魔術師L 【真田蓮斗物語】

SanadaRento

第1章 〜逃走編〜

《登場人物》

真田蓮斗

真田蓮二(蓮斗の父)

真田ソフィア(風魔法&蓮斗の母)

謎の男


《目次》

1: 魔術教団

2: 奴らが来る

3: 勇気

4:剣士VS剣術士

5: 敗北

6: 精霊使い

7: Stalling~時間稼ぎ~

8: ポータル



始まり

この世には人殺し集団が存在する。

集団の名は魔術教団である。

教団の目的は、世界を支配する事だ。

だから教団は次から次へと人々を殺す。それはまるで狩りのようなものだ。獲物と狩人の関係...食う側と、食われる側。狩人は、当然獲物よりも強い。力がかけ離れすぎて抵抗しようにも抵抗できない。狩人は見つけた獲物は絶対に逃さない。彼らに見つかったら、絶対に生き残る事は出来ない。

大人も子供も関係なく、躊躇なく殺していく。獲物に子供も大人も関係ないのである。

教団は、白火始の街や村を順番に襲い、一週間もしない内に白火始を滅ぼした。ただ1つの都市を除いて。白火始は人口の8割以上を失った。

国が滅ぼされたのは、これが初めてだった。


2:奴らがくる


カンカンカンカーン!!

鐘の音で目が覚めた。

見張り塔にある大きな鐘だ。非常事態の時になるらしいが、何かあったのだろうか?


部屋を出て、リビングに向かった。

リビングには父さんと母さんがいた。

父さんは騎士団の防具を身につけており、手には剣を持っていた。父は剣士である。村の中では右にでる者は居ない、かなりの実力だ。

「蓮斗!今日は許すまで家をでるな」

いつもと雰囲気が違う父さんに驚き、何が起こっているんだと思った。

父さんに聞こうとしたが、すぐに出て行ってしまった。


「蓮斗、今起こっている事を話すから、落ち着いて聞いて。」

母さんが言った。

父さんもそうだったが、母さんもかなり焦っている様子だ。そうとうヤバイ事が起こっているんだと思った。

「荒石村に、魔術教団が現れたらしいの」

「荒石村...魔術...きょう.....だん...」

魔術教団は襲った所の住民を、皆殺しにすると言われている、人殺し集団だ。人々は皆、魔術教団を恐れている。それが荒石村に現れた。

荒石村は、俺が住む龍鳥村(りうむら)の隣の村である。もうこの村にも来ているのではないかと、不安になった。


「この村には現れていないけれど、来た時の為に父さんは警備に行ったわ。」


村には来ていないと知り安心した。

だが現れるのではないかと思うと、怖くてたまらなかった。


「魔法使いは結界を張る様に命令が出されているから、母さんも今から出かけるけど、父さんも言った通り絶対に家から出ないでね。」


俺はうんと頷いた。

母さんは、壁に立て掛けていた魔法の杖を持って出て行った。


母さんは魔法使いだ。だから俺は魔法使いとのハーフである。

ハーフであっても魔法は使えるらしいが、なぜか俺は魔法を使う事が出来ない。魔法には5つの属性があり、魔法使いはどれか1つに属していて、生まれた時に専門の魔法使いが判断する事になっているが...。俺はどの属性にも属していないという結果がでて、魔法は使えないと判断された。かなり珍しいタイプであると言われた。珍しいにもプラスの意味とマイナスの意味があるが、どう考えてもこれは後者だ。俺は運が悪すぎる!


母さんが出て行ってから、少し時間が経った時、本棚の方を見ると、ふと魔法の本が目に入った。


その本を手に取り、椅子に座った。


パラパラっとページをめくって行くと、

属性の記述があった。

魔法には、炎、水、土、雷、風の5つの属性があり、魔法使いはこの内1つ以上の属性の魔法を使える。2つ3つの属性の魔法を使える魔法使いもいるのだ。

いうまでもないが、俺は1つの属性も使う事が出来ない。


もう少しページを進めると、「マナ」について書かれているページがあった。

マナをとは、簡単に言えば魔法を繰り出す時に使うエネルギーの様なものだ。魔法使いの体にはこのマナが流れている。

人によってマナの量が異なる為、くりだせる魔法の量も人によって違う。

母さんに俺の体にもマナは流れていて、通常の人の数倍あると言われたが、魔法が使えない俺にはあまり嬉しく思えなかった。

俺が魔法が使えないのは、どの属性にも属していないので、マナを体から出す時に、うまくマナの形質を変化させる事が出来ないのが原因だそうだ。


そしてまたパラパラとページをめくっていると、魔法使いの種類についての記述があった。

魔法使いにも色々なスタイルがあるのだという。一般的には杖を使って魔法を繰り出すが、他にも色々と魔法の繰り出し方があるのだと言う。

例えば、マナを剣に流し込み、剣に特殊効果を与えたりできる、魔法使いと剣士の中間の役職の「剣術士」や、笛を使って魔法を繰り出す「笛使い」がいるらしい。その他にも色々と書いてあるが、少し見てまたページを進めた。


