第二幕


 第二幕     王子様とお姫様



 呼吸は荒く、心臓は動悸を刻み、額から滲み出た大粒の汗が頬を伝って顎先から零れ落ちる。ケブラー製のヘルメットもボディアーマーも重くかさばって動きと思考を阻害し、出来る事ならば今すぐにでも脱ぎ捨てたい衝動に駆られるが、それを精神力でグッと押さえ込んで耐え忍んだ。

 狭く薄暗く、静寂に包まれた廊下に淀む、ジメジメと湿った空気。コンクリート製の壁に背中を預けながら、曲がり角の先を慎重にうかがう舞夜。彼女は手中に収めたSIGP220オートピストルの弾倉を抜くと、残弾数を数えてから、再びグリップ内へと戻した。周囲の壁面には抉り取られたような弾痕が数多く刻まれ、床の上には点々と、金色に輝く真鍮製の空薬莢が転がっている。

「落ち着け……。落ち着け……」

 一旦歩みを止めて、大きく一度息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。意を決して素早く物陰から飛び出した舞夜は、いつでも飛び退れる腰を落とした体勢で左右を警戒しながら廊下を進み、次の曲がり角へと辿り着く。再度一呼吸を置いてから飛び出すと、眼前に現れたのは、三つの人影。彼女は狙いを定めると一体につき二発ずつ、計六発の銃弾をその頭部に撃ち込んだ。だが時既に、遅い。そう、遅かった。

「周防、遅い! もういい、戻れ!」

 首に装着された無線機から、教官による叱責の声が漏れた。天を仰いで嘆息した舞夜は、彼女がたった今しがた訓練用のフランジブル弾を撃ち込んだ人影――ケブラーFRP製のマネキン人形――を一瞥する。そしてトボトボと項垂れながら、もと来たルートを引き返した。

 ここは東京ミッドタウンの地下に広がる、異形管理局各部共用の、実地訓練施設。その一角に設けられた、室内戦を想定した実物大のセットの入り口まで辿り着いた舞夜に、待ち受けていた訓練教官が今度は直接叱責する。

「周防! お前は射撃の精度は高いが、相変わらず反応と立ち回りが遅い! あのタイミングでは、三体目に喰われていたぞ! もっと足腰のバネを鍛え直して、一瞬の判断で距離を取るなど臨機応変に対応しろ!」

「了解です! ありがとうございました!」

「よし次! 久我!」

 消沈気味に教官に一礼した舞夜は、入れ替わりに立ち上がってセットに赴く有理と、軽くハイタッチを交わす。すれ違う瞬間に垣間見えた大男の顔は、眉間に皺を寄せながらも歯を剥いた、攻撃的な笑顔。この男は、それがたとえ訓練であったとしても、血が騒ぐと自然とこの表情になるらしい。

 セットの入り口脇に設置された待機用のベンチに、銃とヘルメット、それにボディアーマーを外して置いた舞夜は、軽くなった身体も投げ出して額の汗をタオルで拭った。日々の訓練は決して楽なものではなかったが、何も考えずに身体を動かしていると、自然と心地良い疲労感に襲われてよく眠れる。

「ふう……」

 異形管理局への入隊から既に二週間が経過し、この場所に通うのにも慣れ始めていた。


   ●


「あー、さっぱりした」

 訓練施設のシャワールームで熱いシャワーを全身に浴び、汗と埃を洗い流した舞夜。彼女はタオルとドライヤーで濡れた髪を乾かすと、下着の上からTシャツとハーフパンツを纏っただけの簡素な姿で、隣のロッカールームへと足を向ける。ロッカールームは隊員の待機所と休憩所も兼ねており、並べられた安物のソファの一つに身を沈めて一息ついた彼女は、ペットボトルのお茶をゴブゴブと飲み下して喉を潤した。

「よお、新入りくん。お疲れさん」

「あ、伊垢離先輩お疲れ様です。シャワー、お先に」

 未だ訓練での装備を着けたまま、いつもの軽薄な笑顔を浮かべてロッカールームに入室して来た伊垢離に、舞夜が軽い会釈で応えた。

「大分お疲れのようだね。やっぱり訓練はキツイかい?」

「模擬戦はそうでもないんですけど、最後にフル装備で五㎞走破させられるのがキッツイんですよ。最後の方はもう、銃が重くて重くて……。あたしも伊垢離先輩みたいに、軽いサブマシンガンにしておけば良かった」

 頬杖を突き、唇を尖らせて愚痴る舞夜に、伊垢離がハハハと笑う。

「俺、重い銃は苦手でさ。陸自時代に、五十キャリバーを背負ったまま行軍させられたのがトラウマでね。威力さえ充分なら、銃は軽いのに越した事は無いさ」

 背中に重機関銃を背負っている仕草をジェスチャーで表現しながら、シャワールームの方角へと消えて行く伊垢離。そんなヤサ男と入れ替えに、汗を流し終えた有理が濡れた髪と仏頂面をタオルで拭いて乾かしながらロッカールームに現れると、独り壁際でストレッチ運動を開始した。

 大男の服装は、簡素なボクサーパンツ一枚きり。花も恥じらう乙女ならば、この程度の事でもキャーキャーと騒ぐのかもしれないが、残念ながら舞夜は既にそんな歳ではない。布面積で言えば水着と大して変わらない下着姿程度は、もはや見るのも見られるのも平気な環境に慣れ切ってしまっているので、パンツ一枚の男が目の前をうろついていても特に気にもならなかった。

 そんな事よりも眼を引くのが、極限まで鍛え抜かれた大男の肢体の筋肉美。太くがっしりとした骨格の上に、鋼鉄製のワイヤーの様な高密度の筋肉を纏わせながらも、無駄な皮下脂肪は微塵も残さず排除されている。その上でボディビルダーの様な動きの邪魔になる見せかけだけの無駄な筋肉も付けず、更に柔軟な関節と強靭な腱を兼ね備えた、実戦格闘に特化された理想的な戦闘用の肉体。その姿はさながら、弱肉強食の世界で生き続ける野生動物を髣髴とさせる美しさ。

 一度舞夜は「まるで体操選手の様な身体だ」と本人に感想を述べてみた事もあったが、実際に器械体操の経験もあるらしく、その返答に常人離れした瞬発力と跳躍力も納得せざるを得なかった。

 やがて一通りのストレッチを終えた有理は、自身のロッカーから持ち出したペットボトルの水を飲んで失った水分を補給しながら、舞夜の近くのソファに腰を落ち着かせる。

「どうだ、新入り。もうここにも慣れたか?」

「ええ、大分。まだまだ分からない事だらけですけど、ここの雰囲気はだいたい分かってきましたよ。……それにしても毎日毎日訓練ばかりですし、待機と非番が多いんですけれど、これ、いいんですか? 初日以来、一度も出動が無いんですけど」

