ヤリ目の男

ゆるふわオンライン

第1話逮捕

 男は悩んでいた。

 真夜中の街にて。

 ーーーー皆目見当が付かぬ。

 男はスマホを握りしめ、画面を注視していた。

 表示されているのは、所謂出会い系アプリ。


 男の名は、槍間やりまクリスティー。

 思春期あたりからのアダ名は……。

 なんというのか、そのままのアダ名をつけられていた。

 その名を、しかし槍間は気にしてはいなかった。

 問題は、槍間の実情にあった。

 全然まったく、ヤレていないのである。

「俺、ヤリマクリスティーじゃないじゃん……」

 槍間は、限界であった。

 今年で25歳になる。

 四半世紀生きて、ヤれてないんじゃあもうダメかもしれない……。

 気がつけば涙が頬を伝っていた……。

 しかし、そんな槍間にも、救いの手は差し伸べられていた。

 友人Ⅰ。

 その人こそが、槍間のアダ名の提案者だった。


「槍間~。最近どうよ? ヤってるか?」

「……わかってるだろ? 悲しくなるからその話はヤメてくれ……」

 久しぶりの友人Ⅰはいつもの口調だった。

 学校を卒業しても友好関係にあった二人。

 槍間はいつもあいさつのように、その質問を投げかけられる。

 だから、慣れっこだったし、スルーしようとした。

 だが、その日の友人Ⅰはいつものあいさつでは終わらせなかった。

「ごめんな」

「えっ?」

「俺がヘンなアダ名をつけたばっかりに、槍間はいらん気苦労を背負ってんじゃあないかって、時々考えるんだよ……」

「…………」

 すぐに言葉が出なかった。

「それでさ、考えたんだけど……」


 友人Ⅰは信頼できる出会い系アプリを槍間に教えた。

 問題はそこからだった。

 めぼしい女性をみつけて、プロフィール画面にて。

 槍間の動きは止まってしまった。

「ヤリ目はNG?」

 ーーーーヤリ目とは何だ。


 槍間は悩んだ。

 ーーーー皆目見当が付かぬ。

 しかしなんとか想像力を働かせることにした。

 ヤリは恐らく、槍のことだろう。

「なんで槍なんだ? まさか、槍間か? いやいや、しかし」

 まさか現代に槍が唐突に出てくるワケがないじゃないか!

 そう考えた槍間は、槍を比喩表現だということにした。

「よ、よし。ヤリはクリアだ……」

 お次は 目 である。

「つまり……、槍のように鋭い目をした男性はNGということなんじゃあないか?」

 言い忘れていたが、槍間は帰国子女だ。

「なんだ! 俺の目は鋭くないぞ!」

 槍間は喜びのあまりさっそくお目当ての女性にメッセージを送った。

『ヤリ目NGとのことですが、僕の目はヤリっぽくありません! 安心してください! セックスを前提にデートしてください!』

 ーーーー完璧だ。

 槍間の胸はトキメキに満ち満ちていた。

 その時だった。

「動くな!」

 槍間がスマホの画面から顔をあげると、警察に包囲されていた。

「な、なんなんですか! 僕はただ女の子にデートの誘いをしていただけじゃないですか!」

 しかし警察は拳銃を槍間に向けたままだった。

 中には無線で応援を呼ぶ者もいた。

「支離滅裂なことを言っている! 薬物を使用している疑いがある! 至急応援を……」


 槍間はどうすることも出来なかった。


 槍間は、全裸だった。


 こうして、一人の男が逮捕された。


(最近の事件をヒントにした創作です)



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