すると精霊について書いてあるページがあった。

人間には精霊と意思疎通ができる人がいる。一般的には「精霊使い」と言われている。精霊を使って魔法を繰り出す事もでき、魔法以外でも色々な使い方が出来るらしい。精霊使いになるには、精霊に選ばれる必要がある。

ちなみに母さんはこの精霊を使う事ができる精霊使いである。魔法同様俺は精霊も使えない。というか、精霊使いは遺伝するものではないらしい。

精霊は使い主の死を感じる事ができ、それを感じると、次の使い主の元に行く。

その際に精霊に選ばれた者は、精霊使いになれるのだと言う。


かなりの時間本に集中していた。


俺は本を閉じ、本棚の元の位置に戻した。

外に出るなと言われ、他にやる事がなかったので、他の魔法に関する本を探した。

「陽魔法...陰魔法...?」聞いた事がない単語の載った本があった。

ちょっとした興味本位でその本を手に取った。

そして表紙を興味津々に見ながら、さっき座っていた椅子に腰掛けた。


表紙をめくるとそこには、古文で書かれた物語りのような物が書かれていた。

「一人の魔術師あり。その者魔術の道に優れけり。その力万力を優に超え、

禁断の魔術を使い世を己の物にせんとした。世の人半数となり、あらゆる国滅びる。

そこに陰と陽の魔法が使えし二人現れん。その二人、魔術師の使えぬ魔法を使い、魔術師の陰謀を止めん。」


ページをめくると、300年前の予言者が残した予言だと言う事が書いてあった。


「一人の魔術師が、世界を己の物にしようとする?陰と陽の魔法を使える二人?」


バタン!

玄関から誰かが入ってきた。

「蓮斗?」

母さんだ。リビングに入ってきた。

「何してるの?」

俺は咄嗟に本を隠した。だが、もう見られた後だったようで

「それ...陽魔法と陰魔法の本?」

俺はうんと頷いた。

「別に隠さなくったっていいのに」

母さんは笑いながら言った。


俺は顔を赤らめて、俺は隠していた本を出し、母さんの前で読むのは照れくさいと思い本棚にしまった。

結局、陽魔法と陰魔法の事を知る事はできなかった。まあまた母さんや父さんのいない時に読もうと思った。


「もう結界は張ったから、指示があるまではここにいるわ」

「分かった」


外を見ると、ピンク色の結界が見えた。

これで魔術教団はもう村には入ってこられないのかなと疑問に思った。

母さんに尋ねると。

「人為結界じゃないから絶対に入ってこられないという事ではないわ」

「人為結界?」


「人が常に結界を張り続けるのが、人為結界。でも、人為結界を使えるのは、上級レベルの魔法使いで、人為結界は最低でも四人は必要だから....」


「母さんは上級の魔法使いなの?」


「私は上級で結界も作れるけど、この村の魔法使いは、下級や中級ばかりだから、この村では人為結界は作れないの」


でも、結界石による結界も破るのは難しいと聞いて、少し安心した。


少しの間二人とも黙っていた。


ふと陽魔法と陰魔法の事が頭を過ぎった。

俺が母さんに尋ねようとした。

そのとき!

「カンカンカンカンカーン!」

見張り塔の鐘がなった。


「来た!」母さんが言った。

俺はまさかと思った。

恐れていた事態が起きたのである。


母さんは杖を持った。

「地下室に行きなさい」

そう言い、母さんは家を出て行った。


俺は今までに感じた事のない恐怖を感じた。窓から外を見た。

「結界が....」

俺は急いで地下室に向かった。


3: 勇気

私は急いで正門に向かった。ついに魔術教団が来てしまった。

結界は大量の魔法で攻撃されていた。

だが、まだ結界は壊されてはいない。

結界石の結界は、かなり強い魔法で攻撃されると壊れる。小さなダメージが蓄積されて壊れるという訳ではなく、強い一撃を与えると破壊されるのである。


正門に着くと、村中の魔法使い、剣士達が集まっていた。そこに蓮二(蓮斗の父)の姿があった。


「ここを突破されたら、連中に村の侵入を許してしまう事になる!絶対にここを通すな!!」

「おお!!」

蓮二の声にみんなが答えた。

村に入れたらこの村は終わりだ。

絶対に食い止めないと!