 ソファにふんぞり返るように座って声をかけて来た有理に、舞夜は応えた。入隊してからの二週間で彼女も概ね、この大男との接し方には慣れて来ている。

 不躾で馴れ馴れしい物言いをする男だが、それは同時に、自分が同じような扱いを受けても気にしないと言う事でもあるらしい。良く言えば気さくだが、悪く言えば礼儀知らずな男とも言える。おそらくは舞夜がタメ口で話しかけても問題無いのだろうが、歳下とは言え一応は職場の先輩なので、その案件は保留にしている。

「なあに、まあ大体、こんなもんだ。年々増加傾向にはあるが、それでも俺達実働班が現場出動するなんて事態は、三週間から一ヶ月に一回程度だ。情報班の連中なんかは毎日忙しいらしいが、その分死ぬ確率はこっちの方が高いからな。休みをしっかり取って、いつ死ぬとも知れない人生を謳歌しておけって事だ」

「はあ……。あ、それと後、ヘルメットとボディアーマー。訓練と違って、どうして実際の出動時は装備しないんですか? 安全性を考えたら、常時着用していた方がいいでしょう?」

 舞夜が自分の頭に手をかざし、ヘルメットを被る仕草をして見せる。対して大男は、手にしたペットボトルの水を再び飲み下しながら、答える。

「仮に俺達が、市街地を堂々と制圧出来る正規軍だったら、そうしているさ。いいか、銃も含めたあらゆる軍の装備品は、示威効果。つまり見かけで敵を威圧し、反撃に対する抑止力として働く事も考慮されている。つまり敢えて武装を見せ付ける事で、紛争を未然に防ぐ効果があるって事だ。だが俺達は残念ながら、非公式の極秘部隊だ。目立つ事は語法度。だから出動時は可能な限り平服で、装備も最低限。ヘルメットやボディアーマーは、市街地じゃ目立ち過ぎるって事だ」

「ふーん」

 頷いて、舞夜はペットボトルのお茶を口に運ぶ。偶然有理も同じタイミングで水を飲んだために、妙な間が空いてしまって、会話が途切れた。少しばかり無言の時間が過ぎた後に、大男は話題を変える。

「それにしても、お前はもっと身体を鍛えた方が良いぞ。今日も教官に怒鳴られてただろう、動きが悪いってな。瞬発力で重要なのは、重心の移動と腱の強さだ。腰周りの筋肉をしっかり鍛えろ」

「しょーがないですよ、女の身体ってのは、無駄な重りが多いんですから」

 溜息混じりにそう言うと、お世辞にも豊かとは言えないが、それでも年相応には発育している己の身体を舞夜は見下ろした。防衛大学時代にみっちりしごかれて筋肉質だった身体も、ここ最近の不規則で外食中心の生活で少し太ったかもしれないと、腹と二の腕の肉を摘みながら少し心配になる。揚げ物は、少し控えなければ。

「よお、お待たせ」

 舞夜と有理の元に、シャワーを浴び終えた伊垢離が、薄い茶色に脱色した頭髪をタオルで乾かしながら近付いて来た。こちらもボクサーパンツ一枚きりの、セクシーな姿を晒している。その肢体はやはり、大男に比べれば随分と華奢なシルエットだが、それでも流石は元陸上自衛官。細いながらも、しっかりと鍛え込まれた肉体美であった。

「有理も新入りくんも、今日はもう全員上がりだろ?」

「ああ、それじゃあ途中で飯食って、さっさと帰るか」

 ソファに腰を預けていた男女二人も、ペットボトルを手に立ち上がり、着替えるために己のロッカーへと足を向ける。ロッカールームの片隅の壁掛け時計が指し示す時刻は、既に午後十時。本日の異形管理局第四部実働班Aチームの勤務は、これで終了となった。


   ●


「それじゃあ二人とも、また明日」

 軽く手を振りながらそう言い残し、伊垢離だけが五階でエレベーターを降りた。扉が閉まると、舞夜と有理の二人を乗せた鉄の箱は更に上昇し、やがて八階で止まる。ここは東京ミッドタウンから徒歩で十五分、距離にして一㎞程度離れた住宅街に佇む、中規模な独身者向けマンション。そのエレベーターから廊下へと、男女二人は揃って歩を進める。

「それじゃあな、新入り」

「はい有理先輩、また明日」

 そう言うと大男は801号室の扉の中に消え、舞夜もまた、隣の802号室の扉を開けてその中へと消える。小さな声で「ただいま」と呟きながら帰宅した彼女だったが、当然ながら、「おかえり」と返してくれる者は居ない。狭い玄関から短い廊下を数歩で渡り終えてリビングのドアを開け、着替えとタオルの入ったスポーツバッグを床に放り出すと、そのままの勢いで寝室へと歩を進める。そして部屋の明かりも点けないまま、ベッドの上へと舞夜はその身を投げ出した。

 1LDKの、独り身には充分過ぎる広さの部屋。六本木の繁華街から程近い距離なので、本来ならば家賃もかなりの高額になるのだろう。だがこのマンションの賃貸物件の多くを異形管理局が公費で借り上げているので、ありがたい事に、舞夜達は実質タダ同然で住む事が出来ている。

 ここに引越してから、二週間あまり。ベッド以外には殆ど家具も無く、荷解きすらしていない段ボール箱が数多く積まれている部屋の中央で、舞夜はジッと暗い天井を見つめていた。

 日々の暮らしは、それなりに充実している。独りでいる事にも、大分慣れて来た。だがしかし、心の中心にぽっかりと穴が開いてしまったかのようなこの気持ちは、いつまで経っても消えてはくれない。六年前のあの日を境に始まり、そして三ヶ月前のあの日に決定的となった、この心の穴。時間の経過と共に次第に広がって行くこの穴を埋めてくれる何かとの出会いは、残念ながら、まだ訪れてはいない。

 そんな思いを巡らせながらも、訓練の疲れが出たのか次第にウトウトと眠気に襲われて来た舞夜の耳に、突然ドアチャイムの音が届いた。ビクリと驚いた彼女は、迂闊にもベッドから転げ落ちそうになる。

 体勢を整え、急いで寝室から玄関に向かおうとする舞夜だったが、その間もピンポンピンポンとチャイムは連打される。耳障りに思いながらリビングを抜けて玄関に辿り着き、覗き穴で確認するまでも無く扉を開けると、予想通りの大男が仏頂面で立っていた。

「何の用ですか?」

 尋ねる舞夜に対して、大男は手にした携帯電話の液晶画面を向けると、口を開く。

「緊急出動命令だ。今すぐ本部に戻るぞ。準備しろ」

 そう言うと、有理は携帯電話を閉じた。


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 時刻は深夜。人気の無い広めの生活道路の左右に、部外者の侵入を阻む高い塀が立ち並ぶ街並み。ここは繁華街の喧騒とは無縁の、閑静な高級住宅街。街路の所々に植えられた桜が、まだ僅かに残った葉桜の花弁で、春の夜空を淡いピンク色に滲ませている。

