑わせてくれたお礼として私が奢るし」

「まぁ…僕も食べてませんけど。別に自分の分くらい自分で払います。」

どうやら彼は話に乗ってくれたらしい。

大きな溜息をついた後、私の方へ歩いてきた。

「じゃ、行こっか。えーと」

「須磨稜人です…」

「りょーとくん!」



そうして、私達は街頭に照らされた夜道を歩く─。




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色彩を失った彼女と僕と。 桜之 玲 @Aoin8

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