「ソフィア!魔法使いのみんなに門の上から、戦闘をサポートするよう言ってくれ」(ソフィア=蓮斗の母)

私は分かったと頷き、魔法使いのみんなに門の上に移動するように言った。


剣士達は蓮二の指示で、結界の近くで待機していた。


こちらはの剣士の数は30人前後、魔法使いは13人である。


対して教団は約30人である。


教団は全員魔法使いである事を考慮に入れると、やはりこちらの方が不利だという事が分かる。


だが、この村には蓮二がいる。

蓮二は魔法を使う事が出来ないが、剣士としてとても優れているし、魔法使いとも互角、いやそれ以上に戦う事が出来る。


教団は結界への攻撃を絶え間なく続けている。だが、教団はまだ結界を壊せる様な攻撃をしてきていない。

結界を壊せる魔法攻撃は魔法ランクA以上の魔法である。魔法ランクとは、魔法の威力や、習得難易度を表している。

ランクは上からS〜Eである。


ランクAを習得出来るのは、上級の魔法使いなので、単純に考えれば結界を攻撃している教団の中には、上級以上の魔法使いはいないという事になるが、上級でも使えない魔法使いもいる為、全員が下級、中級だとと言い切る事は出来ない。


教団は結界を攻撃し続けている。

だが、まだ壊れない。


その場に居る者全員が安心仕掛けたその時だった...


ずっと続いていた教団の攻撃が止まった。すると後ろから一人の男が現れた。

男は剣を取り出し、それを天に向けた。

「あれは...?」


男の背中から赤いオーラの様な者が出てきている。

あれは...マナだ!!

そう言えば聞いた事がある。

魔法使いで、マナを体全体からだし、通常以上の魔法力を出せる者がいる事を。


剣を持って、魔法を使えるという事は...

あいつは剣術士だ!


剣術士は剣にマナを送り込み、剣に特殊効果を与えたり、杖の代わりに剣を用いて魔法を放つ。よって接近戦、長距離戦が共に優れている。


オーラは男の背中から腕、剣にかけて広がっていく。剣がオーラに包まれる。

男は剣を結界に向けた。


すると急に視界が真っ白になった。

あまりの眩しさに目を閉じた。目を開けると、目がぼやけていて何も見えない。


段々見える様になっていく。

「けっ...結界が....」

得体のしれない魔法によって、結界が破られた。結界はまるでガラスの様にパリーんっ!と割れ、粉々になって落ちていった。


何の魔法かは分からないが、急に視界が真っ白になり、気づけば結界が破られていた。


教団は歩いて、刻一刻と村に近づいて来ている。


魔法使いの中には、あんな奴に叶う訳がないと思っているのか、絶望を顔に出している人もいる。それもしかたない。

剣術士で、あのレベルの遠距離魔法も使えるのだ。ここに居る魔法使いとは、実力が違いすぎる...


魔法使いだけでなく、剣士達も不安の顔を浮かべている。

「お前ら!!何をビビっているんだ!」

蓮二が叫んだ。皆が蓮二に注目した。

「蓮二...」

「ここを突破されたら村は終わりだ!我々が食い止めるんだ!ここで負けたらみんな死ぬ!家族や友人、この村をあいつらに殺らせてもいいのかっ!嫌だろ!

我々には皆を守る義務がある!ならば我々がやるべき事は、我々の力の全てをぶつけるだけだ!」


そうだ、結界が破られても、まだ負けた訳じゃない。ここで奴らを食い止める!そして、蓮斗を絶対に!


「みんな!目に光を灯せ!自分の全てをぶつけるんだ!」


みんなの様子が変わった。蓮二の言葉で皆の心が動いた。

『殺らなかったら殺られる』

これが命をかけた戦いだ。


「お前らーっ!俺に続けーっ!!」

蓮二の声で結界付近にいた、剣士が魔術教団に走っていった。


魔術教団が杖を構えた。走ってくる剣士達に向かって魔法を放つ。


「うわぁ!!」


魔法が次々に剣士達に直撃していく。

魔法のスピードは早すぎて、避けようと思っても簡単に避けられない。

こちらの魔法使いも遠距離攻撃を放つが、相手の攻撃の邪魔は出来ても、敵に攻撃が当たらない。


1回目の攻撃で、剣士の半分以上が倒れた。2回目の攻撃で蓮二が集中攻撃を受けた。だが蓮二の動体視力は、ズバ抜けており、素早くそれを避ける。まるで魔法を使うよりも先に魔法の来る位置を予測して動いているようだ。これが村を背負う剣士の実力だ。