 そんな住宅街の一角に鎮座する、荘厳な一軒の屋敷。高い白壁に囲まれ、立派な門を構える。白壁の柵の隙間からは良く手入れのされた広い庭が垣間見え、その奥に存在する邸宅も、さぞや豪奢な造りであろう事が容易に想像出来た。

 その屋敷の門塀に、グレーのツナギの上から紺色のジャンパーを羽織り、目深に帽子を被った男が静かに歩み寄る。男が小脇に抱えているのは、一抱えほどの段ボール箱。やがてツナギの男は邸宅の正門に近付くと、その脇に備え付けられたインターホンのボタンを押した。暫しの間を置いてから、抑揚の無い男性の声がスピーカー越しに応じる。

「はい、どちら様でしょうか」

「夜分遅く、誠にすみません。宅配便ですが、着払いの荷物をお届けに参りました」

 宅配便の配達員を名乗り、インターホンに取り付けられた監視カメラに向けて段ボール箱を差し出す、ツナギの男。すると一分ほどの時間を空けてから玄関扉が開き、部屋着姿の痩せた中年男性が現れると、石敷きのアプローチを越えて門を開けた。中年男性の鈍く淀んだ眼には、生気も感情も、まるで感じられない。

「こちら、お届け物になります」

 ツナギの男はそう言うと、小脇に抱えた段ボール箱に素早く右手を差し入れ、次の瞬間にはパパンと乾いた銃声を夜空に響かせながら中年男性の額に二つの穴を穿っていた。ツナギの男の手に握られているのは、グロック19オートピストル。

 後頭部から零れ落ちる血と脳漿を追いかけるようにして、その場にドサリと崩れ落ちる中年男性。それを一瞥したツナギの男――伊垢離大介――は、腰のピストルベルトに装着されたRFNジャマーの起動スイッチを入れると、顔を隠していた帽子を脱ぎ取る。そして一ブロックほど離れた物陰に隠れている二人組に向けて、合図を送った。

 足早に屋敷の正門を潜り、正面玄関の前まで侵入を果たした伊垢離。彼に合流した後続の二人組――有理と舞夜――は、手にしたアサルトライフルのコッキングレバーを引いて薬室に初弾を装填する。

 RFNジャマーを作動させているので、現在は周辺一帯のインターホンや監視カメラの類は一切、正常に動作してはいない。そのため多少大胆な行動を取っても、証拠となる記録が残る可能性は低かった。

「伊垢離、お前は庭の方から屋敷の裏手に回って、裏口から侵入しろ。新入りは、俺と一緒に来い」

「了解」

 小声で有理が指示を出すと、それに従って、伊垢離は薄暗い庭木の中へと姿を消した。残された男女二人は、この家の裕福さを象徴するかのような立派な造りの玄関扉を左右から挟むと、大男がドアノブに手を伸ばし、回す。

 ゆっくりと開かれた扉の向こうに、人の動きは無い。それを確認した二人は、建屋内へと静かに侵入。同時に素早く周囲を確認するが、やはり人の気配は無かった。

 屋敷の規模に比べると、やや小規模な玄関ホールに土足のまま踏み込んだ二人。すると有理は、ホールの正面と左手に伸びる二本の廊下の内、自分は正面方向、舞夜は左に向かうよう手信号で指令を下す。その指令を受けてコクリと頷いた舞夜は、八九式自動小銃を構えて腰を落とすと、一歩ずつ足場を確認するように廊下を進む。

 屋敷内は、とにかく静かだった。白い壁紙に囲まれた明るい廊下は不自然なほど清潔で、その清潔な廊下を一歩進む毎に、己の履いたブーツが床板を軋ませて立てる僅かな足音だけが耳に届く。そんな中で舞夜は、突入直前まで装甲トラックの中で行われていた作戦会議ブリーフィングを静かに思い出す。


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「これが、今から俺達が突入する屋敷の見取り図だ。しっかりと頭に叩き込んでおいてくれよ」

 そう言って伊垢離が差し出したコピー用紙を、有理と舞夜の二人は受け取った。そこに印刷されていたのは、屋敷が建設される際に建築基準法に基いて提出された、建築確認申請の写し。広壮な屋敷の間取りが、詳細に記されている。

「国勢調査によれば、この屋敷に住んでいるのは定年退職した老夫婦と、その息子の計三人。しかし以前から、この親子も含めた複数の屍人ズールと思しき存在が出入りしているのを、情報班が確認している。それでもって、ここでちょっと問題が発生した。予定では充分な時間をかけて情報を精査するために、まだ当分は泳がせておくつもりだったんだが……一昨日の夜に、屍人ズール共の大半が忽然と姿を消した。それから既に、一昼夜が経過している」

「……なるほど。それで予定を早めて急遽今夜、突入する事にしたって訳だな」

「ビンゴ。そう言う事さ」

 伊垢離は自分の説明に相槌を打った有理を指差してウインクし、更に続ける。

「情報班の監視が気付かれたのか、それとも何か別の理由か、それはまだ分かっていない。だがどちらにせよ、少しでも足取りが残っている内に、制圧してしまおうってハラさ」

「……それにしても、こんな高級住宅街にも、不屍鬼ノスフェラトゥって居るんですね」

 装甲トラック内の照明に照らされた見取り図を確認しながら、舞夜がボソリと素朴な疑問を口にした。

「いや何、よくある事さ。あいつらは裕福な家の人間を屍人ズールに変えて寄生し、その財産でもって自分達は悠々自適に夜遊びを楽しんでいるってのが定番のパターンだからね。むしろ前回の出動みたいな老人ホームに住み着いているなんて奴の方が、よっぽどの例外さ」

 伊垢離の回答に、舞夜はコクコクと顎を上下させて納得する。

「まあどっちにしろ、逃げられる前に全員ぶっ殺しちまえばいいって事だろ? 屍人ズールは捕えて拷問したところで、何の情報も得られないからな」

 大男は不敵な笑みを浮かべながらそう言うと、手元のコピー用紙をクシャクシャに丸めて放り捨てた。


   ●


 あの作戦会議ブリーフィングで渡された見取り図によれば、この廊下は奥のリビングへと続いている筈だ。そして見取り図の通り、前方にすりガラスのはめ込まれた木製の扉が姿を現す。舞夜はゆっくりと歩を進めて近付くと、扉のドアノブを静かに回してから、自動小銃の先端でゆっくりと押し開ける。

 だが次の瞬間、死角から突然現れたか細い手が自動小銃の銃身を掴むと、物凄い力で壁際の方向へと押さえつけて来た。しまったと思った時には既に遅く、扉が大きく開け放たれ、一人の小柄な老婆が姿を現す。老婆の左手は舞夜の自動小銃を強引に確保して彼女の動きを封じ、そして右手には細長い得物――おそらくは暖炉の火掻き棒と思しき、先端が鉤状に曲がった金属棒――を握り締めていた。

