第7話 共に行こう、星の彼方へ
翌日、ステラはその生命を終えた。ずっと昔に約束したあの言葉が想起される。
「一緒に行こうよ、あの星の彼方までさ。私とステラなら行ける気がするんだ。どう?」
「うん! 行こう!! あの星に行こう! 約束だよ、エスカ!!」
あの時の言葉は果たされることがないのだと、私は当時から知っていた。しかし、ステラはその生を終えるその瞬間まであの星の彼方へ行く事を夢見ていた。
彼も、私と同様に気がついていた。ペットボトルというものではたどり着けない。私たちには技術が足りない。何もかもが足りていないのだと。
そして私は、また一人になった。
§ § §
ステラの遺体は火葬し、私はその遺骨を地面に埋め、簡素だが墓を作った。過去にレベッカさんの墓を作ったが、今回はそのすぐ隣に作ることにした。
私は霊的なものは信じていないが、せめて死後であっても一緒にいてほしいと願ったからそうしたのかもしれない。
そして、私は今はもういないステラに話しかける。
「ねぇ、ステラ。私たちはあの星にどれだけ近づけたのかな? ペットボトルは結局15センチしか飛ばなかったね……たった15センチ。それが私たちの限界。でも、それでも私はステラと一緒に過ごした日々は忘れないよ。確かに、無駄だったかもしれない。無意味だったかもしれない。でも、結果じゃなくてその過程に意味があったんだと信じてる」
そう言葉を紡ぐも、涙が溢れてきて話せなくなってしまう。
恋ではない。愛でもない。私たちの関係は何か言葉で形容できるものではない。何か、特別な、特別な何かだったのだと私は思う。
もう100年以上生きているけれど、こんな気持ちになったのは初めてだ。そして、初めて誰かと一緒に死にたいと願った。
首筋から流れる血液はそのまま地面へと垂れて行く。しかし、その血液を生み出している傷口はあっという間に修復されてしまう。
やはり、死ねない。どうあがいても、どう願っても一緒に行くことはできない。
「共に行こう、星の彼方へ……いつの日か、ステラはそう言ったよね。でも、それは果たされなかった。これからも果たされることはない。私は、また旅に出るよ。旅に出て、この世界の最期を見守ることにするよ。バイバイ、ステラ。また、いつかどこかで会えたらいいね」
最期の言葉を告げると、私は近くに置いていたリュックサックを背負ってそのまま歩き始める。
くるくるくる、世界は回る。たとえ誰が死のうと、たとえ誰が生きようと、この世界は回り続ける。
そんな世界で私はまた一人で生きていく。
星へたどり着く事を願った少年の想いを背負って。15センチの進歩しかなかった無念の背負って。そして、二人の無念を背負って。
私はこの世界で回り続ける。
共に行こう、星の彼方へ 御子柴奈々 @mikosibanana210
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