蓮二が一番先に魔術教団の中に突っ込んでいった。

次々に敵を倒していく。敵の攻撃を華麗に交わす。魔法使いは基本的に、中距離や遠距離の攻撃が中心である。よって接近戦であれば、一気にこちらが有利になる。ただ、あの剣術士を除けば。


だが、剣術士の男は集団の後ろにおり、全く戦おうという様子は見せない。


蓮二に続き、次々に他の剣士も魔術教団に突っ込んだ。

だが、もう剣士の数は10人も居ない。


剣士達の猛攻が続く、魔術教団が次々に倒れる。だが魔術教団も負けずと魔法を繰り出す。接近戦では剣士の方が有利だが、魔法にも接近戦用の魔法がある。

1人の男が空に向かって杖を向け、魔法を放った。

「あれは...雷魔法!」


バーーン!!大きな音とともに空から雷が降り注いだ。


「あああああああぁぁぁぁぁ!!」


次々に剣士に直撃した。蓮二の上から雷が降り注ぐ。だが、間一髪の所で避けた。

この攻撃により、蓮二以外の剣士が全員倒れた。30人以上いた剣士達が、蓮二を残し、全員殺られたのだ。


「嘘だろ....もう無理だ!!逃げろー!」

門の上にいた魔法使いの1人が逃げ出した。他のみんなも絶望の顔を隠せずにいる。


教団の中の4人が四角形になり、蓮二と剣術士の男を囲むようにして立った。

まさか!!


「あれは...........人為結界!!」


まさか、上級レベルの魔法使いが4人以上もいるの?

4人は杖を構え、結界を作りだした。

蓮二は結界に閉じ込められてしまった。

結界石の結界は、一度に強力な魔法を打ち込めば破れるが、人為結界は結界に直接攻撃を加えても破れことが出来ず、術者の内、ひとりでも殺れば、結界が破れる。だが、術者は全員結界の中から結界を作っているため、外から止める事が出来ない。よって蓮二は完全に閉じ込められてしまった....

「蓮二....」


4:剣士VS剣術士

「あーーーーーーなた、なかなーーかやりまーーーーすね。」

男が声を発した。変な話方だ、とても不気味に感じられる。


「あーーーーなたはこのむーーーーらのようじーーーんぼうといったところーーでしょうか。ぬっフッフゥ。」


さっき剣を使って、魔法を繰り出していたから、恐らく剣術士だろう。あんな魔法を使える奴は見た事はない。魔法力で言うと、ソフィアの数倍以上だろう。

剣術のレベルは分からないが、気を抜いたらやられる。俺が負けた瞬間、この村は終わりだ。

『こいつを倒して絶対に村を守る』


「ここは絶対に通さない!!」

「でーーは、そろそーーーろいきまーーすね!」

そう言うと男の体から赤いオーラが出てきた。さっきと同じだ。オーラは徐々に拡大していき、拡大が止まった。


すると男が突然に襲い掛かってきた。

蓮二はこれを交わした。

「あなーーーた、本当にたーーーだの剣士でーーーすか?素晴らしい反応でーーーーすね。ぬっフッフゥ。」


男の攻撃が続く。蓮二も攻撃の隙を伺っているが、攻撃スピードが早すぎて、全く隙がない。

これが剣術士の実力。

クソ!スピードもパワーも桁違いだ。このままだと遅かれ早かれ、殺られる!


男の攻撃が続く。それを交わすが、やはり全然隙がない。まずい!

だが今は避けるだけしか出来ない!


段々攻撃のスピードに慣れてきた。

攻撃が良く見える。戦っている時、時々相手の攻撃が良く見える時がある。

攻撃に意識の全てを集中させる。

すると、まるでここを攻撃にしろと言わんばかりに、剣(蓮二の)の先から男の腕に掛けて、白い光が見えた。無我夢中で光に沿って剣を振り下ろす。


バシィ!!

「ああああああぁぁぁぁぁぁ!!!」

男の腕が地面に落ちた。男は痛そうに腕を抑える。


「ぬっフッフゥ......魔法使いでもないのに僕の腕を切り落とすなんて、あんた凄いなぁ。」

口調が変わった。

「ではそろそろ本気でいきます。ですが

その前にあなたの名前を教えて下さい。」

「真田...蓮二だ。」

「さなだれんじさんですか。あなたの様な方と戦えてとても光栄です。」

もっと戦いを楽しみたいですが、もうそろそろ殺らせていただきますね」


男から出ているオーラが更に拡大していく。まるでオーラが意思を持ち動いているかのようである。オーラが剣全体を包みこんだ。剣から炎が出てきた。

これが剣術士の能力だ。剣にマナを送り込み、特殊効果を与える。


「じゃあ、もう終わりにしましょう」


男が襲いかかる。先ほどのスピードを遥かに超える早さだ!