 屍人ズールは感情を持たず、痛みも感じないため、一切の加減無く肉体の限界までの筋力が発揮出来る。実際その老婆の膂力は高齢者とは思えないほど強く、舞夜が自動小銃の自由を得ようと力任せに引っ張るも、びくともしない。

「糞っ! この……放せっ!」

 舞夜の抵抗も空しく、濁って感情の消え失せた眼を見開いた老婆は、火掻き棒を大上段に振りかぶる。その尖った先端は、確実に舞夜の頭に狙いを定めていた。そしてそれが振り抜かれる前に彼女が自動小銃を奪い返せる公算は、極めて低い。だが舞夜は昼の訓練を思い出しながら両手を放すと、自動小銃の使用を諦めて素早く後方に飛び退り、老婆から距離を取る事に努めた。間髪を容れず老婆の火掻き棒が弧を描いて振り抜かれたが、作戦変更が功を奏して、ギリギリでこれをかわす事に舞夜は成功する。

 盛大な空振りの勢い余って、石膏ボードの壁に突き刺さる火掻き棒。冷や汗と共にその先端を一瞥しながら体勢を整えた舞夜は、腰のホルスターから素早くオートピストルを抜く。そしてその照準を、得物を壁から抜こうと足掻いている老婆の頭部に合わせた。

「ごめんね、お婆ちゃん」

 二発の銃声と共に、感情の機微をうかがわせない屍人ズールの顔に直径9㎜の穴が二つ穿たれ、仰向けにドサリと崩れ落ちると同時に真っ赤な鮮血を噴出させた。フローリングの床に転がった空薬莢から、硝煙の香りが漂う。

「ふう……」

 一つ大きな深呼吸をした舞夜は、自動小銃を奪い返すべく、未だそれを握ったままの老婆の死体に近付いた。だが、次の瞬間。

「危ねえ新入り! 頭を下げろ!」

 唐突に背後から叫ばれると同時に、舞夜の首が締まる。そして仰け反るように転倒すると、背中を床板で強打した。着ていたパーカーのフードを背後から掴まれて、そのまま後ろに引き倒されたのだ。

「何をするんですかっ!」

 驚き半分怒り半分で寝転んだまま背後を振り返った彼女の眼前には、よく見知った大男の姿があった。だが大男の眼は舞夜ではなくリビングの奥を見つめ、その表情は猟奇的な笑顔を湛えている。

 そして舞夜が有理によって引き倒された理由は、すぐに判明した。空気が破裂するかのような一際大きな爆音と共に、つい今しがたまで舞夜の頭があった付近の廊下の壁面が、ごっそりと抉り取られたのだ。壁紙と石膏ボードが粉々になって飛散し、その下からコンクリートの構造材が剥き出しになる。驚いて、爆発音のした方向に顔を向ける舞夜。彼女の眼に飛び込んで来たのは、リビングの奥から猟銃でもってこちらに狙いを定めている、車椅子に乗った老人の姿だった。

「下がってろ新入り! こいつは俺の獲物だ!」

 そう叫んだ有理は舞夜の身体を飛び越えると、廊下からリビングへと突進して行く。彼が銃声を聞いて駆けつけるのが少しでも遅れていれば、老人の猟銃によって今頃、舞夜の頭部は壁に叩きつけられたトマトの様に爆散していた事だろう。

 狙うべき標的を舞夜から大男に切り替えた老人の構えた銃口が、有理を捕らえる。そして再びの閃光と爆音が轟いた、その刹那。大男は上体を捻り、正面から亜音速で飛んで来る銃弾をかわした。だが勿論人間の反射速度で、そんな芸当が出来る筈は無い。しかし少なくとも舞夜の眼には、間違い無くそうとしか見えなかった。

 標的を捉え損なった銃弾は、再びリビングの壁に拳大の穴を穿つ。そして老人の手にしている猟銃は、中折れ式の二連装散弾銃。つまり二発撃つ毎に、散弾を手動で交換しなければならない。だが当然、その隙を逃すような有理ではなかった。大男は素早くSCAR-Hアサルトライフルを構えると、散弾の交換のために手元の猟銃へと視線を下げた老人の頭部に、ドットサイトの照準を合わせる。そして一切の躊躇無く、猟奇的な笑みを浮かべながら引き金を引き絞った。

 パンと言う乾いた銃声と共に、老人の眉間から侵入した弾丸は脳幹を粉砕して後頭部から抜け、背後の壁に大きな鮮血の花を咲かせた。装填途中の猟銃と散弾が、床板の上に転がり落ちる。車椅子に座ったまま、その命を壁にこびり付いた血と脳漿に変えた老人の、割れたスイカの様にぱっくりと開いた頭蓋。そこからズタズタになった薄灰色の脳髄の塊が床に落下して、ベチャリと潰れた。老人の表情は依然として、頭部の後ろ半分を失っても尚、一切の感情がうかがえない無表情を貫いている。

 豪奢な屋敷に、再びの静寂が訪れた。体勢を立て直した舞夜は老婆の手から自動小銃を奪い返すと、有理の後を追ってリビングに駆け込み、周囲の警戒探索を開始する。途中で一度、自分の頭を吹き飛ばす筈だった散弾が壁に穿った弾痕を撫でて、背筋をゾッとさせてから。

 さておき、現在舞夜と有理が足を踏み入れているのは、四十畳近い広さがあろうかと思われる屋根裏までが吹き抜けとなった広壮なリビングルーム。この屋敷は、基本的にはコンクリートの基礎構造材に、煉瓦風のタイルとログハウス風の板材を張り込んだ洋風建築となっている。だが同時に、木目をそのまま生かした梁や和紙を張った照明器具など、所々に和のテイストをあしらう事によって上品かつ落ち着いた雰囲気を醸し出してもいた。

 そんな屋敷の内部を、上階からの襲撃に警戒しながら二人は探索を続けるが、人の気配は全く無い。

「もぬけの空って事は、やっぱり逃げられたか。……それにしても、飛び道具を使う屍人ズールとやり合ったのは、久し振りだな。確か前回は、ヤクザの組事務所を丸々喰っちまった従鬼ヴァレットとやり合った時か」

 頭の後ろ半分が無くなり、脳蓋の露出した老人が座ったままの車椅子を軽く蹴り飛ばしてそう呟いた有理は、構えていたアサルトライフルを下ろして嘆息した。そして床に転がっている猟銃と、その弾丸を拾う。

「十二番ゲージの、トリプルB。鳥撃ち用の散弾ショットシェルか。……いや、クレー射撃かな? どちらにせよ、車椅子生活になる前の家主の趣味ってとこか」

 弾丸の種類から、その用途を推察する大男。しかしそれ以上は特に興味をそそられる部分は無かったのか、どちらもそっと床に戻す。おそらくは銃も弾丸も、この後に訪れる処理班の手によって、使用された痕跡一つ残さずに綺麗に片付けられるのだろう。