バシィィィィィ!!

「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

なんだこれは、熱い!熱い!!


バタンッ!!何かが落ちた。下を見ると剣が落ちていた。

「ああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」

剣と一緒に自分の腕が落ちているのが見えた。

「腕が!腕をがあああぁぁぁぁ!!」

蓮二の腕は無残にも切り下ろされていた。それも両腕が。


「さあもうおわーーーーりですよ」


「うっ!」

背中から思いっきり刺された。胸を貫いていた。バタン!!蓮二はその場で倒れた。

「れんじーーーっ!!!」

ソフィアの声が聞こえた。


みんな、この村を守れなくてごめん。

みんなの村を、みんなの大切な家族を、守れなかった....本当にすまない。


わがままかも知れないけど、蓮斗を...蓮斗だけでも...守ってやってくれ。ソフィア...頼む。


そして真田蓮二は倒れた。


「でーーは皆さん、狩りの時間でーーーーすよ。ぬっフッフゥ。」


結界が解かれた......


5: 敗北

「蓮二が...死ん..だ...」

門の上にいた魔法使いは驚きと、ショックを隠せない様子だった。

中でも一番驚いていたのは、ソフィアである。

「れんじーっ!!!」

村で一番強い男が、殺された。

これは、朝日村の敗北を意味していた。

魔法使い達は逃げ出した。


急がないと!蓮斗がっ!

蓮二!!あの子だけは、あの子だけは

「絶対に守る!」

きっとあの人もそれを望んでいる!

最愛の人である蓮二の死の悲しみもあったが、ソフィアは蓮斗を守る事を優先させた。


こうして朝日村は魔術教団の進出を許してしまった。


家の地下室に急いで向かった、すべては蓮斗を守るため、あの子だけは絶対に殺させない!


地下室に居ても見つかる可能性がある。絶対に助かる方法を考えないと!


一番確実なのは、この村から出る事だ。

村の山の頂上には、ポータルがある。ポータルを使えば、他国に逃げることが出来る。でもマナを持たない人はポータルをくぐれない。だから村の人達をそこから避難させる事はできない。蓮斗は魔法は使えないけどマナはある。ポータルを使って逃げる事が可能だ。


家に着くとすぐに地下室に向かった。

だが地下に蓮斗の姿はなかった。

蓮斗.....どこに行ったの?

人の気配を感知する魔法を使った。

目を閉じて、気配を感じることだけに集中する。だが気配はない。

心配になり名前を呼んだ。

「蓮斗っ!」

「母さんっ!」

蓮斗が飛びついて来た!!

驚いて気を失いそうになった。

蓮斗は、階段の陰に隠れていたのだ。

全く気配を感じなかった。そう言えば、昔から、隠れるのが上手かったような気がする。そういう能力でもあるのだろうか?

もしかしたら、ここにずっといた方が、安全なのかもしれないと一瞬思ったが、

魔術教団の能力を持ってすれば、見つかるかも知れないと思ったので、脱出する事にした。


私は、金庫の中のお金を出来るだけ持ち、蓮斗を連れて家を出た。


家は正門から、相当離れた場所にある為、まだここまでは来てないらしい。


これなら逃げられる!そう思いつつも、警戒を怠ってはダメだと思い、急いで山の方に向かった。


6:精霊使い

母さんが戻って来てくれて、とても安心した。

ただ魔術教団や父さんの事が凄く気になっている。母さんが出ていった後、外を見たら、結界が破られていた。とても不安になった。

でも母さんの急いだ様子を見て、聞き出そうにも聞き出せない。

ただ、母さんは山の頂上に行くと言っていた。昔あの山に行ったら迷子になって母さんに迷惑を掛けてしまった事があるが、今はどうでも良い。とにかく母さんの言うように、山に向かおう。