「ところで有理先輩。あたしの見間違いじゃなければさっき、飛んで来る銃弾を避けませんでしたか?」

 有理と同じく構えていた自動小銃を下ろした舞夜が、ずっと気になっていた疑問を投げかけた。すると大男は、まるで馬鹿を見るような、さも当たり前と言った表情で言い放つ。

「あんなもん、勘で避けられるだろ。銃弾なんて所詮、銃口から一直線に飛んで来るだけだからな。それよりも、軌道が変わる打撃技の方が避け難い」

「いやいやいや、普通のまともな人間は、勘でそんな芸当は出来ませんから」

 呆れ顔で、舞夜が返した。

 にわかには信じ難い事であったが、その言を信じるならば、やはりこの大男は飛来する銃弾を意識的に避けたらしい。倫理観と一般常識に極めて難はあるが、その常人離れした身体能力の高さと野生の勘の鋭さは、流石の一言に尽きる。どうやら入隊以来の一年半で実に十三体もの従鬼ヴァレットを血祭りに上げた異形管理局第四部不動のトップエースの名声は、伊達では無いようだった。

「それにしても、こいつらを屍人ズールに変えた従鬼ヴァレット本人が不在となると、死体も血痕も灰になってくれねえな……。処理班の仕事を増やしちまったかな、こりゃ」

「ですね」

 有理が、己の放った銃弾で壁に描いた血と脳漿の花を見つめながら呟き、それに舞夜が相槌を打った。

 今は血と脳漿の海に転がる、老夫婦の死体。これらも今夜中には処理班によって撤去・洗浄され、明日の未明までには、この現場から一切の証拠が跡形も無く消し去られる事だろう。そして数日後には、新聞の地方欄に小さく『高級住宅街で謎の一家失踪』とでも書かれた見出しが躍り、やがて時間の経過と共に世間に忘れ去られる。

 異形管理局の仕事はこうして闇から闇へと隠蔽され、決して陽の目を見る事は無い。世は並べて事も無く、何も知らない善良な市民の平凡な日常は守られ続ける事となる。

「……ところで、この死体はどこに運ばれるんですか? 屍人ズールの肉体は腐らないから、回収していたら溜まる一方ですよね?」

「ああ、それなら簡単だ。ウチの本部基地の最下層には、骨まで焼き尽くせる大型の焼却炉があってな」

「あ、もういいです」

 大男の返答を途中で遮った舞夜が、小さな声で「ウエッ」とえずきながら聞いた事を後悔した。

 その時、室内に飛び散った血痕を眺めて処理班の仕事を想像していた二人の耳に、リビングの奥からガチャリと小さな物音が届いた。有理と舞夜は素早く腰を落とすと、手近な家具の陰に身を隠し、音のした方角にライフルを構える。だが果たして、二人の覗くドットサイトの丸い視界の中に捉えられたのは、リビングからキッチンへと続く扉の前に両手を拡げて立つ伊垢離の姿だった。

「おいおい、撃たないでくれよ? 仲間に誤射で撃たれとあっちゃ、死んでも死に切れんからさ」

 そう言いながら笑顔を見せるヤサ男は、物音の発生源でもある、たった今しがた自分が出て来たばかりの扉を指差した。どうやら舞夜と有理の二人とは逆の順路を経て、キッチンからリビングへと辿り着いたらしい。

「裏の勝手口から侵入して、一階の北側を一通り調べて来たが、猫の子一匹居やしない。完全にハズレだね、こりゃ」

「やっぱりそうか。開祖オリジン子供達チルドレンどころか従鬼ヴァレットすらも居ないとあっちゃ、今夜は記録更新ならずだな」

 再び銃を下ろして立ち上がった大男が、心底残念そうに天を仰ぐと、舌打ちと共に深く嘆息する。この男にとっては可能な限り残酷な方法で獲物を狩る事だけが、心の平穏を保つ秘訣に他ならないのだ。

「だが、気になるものを見つけた」

 伊垢離が付け加えたその一言に、有理の眉がピクリと動くと、眉間に刻まれた皺が一段深くなった。そして口の端に、残酷な笑みが浮かぶ。


   ●


「これさ」

 屋敷の一階の、最奥。伊垢離が指し示す先に鎮座しているのは、無機質な鉄の扉。それは脇のボタンを押すとゆっくり開き、狭い鉄の箱がその姿を無防備に晒す。

「一般家庭用のエレベーターか……。だがこんなもん、見取り図には無かったぞ?」

 大男が訝しんだ表情で箱の内部を睨め回すように観察し、疑問を呈した。その疑問に、ヤサ男が答える。

「ああ、確かにここは、見取り図では収納庫だった筈だ。だが実際にはご覧の通り、エレベーターになっている。家主が車椅子生活になったんで後から増築したのか、それとも最初から、建築確認申請を無視して作ったのか。どちらにしても、うちの情報班らしくないミスさ」

「でもこれだけの違いじゃ、さして気にする事も無いんじゃ……」

 開いた扉からエレベーターの中に足を踏み入れる伊垢離に、舞夜が提言した。するとヤサ男は、内部に設置された階数指定ボタンを指差す。

「見な」

 そう促されて舞夜が覗き込むと、そこに表示されている数字は、上から2、1、そしてB1。

「地下がある。見取り図ではこの屋敷は地上三階建ての筈だが、どうやら更に下が存在しているらしい」

 伊垢離の説明に、他二名も状況を把握する。太陽の光を数少ない弱点とする不屍鬼ノスフェラトゥは、闇に閉ざされた地下に潜伏している可能性が高い。

「よし、伊垢離はここで待機。周辺を警戒していてくれ。俺と新入りはエレベーターで地下に下りて、探索を続ける。いいな、新入り」

「了解です、有理先輩」

「やれやれ、俺が発見したってのに置いてけぼりとは、最近いっつも損な役回りだよね、俺。まあ、楽な役回りだからいいけどさ」

 有理の命令を即時了承する舞夜と、愚痴をこぼす伊垢離。対照的な反応を見せながらも、それぞれが指示された持ち場へと素早く移動する。そして大男が地下行きを示すボタンを押し、鉄の扉がゆっくりと閉まると、男女二人を乗せたエレベーターは静かに下降を始めた。

 上方向にならともかく、下方向に後から階層を追加するのは、容易な事ではない。建物の基礎構造を改めて深く埋め直さなければならないし、工事中には上階を支える土台を失う事になるので、工事が大規模なものとなってしまうからだ。その点を鑑みれば、やはりこのエレベーターは、この屋敷の建設当初から存在していたと考えるのが妥当だろう。

 舞夜がそんな事を考えている内に鉄の箱は地下一階へと辿り着き、チンと小さなチャイム音を奏でてから、ゆっくりと扉が開き始めた。

 次の瞬間、舞夜の視界にまず飛び込んで来たのは、ギラリと光る鋭い刃。次いでその刃の本体である斧と、それを振り上げるボサボサ髪の若い男。開き始めた扉の隙間をかいくぐるようにしてエレベーター内に飛び込んで来た男は、正面に立っていた舞夜めがけて、その鋭利な鉄の塊を振り下ろす。

 完全に、油断していた。この屋敷には、リビングに転がる老夫婦と玄関で伊垢離に応対したその息子。つまりは現在までに始末した三人しか屍人ズールは居ないと踏んでいた舞夜は、突然の急襲に対して完全に出遅れる。

 とっさに舞夜は、構える事も忘れていた手中の八九式自動小銃を、反射的に振り回して危険を回避しようと試みた。すると運良くその銃身が、迫り来る斧の柄に当たって軌道を逸らす事に成功する。だがしかし、男の振るう斧の勢い自体は全く衰えず、その刀身が舞夜めがけて振り下ろされた。そしてパーカーの袖口を僅かに掠めてから、床に深々と突き刺さる。

 反応があと少しでも遅れていれば、腕一本切断。最悪、頭を真っ二つにかち割られていたであろう一撃。

 完全に虚を突かれ、運良く無傷ではあったが、気が動転して自動小銃を取り落とす舞夜。彼女に第二撃を加えるべく、床板に突き刺さった斧を引き抜こうと手に力を加える男。その男の顔が、中央から上下にズレた。そのままずるりと、頭の上半分が横にスライドしたかと思うと、ゴロンと床に転げ落ちる。

 手品の様なその現象は、エレベーター内に立つもう一人の人物、久我有理による所業。ちょうど眼球の辺りを境に、眼にも止まらぬ速さで振り抜かれた彼のタクティカルナイフによって、斧男の頭部は上下に二分割されていた。そして脳髄を失った男の身体は斧を握った姿勢のまま、その場に力無く崩れ落ちる。

「まだ生きてるか、新入り」

「な……なんとか」

 ナイフに付着した血を斧男の上着で拭きつつ尋ねる有理に、舞夜はバクバクと早鐘を打つ心臓を落ち着かせようと、ゆっくりと大きな深呼吸をしながら応えた。綺麗に拭われたナイフを腰のシースに戻した大男は、ライフルを構え直すと、エレベーターの外へと歩み出る。少し遅れて舞夜もまた、頭の上半分を失って背が少し低くなった斧男の身体を跨ぎ越えてから、その後を追った。

 エレベーターの扉から続く、蛍光灯の薄明かりに照らし出された細長い廊下に、人の気配は無い。床は白木の板張りで、白い壁紙の床板周辺が、湿気によるカビで僅かに黒ずんでいる。地下室の奥へと続く壁には、右手に一つ、左手に二つの扉が鎮座していた。

 左手手前の扉は開け放たれ、舞夜がチラリと中を覗き込むと、スチール製のラックに並べられた日曜大工の工具が垣間見える。先程のボサボサ髪の男が振り回した斧も、ここに納められていた物だろうか。舞夜が記憶を少し遡ると、一階のリビングには確かに家庭用の薪ストーブが設置されていたので、おそらくは薪割りに使う斧だったのだろう。

 残る二つの扉の内、右手の大きな防音扉も気になるが、それよりも明らかに不審なのが左手奥の扉だった。この小さな木製扉だけ、鍵がかけられている。しかも扉の外から、壁面に釘で打ち付けられた金具とドアノブを鎖で巻き付け、南京錠で無理矢理施錠すると言った、ぞんざいかつ強引な手法で。

 そしてもう一つ不審なのが、扉の方を向けて廊下に置かれた、簡素な椅子。それはまるで、中に監禁された何者かを監視するかのように、不気味に鎮座している。

「新入り、分かっているな。行くぞ」

 そう言うと有理が顎でその扉を指し示し、舞夜も無言で頷くと、二人は静かに廊下を進む。そして件の扉を左右から挟むように立ち、壁を背にして、アサルトライフルを構えた。言葉を交わさずとも、その扉の異様さは二人にも充分に伝わっている。

「伊垢離、俺だ。そっちは変わりないか」

 有理が無線で、上階の伊垢離を呼び出した。囁く程度の非常に小さな声だが、高性能の無線機は、それだけでも充分に音声を拾ってくれる。

「こちら伊垢離。こっちは全く、何の異常も無し。静かなもんさ。……で、そっちの方はどうだい? さっき下から、結構でかい物音がしたが?」

「ああ、こちらは地下に下りた途端に、エレベーターの出口で待ち伏せを受けた。だが今のところ、俺も新入りも無事だ。それよりも地下で不審な部屋を発見したので、これから突入する」

 そう言い終えるや否や、有理はライフル弾を三発、ドアノブの周囲に撃ち込んだ。すると耳障りな破砕音を従えて、頑丈そうな木製の扉にあっけなく穴が空く。間髪を容れずに、大男は素早く身体を反転させて、全体重を乗せた後ろ蹴りをノブに叩き込んだ。ブーツの踵による強烈な一撃に、真鍮製のドアノブは木片と共にもぎ取れ、巻き付けられた鎖から滑り落ちて床板の上にゴトリと転がる。

「ちょっと先輩! 撃つなら撃つって先に言ってくださいよ! ビックリするじゃないですか!」

 至近距離で銃声を浴びた舞夜が、耳を押さえながら小声で抗議した。先程の斧男の強襲と言い、今のドアノブ破壊と言い、彼女にとっては心臓に悪い展開が続いている。

「いいから静かにしろ、新入り。中に誰か居る」

「……どうして分かるんですか?」

「勘だ」

 舞夜の抗議を適当にあしらった有理が、非科学的な返答を返した。だがこの男の第六感が人間離れした的中率を誇る事を思い知らされている舞夜は、それ以上は口を挟まない。

 改めて二人は眼で合図を送り合い、慎重にタイミングを計る。そして舞夜がゆっくりと扉を引くと、ドアノブごと鍵を失ったそれは、何の抵抗も無く静かに開いた。今度はエレベーターの時の様な不意打ちが無い事を確認すると、有理を先頭にして、二人はほぼ同時に室内へと突入する。

 そこは薄暗い蛍光灯が照らし出す、六畳ほどの小さな部屋。その中央で何かが動いたので、舞夜と有理の二人は構えていたアサルトライフルの銃口を素早く向ける。果たしてそこに鎮座していたのは、床の上に直接置かれたマットレスが一つと、色褪せたボロボロの毛布。そしてその上にちょこんと座った、一人の少女の姿だった。

 歳の頃は、十一・二歳と言った所だろうか。冷たく湿った地下室の中にもかかわらず、その両の足は裸足で、肌着の上から長袖の白いワンピースを羽織っただけの姿が見るからに寒々しい。そんな少女は膝の上に子熊のぬいぐるみを抱き、突然飛び込んで来た侵入者を、きょとんとした表情で見つめている。彼女の流れる墨の様に長く艶やかな黒髪と、甘いチョコレート色の瞳が、薄明かりの中でも輝いているかのようだった。