母さんが俺の手を握った。すると周りに風が吹き、段々強くなって行く。

すると、母さんが走り出した。俺もそれに付いて行く。母さんは風の魔法使いだ。その為すごく足が速い。そこだけは俺も似て、走るのは得意な方だ。

だが、得意と言っても、魔法を使って加速して行く母さんには敵わない。

「かっ!かあさん!早すぎる!!」

流石に足が付いてかなくなったため、少しだけスピードを落としてくれた。

あのスピードで走り続けたら、何本あっても足が足りないと思わせる程のスピードだった。


山の入り口に入った。

山道を走ると危険だから、走るのをやめて、早歩きで進んだ。

母さんは周りを常に気にして、凄く警戒している様子だ。


随分山奥まで来た。

「はぁ、はぁ、母さんっ、後どのくらい?」

息が苦しすぎて死にそうだ。

それに比べ母さんは、荒い呼吸はなく、平然とした顔をしている。

「後半分くらいかな?」と苦しそうな俺を見て苦笑いを浮かべて言った。

流石に可哀想だと思ったのか、腰を下ろして背中をこちらに向けて

「乗りなさい」と言った。

俺はもう次期12歳になるのにおんぶかよ!と思いつつも、もう歩く力は残ってないと分かっていたから、照れ臭かったが母さんの背中に乗った。

「よいしょっ!」何だか懐かしい感じがする。前にこの山で迷子になった時も、おんぶして帰ってもらっていた事を思い出した。


母さんは俺をおぶって、笑顔を浮かべた。そして歩き出した。

さっきよりも速いペースで進んで行く。


そしてしばらくすると、広間に出た。


「ぬっフッフゥ。やーーーっと見つけまーーーした。」

男のものと思われる高い声が聞こえた。

きみの悪い声がだった。

後ろを振り向くと、大きな剣を持った、例えるなら死神の様な男が立っていた。なぜだか左腕が切り落とされている。


「ニーげようとしても、むーーだですよ。あーなたたちは、ニーげられない。」


「あなたは!どうして分かった!?」


「えーーー物は、ひーーーとりもにがさなーーーーいよ!ぬっフッフゥ。」


「かあさん!!この人は、誰なの!?」

かあさんは俺を下ろした。


「あーーーれ?あーーなた、どーーこかで、みーーたかーーーおですねー。

はてはて?どーーこかであーーーたことあーーーりますか?ぬっフッフゥ」


何言ってんだこいつ!?まさか!魔術教団のやつか?


「おーーーもいだしました。あれ?あれあれあれあれあーーーれ?でもあなたはこーーーろしてやったと思うのですが?

はてはて?どーーーゆーーことですか?」


殺してやった?どういうことだ?


「あーーーなーーーるほど、あーーーなたもしかして、あーーーの方のおーーーこさんですかーー?あーーのけーーんしのかたでーーーすよ。さなだーれーーんじさん、ちーーがいますか?」

剣士?...あの方のお子さん?真田蓮二?

父さん?殺してやった?

何を言っているんだ?


「こいつが蓮二を殺したのよ」


えっ?父さんが殺された?


「何言ってんだよかあさん!そんな訳ないじゃないか!?」

父さんがこんな奴に殺される訳がない!

父さんは村で一番強い剣士だぞ!!


かあさんはそれ以上は何も言わなかった。


「そーーれでは、こーーんなところでなーーがばなしはなんでーーーすので、そろそろしーーーんでクーーださい」


そう言うと男は襲いかかってきた。

このままじゃやばい!でも体が動かない。しっ、死ぬっ!


「ペトラ!!」

かあさんの声が聞こえた。

すると目の前にシールドの様なものが現れた。


「間一髪だったね、ソフィア」


目の前に現れたのは小さな狐

それに言葉を話している。

状況が理解出来なかった。

「えー!ソフィアこの子ってもしかして蓮斗?大きくなったね♩」


俺の事を知っているのか?でも俺は全く見たこともない。


「初めまして蓮斗♩私はペトラ!よろしく」


ごくんっ!と唾を一回呑み込んだ。


「あんまり状況読み込めてないみたいだけど、とにかく今は逃げるのが先決だね。あんなに殺気立ったおじさんは久しぶりに見るしね♩」


「あーーーれ?せーーいれいさーまではあーーりませんか?じゃーーーまをしーーーないでくーーれませんか?」


せいれい?この狐は精霊なのか?


シールドは半球の形で、とても強力なため、外の男は入ってこられなくなっている。どうやらこの狐の精霊出したシールドらしい。


「蓮斗!今からシールドを破るから、敗れた瞬間、走って逃げるのよ!絶対に振り向いちゃいけない!とにかく逃げるの!あとこれを持って行って!」


かあさんはお金などが入ったバッグを渡してきた。


「母さんは?どうするの?」


「ここで時間を稼ぐ!そのあい」

「いやだよ!母さんも一緒に!!」


母さんは何も言わずに、俺を抱きしめた。そして最後におでこにキスをして、

俺の顔を見て笑った。


「ペトラ!蓮斗だけだとポータルは開けないと思うから一緒に行ってあげて。」


「もちろんだよ。ソフィアの為なら」


「どれだけ時間が稼げるか分からないけど、やれるだけやるから」


「うん、ソフィアならできるよ」


「待って!!母さんを残して俺だけで逃げる事なんて出来ないよ。こいつは父さんを殺したんでしょ!だったら母さんも殺されるかも知れないんだよ?

ねえ!!かあさんっ!!」


「蓮斗...」

目から熱い物が流れて来るのが分かった。母さんを見ると、母さんも涙が出るのを堪えている様子だった。

「蓮斗!!母さんは、蓮斗の事がこの世で一番大切。一番大好き!蓮斗だけには絶対に死なれたくない!だから私は...私はあなたを守る為なら、蓮斗の事が守れるんだったら、何だってする!死ぬのが分かってても、私は蓮斗を守る!だから、蓮斗...絶対に生き残って、絶対に!絶対に!!」


俺は母さんに抱きついた。そして涙を拭いて、母さんに出来る限りの飛びっきりの笑顔を見せ、母さんに背を向けた。

「母さん、俺も大好き」



「じゃあ、シールドを破って!」


パラーンッ!シールドが破れ、パラパラと舞い、地面に落ちるより前に消えた。


俺は山頂目指して駆け出した。母さんが時間を繋いでくれる。俺は絶対に生き残る。大好きな母さんの為にも。


7: Stalling~時間稼ぎ~

シールドが壊れたのと同時に、蓮斗が走り出した。それをペトラも追いかける。壊れても逃げずにここから動かないのでは無いかと、少しでも考えた自分が恥ずかしかった。

あの子は本当に強い子だ。

蓮二、私とあなたの子は強い子に育ったよ。本当に、本当に!


「ひーーとりにーーーーげてしまいまーーーしたね。まーーーあ、すーーーぐにおーーーいつきまーーーすけど」


「絶対にここは通さない!!」


「あーーーーのひーーともそー言ってまーーしたねー。けっきょくーーーは、とーーーらせてもらいまーーーしたがね」


「そーーーれでは、はーーーじめましょう」


そう言うと男の背中から、あの時と同じ赤いオーラが出てきた。


そして徐々に拡大、拡大が止まった。

くる!

男が襲いかかってきた。やっぱり速い。

魔法を使って避ける。魔法を使ってこんなにギリギリなのに、蓮二はよく避けていたなと思い、やっぱり蓮二は凄いと思った。


次の攻撃がくる、これも魔法を使って避ける。まだ、剣にマナを送っていない。

マナを送ってからが勝負だ!


避けているだけではダメだ。攻撃しないと!

マナを放出し、杖を振る。すると男を囲む様に、竜巻が起こる!


「ぬっフッフゥ!」

男が剣を振った

すると竜巻が消えた。

「かーぜでおーーーあそびですーーか?

こーーのていどのまほーーはつーーようしーーーませーーーんよ♩」


剣を一振りするだけで、魔法が消えた!?レベルが違いすぎる。

今の魔法は魔法ランクB。私が使える一番ランクが高い魔法だ。それがこいつには通用しない。


「そちらのこーげきはもーーーおしまいでーーすか?ではこーーちらからいーーきますね♩」


男が剣を天に向かって伸ばした。

そして何か呪文の様なものを唱える。

すると剣にマナが流れ出した。そして剣からは、熱くそびえ立つ炎が出てきた。


「いーーきまーーすよ♩」


再び襲いかかってきた。やはりさっきよりも速い。魔法で避ける。剣が空を切りながら、炎を放つ。

やはり片手がないせいか、蓮二との戦いの時よりも、隙が多いし、スピードもそこまで上がってはいない。


男が再び襲いかかる。それはまた魔法を使い避ける。するとこれ以上にないくらい男に隙が生まれた。


「ここだっ!」


足にマナを流し込み、男を囲む様に走る。どんどん加速する。杖を使い、より大きい風を起こす。するとさっきよりも大きな巨大な竜巻が起こる。


男が剣を振るう。だが竜巻は消えない。

成功だ!

ソフィアは竜巻から離れ、杖を使い、竜巻の強度をあげる、男は何もできずに竜巻の中にいる。男がどんどん上に上がっていく。一番高いところまで行ったところで、竜巻を消す。

男は30メートル以上の高さから落ち、地面に叩きつけられた。


かなりの威力だ!


だが.....

「ぬっぬっぬっ!ぬっフッフゥ!!

面白い!面白いぞ!お前!!Bランク魔法を他の魔法と組み合わせ、Aランクレベルに威力を上げるとはな。素晴らしい!」

口調が変わった。

「やっぱりいいな。この感じ。俺の大好きなこの感じだ。真田蓮二の戦いも面白かったが、お前も面白いなぁ。こんな小さい村で2人も面白い奴と出会えるとはな。ぬっフッフゥ!ぬっフッフゥ!誇りに思え、お前は特別、特別に名誉ある殺され方をさせてやる」

「その前に、名を教えてくれ。面白い奴の名前はいつも聞くことにしているんだ」

「真田...ソフィア」

「ほう、蓮二さんとは夫婦と言う関係ですか?そしてあの子はお子さんですね?」

「そうよ」


「そうか、ぬっフッフゥ。じゃあそろそろ行くぞ!!」


雰囲気が変わった。なんだかわからないけど、まずい...