「あなたたち、だあれ?」

 黒髪の少女が首を傾げながら発した声は優しく軽やかで、見かけよりも若干幼く聞こえる。

「お前こそ、誰だ」

 少女以外に人影が無い事を確認した有理は、ライフルの構えを解くと、無愛想な声で逆に聞き返した。そして少女は再び、その愛らしい唇を動かす。

「あたしは、オリガ。偉大なる開祖エカテリーナが三百三十八番目の子。『子供達チルドレン』のオリガ」

 その言葉を聞き終えた有理は、待ちわびたとばかりに猟奇的な笑みを浮かべると、左脇のホルスターから純銀の弾丸が装填されたM500リボルバーを抜いた。そしてオリガと名乗った少女の心臓に照準を合わせると、撃鉄を起こす。

「やっと会えたな」

 残酷なる悦楽に満ちた声が、大男の口から漏れた。


   ●


 その部屋は広く、明るかった。いや、明る過ぎたと言った方が適切だろう。壁も天井も床も純白に塗られ、その各所に埋め込まれた多くのLED照明が、一切の死角無く室内を照らし出している。

 部屋の中央には簡素なパイプ椅子が一脚だけ置かれ、小熊のぬいぐるみを胸に抱えた黒髪の少女が、ちょこんと座っていた。自らを子供達チルドレンのオリガと名乗った、白いワンピースを纏った黒髪の少女が。

 彼女が幽閉されていた薄暗い地下室から保護された際には良く分からなかったが、大きな瞳とやや小ぶりな鼻に、細くシャープな顎のラインなど、白人ともアジア人ともつかない神秘的な顔立ちが今は見て取れる。

 痩せぎすと言うほどではないが線は細く華奢で、その身体のシルエットからは、まだ女性的な凹凸は感じられない。

 キョロキョロと物珍しげに室内を観察する少女を囲むのは、壁の二面を占める、巨大な鏡。それは正確には、彼女が居る室内からだけ鏡として見えるマジックミラーであり、強化ガラスと耐圧樹脂を厚さ二十㎝にまで交互に積層した特殊仕様である。

 ガラスがはめ込まれた面だけにとどまらず、積層チタン合金製の残り二面の壁面もまた、戦車砲弾の直撃にも耐えられる設計となっていた。果たしてこの部屋の正体は、異形管理局本部基地内に設置された、耐爆取調室。

 黒髪の少女から見て、右斜め向かい。部屋の隅にももう一脚パイプ椅子が置かれ、そこにはM500リボルバーを片手に不機嫌そうな表情を浮かべた、久我有理がどっかと腰を下ろしている。それ以外には一切の家具も人影も無く、分厚いアルミ合金製の扉で閉ざされた出入り口は、この部屋を外界から完全に隔絶させていた。

 ふと、有理と少女の眼が合う。微笑んで手を振る少女に対して、大男は銃を構えて狙いを定めると、「バン!」と口で言って撃つフリをして見せた。それを遊んでもらっていると捉えたのか、少女は大袈裟に撃たれて苦しむフリをして見せてから、楽しそうにケラケラと笑う。勿論大男の銃は、正真正銘の実弾が込められた実銃なのだが。

 そんな二人が居る取調室とは対照的に、マジックミラー仕様の強化ガラスを挟んで隣り合う部屋は照明が落とされて暗く、荘重な雰囲気と静寂に包まれていた。決して広くないその室内には伊垢離と舞夜、それに数名の情報班の構成員が肩を並べ、強化ガラス越しに黒髪の少女の一挙手一投足をつぶさに観察している。

「伊垢離先輩、本当にあの女の子が、あたし達の追っていた……」

「ああ、子供達チルドレンだと本人は言っているが、正直なところ、本当かどうかは怪しいもんさ。俺達が把握していた奴らの特徴と、あの子の外観とは、余りにも違い過ぎる。俺は未だ、何かの間違いなんじゃないかと疑っているけどね。……まあとりあえず、「子供達チルドレンに遭遇した場合は、可能ならば生きたまま捕獲せよ」って命令が出てたから、有理も殺さずにここまで運んで来た訳だけどさ」

「それでも、あんな地下室に監禁されていたからには、不屍鬼ノスフェラトゥと何らかの関係があるのだけは確かなんですよね……」

 舞夜が隣に立つ伊垢離と小声で問答していると、奥の扉が開いて、一人の小柄な女性が入室して来た。室内にいた全員がその姿を確認するや、背筋を正して、最敬礼する。それに対して女性は返礼を返し、一同は敬礼を解いた。

 仕立ての良い紺のビジネススーツに身を包んだ、妙齢の眼鏡の女性。きつく結ばれた眉に加えて、顎のラインで切り揃えられた艶やかな黒髪が精悍な顔立ちを強調し、ややもすると近寄り難い印象を与える。目尻と口元に、僅かだが小皺が出来かけているのは加齢によるものか、それとも業務の多忙さによるものか。

 部屋の中央に据えられたデスクまで無言で歩み寄ったスーツの女性は、強化ガラスを挟んで黒髪の少女と対峙すると、デスク上に備え付けられたマイクのスイッチを押してから語りかける。

「そこのキミ、聞こえるか」

 低く落ち着いたその声は、スピーカーによって拡張され、黒髪の少女の居る取調室内に響き渡った。どこから声が聞こえて来たのかと不思議そうに周囲を見回した少女は、自分が呼ばれている事に気付くと、己の顔を指差して首を傾げる。

「そう、キミだ。まずはお互い、自己紹介をしよう。私は異形管理局第四部部長、進堂来々しんどうらいらだ。キミの名前を教えてくれるかな、お嬢さん?」

「オリガ!」

 来々部長の問いかけに、オリガと名乗る黒髪の少女は片手を上げて即答した。

「オリガ君か、良い名だ。これからキミに、幾つかの質問をするので正直に答えてもらいたい。念のために忠告しておくが、少しでもおかしな真似をすれば、部屋の隅に座っている男がキミを処分する。その男を人質に取る事も、考えない方が良い。その場合は、二人まとめて部屋ごと焼却処分する用意が、こちらにはある」

 何気無く語られた来々部長の言葉だったが、それは決して、はったりではない。実際にこの耐爆取調室は、取調対象者が不審な行動を取った際には内部に燃焼性ガスとアルミ粉末が散布され、テルミット燃焼によって内部のあらゆる物を焼き尽くす機構を備えている。

 だが黒髪の少女は状況が良く分かっていないらしく、部屋の隅の有理に向かって楽しそうにひらひらと手を振り、大男も面倒臭そうにそれに応える。それを了承と受け取った来々部長は、質問を続ける。