ピカッ!周りが一瞬光った。


お腹の辺りが熱い!目がチカチカしてよく見えない。段々視力が回復していく。強烈な吐き気がする。気持ちが悪いし、何よりお腹が..熱い!

徐々に視力が回復し、段々お腹が見える様になってきた。

私は自分の目を疑った。上半身に大きな穴が空いている。

私は倒れた。男は私をまたいで、蓮斗の方へ向かっていった。

「絶対に蓮斗だけは....絶対に.....」


ソフィアの体からマナが溢れ、オーラとなって体外に放出されて行く!

こっこれは!あの男と同じだ。

力が溢れる、腕を男を目掛けて伸ばす。

ぜったいに蓮斗には近づけさせない!

腕にマナが集まるのが分かる。今までにない高密度のマナだ。杖を使わずに魔法が出せそうな気がした。魔法使いの階級で3つの階級を超える、超級が存在する。超級ランクになると杖などを使わず魔法が放てる。杖は魔法を出すのを助ける役割があるが、マナが杖を通る間に、僅かに杖に吸収されてしまい、魔法の力が落ちる。だが腕から出すことによって魔法を劣化させず、最強の魔法力が出せる。

死の間際、ソフィアは超級の魔法使いになった。

残りの全ての力を使って、男に向かって魔法を放った。


凄まじい威力の風魔法だ!威力はAランク以上だ!!

まるで刃物が激しく擦り合わされる様な音を立て、魔法が男に向かって進んで行く。このまま行けば、上半身直撃で一撃で殺せるような威力である。

だが男はそれに気づき交そうとした。

だが男よりもスピードが優っていて、男は避けきれず、右腕に直撃した。

バタンッと音を立て、男の残る右腕は地面に落ちた。

「あああああああぁぁぁぁぁ!!!」


「とっとどめを刺しておくべきだったなぁ。全く、腕を両方ともやられるとはな。まああなた達のお子さんはもう諦めざるを得ませんね。ですが、おこさーんはぜったーーーーーいに殺しまーーーすからね。ぬっフッフゥ。」

男は村の方に向かっていった。


やった。蓮斗を守れた。蓮斗.....

蓮斗、蓮斗、蓮斗、蓮斗.....蓮斗!!

涙が出てきた。もう会うこともできないんだね。私と、蓮二の蓮斗...


蓮斗..生き延びて!強くなりなさい!

魔術教団に負けないくらい強くなって!

強く生きて!

「蓮斗っ!」

目を閉じる。目の前に蓮斗と蓮二と私が幸せそうに暮らす様子が浮かび上がってくる。そして段々暗くなっていく。視界が真っ暗になった。蓮斗....

ソフィアはゆっくりと息を引き取った...


8:ポータル

俺は走った!走り続けた!母さんの為にも、絶対に生き延びる!


山の山頂に着いた。そこには大きな門があった。

「これが母さんが言っていたポータルか」

「蓮斗、今からポータルを開くから周りを見張っててね」

俺は周りをみた。山頂からだと村が良く見える。村は炎の海の様だ。

「これが...魔術教団...」

もう村は滅んだ。1日も経たずに...。


「蓮斗....ソフィアが今亡くなったよ」

「母さんが...」

覚悟はしていたけど、母さんが殺された。言葉がでない。悲しいなんて言葉では表しきれない。

寂しさ、悲しさ、悔しさ、憎さ色んな感情が複雑に混ざっている。


「私、次は蓮斗と一緒にいるよ」

精霊は主人が死ぬと、次の人に就く。この時選ばれた人は、精霊使いになれる。


俺は精霊使いになった。


「蓮斗!ポータルが開いたよ!」

「うん」


もう一度村を見た。俺は心の底から魔術教団が憎いと思った。大切な村を、父さんや母さんを...

俺は絶対に魔術教団を許さない!

俺が魔術教団をぶっ潰す!!


そして俺はポータルの中に入った。


俺は生き延びた。


そして俺は、魔術教団を滅ぼすと決めた!これ以上悲しみを生まない様に!

俺は父さんや母さんの様に、いやそれ以上に強くなる!

魔術教団を滅ぼす為に!































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魔術師L 【真田蓮斗物語】 SanadaRento @RentoSanada

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