「ではオリガ君。キミは何者なのか、それを教えて欲しい」

「オリガは、不屍鬼ノスフェラトゥ! そして、子供達チルドレン! 偉大なる開祖エカテリーナが三百三十八番目の子!」

 無邪気なオリガの返答に、来々部長は眉間を軽く押さえて嘆息する。このような場で子供を尋問するのは、経験豊富な彼女と言えども気が進まないらしい。

「……キミは我々が認識している子供達チルドレンとは、全く異なる。その眼も、その髪も、そして何よりも、太陽の光の下でも活動出来る点が、あまりにも違い過ぎる。本当にキミは、子供達チルドレンなのかね?」

「オリガはね、母様の子供たちの中で一人だけ、太陽をこくふくできたの。髪と眼の色は、父様に似たの。母様もね、オリガの髪はきれいだねって、ほめてくれたよ!」

 来々部長は一旦マイクのスイッチを切ると、深く考え込む。ここは地下施設なので体感的には分からないが、現在の時刻は、午前十時。オリガと名乗る少女が保護されてから既に九時間が経過し、地上に出れば、春の陽光が降り注ぐ時間帯である。少女が監禁されていた屋敷の地下室から、この異形管理局本部まで移送される道中、尾行を警戒して、情報班により車輌の乗り換えが数回に渡って行われた。だがその際に戸外に出たオリガは、陽の光を浴びても平然としていたと言う。いやむしろ、暖かな春の陽射しを愉しんでいたと言っても良い。

「太陽の光を浴びても平然としている不屍鬼ノスフェラトゥの少女……。この状況は、全く想定していなかったな……。危険は無いようだが、どうするべきか……」

 暫し独り言ちた来々部長は、再びマイクのスイッチを入れる。

「オリガ君。それでは次に、キミの母親について尋ねたい。彼女は今、どこに居るのかな?」

「……わかんない」

 黒髪の少女は、少し悲しげに答えた。対して来々部長はこの返答を予期していたのか、特に落胆した様子は見受けられず、質問を続ける。

「そうか、分からないか。では少し、質問を変えよう。キミが最後に母親と会ったのは、いつ、どこでかな?」

「うーん……。さっきまでいた部屋で、たぶん、二年くらい前。冬が二回きたから」

 オリガは自分の正面のマジックミラーに向けて、おそらくは数字の二を示しているのであろうピースサインを向ける。その表情は実に無邪気で、虚偽の発言をしている色はうかがえない。

「そうか、ありがとう、お嬢さん。それではもう一つ質問だ。キミは何故あの屋敷の地下室に、本来は仲間である筈の不屍鬼ノスフェラトゥ達によって監禁されていたのか、それを教えてほしい」

 この質問に、少女の顔色が突然曇った。寂しげで悲しげで、それでいて何かを悟ったように儚げな表情を浮かべ、口を開く。

「みんな、オリガのことが嫌いなの。母様はオリガを愛しているって言ってくれたけれど、母様の子供たちは、いつもオリガを閉じこめるの。オリガだけが、特別だからだって。オリガは母様といっしょに、外に出たいのに」

 胸に抱いた小熊のぬいぐるみを、一段の力を込めてギュッと抱き締めるオリガ。涙こそ流れてはいないが、その唇は固く結ばれ、泣いているようにも見えた。そんな少女を観察していた来々部長は、暫し思慮を巡らせた後に、再び口を開く。

「そうか、分かった。……ではオリガ君、我々はキミを保護する事とする。キミが大人しく協力してくれれば、危害を加える気も無いし、多少の自由も認めよう。とりあえずはキミが本当に子供達チルドレンなのかも含めて、医療的な検査を受けてもらう。……久我、彼女を医務室まで連れて行ってくれ」

「はいよ」

 来々部長の命令を受けて、取調室の隅で沈黙を保っていた大男が、パイプ椅子から立ち上がった。するとオリガが、彼を興味深げに見つめながら口を開く。

「クガ? あなたのお名前?」

「あ? そうだ、久我有理、俺の名前だ。それがどうかしたか、クソガキ?」

 クソガキ呼ばわりされたにもかかわらず、黒髪の少女の顔がぱあっと明るくなる。

「ユーリ? あなた、ユーリっていうの? この子と、おんなじお名前!」

 嬉しそうにそう言うと、オリガは有理の元に駆け寄った。そして胸に抱いていたぬいぐるみを大男に向けて差し出し、ニコニコと笑う。

「そうか、クソガキ。それじゃあいつか、二人まとめて俺がぶっ殺してやるよ」

 口元だけニヤリと笑った有理は、ぬいぐるみの額にリボルバーの銃口を突きつけると、「バン!」と言って再び撃つフリをした。するとオリガは、唇を尖らせて抗議する。

「王子様は、そんなことを言っちゃいけません!」

「王子様ぁ?」

 取調室の、強化ガラスを挟んだこっち側とあっち側。その場に居合わせたオリガを除く全員が、南米アマゾンの気色悪い毒虫でも見せられたかのような顔で聞き返した。

「そう、王子様です! とらわれのお姫様を助けに来るのは、王子様と相場が決まっているのです! だからユーリは、オリガの王子様なのです!」

 自信満々に胸を張り、どこで覚えたのか、難しい慣用句を使って見せるオリガ。彼女のおでこに、有理は無言で強烈なデコピンを叩き込んだ。無言で暴力を振るう大男と、逃げ惑う少女。そんな二人を強化ガラス越しに眺めながら眼鏡を外した来々部長は、深く嘆息し、呟く。

「期せずして、交渉の『餌』を確保。と、言ったところか……」

 その眼は既に、次の段階を見据えていた。


   ●


 涙眼のオリガが、赤く腫れたおでこを押さえながら、デコピンをしようと近付いて来る有理に抗議しているのと同日同時刻。都内某所の地下に設けられた大広間には、続々と集まる人々の姿があった。

 中央の大テーブルを囲んで座る、十数名の男女。その顔を、高価で上品な間接照明の薄明かりが、ぼんやりと照らし出している。集まった面々の顔は一様に険しく、隣り合う者同士、ひそひそと小声で言葉を交え合う姿も散見された。

 やがてギイッと小さく軋む音を伴って、廊下と大広間とを繋ぐ、木目も美しい観音開きの大扉が開け放たれた。室内に居た男女の視線が注がれる中、黒いドレスに身を包んだ見目麗しき少女が一人、従者と思しき男を従えて入室する。

 白。それが少女の、第一印象。左右で二つ結いにされた頭髪も、涼やかな視線を送る真紅の瞳を包む睫毛も、薄い眉もきめ細かく柔らかな肌も、その全てが透き通るような純白。まるでその身が淡い光を放っているかにすら見える、白色の洪水。

 よく見れば、それは彼女だけではない。少女が連れている従者の男を除く、大広間に集う全ての男女が一様に白く、その瞳の虹彩だけが血の様に赤い。

「お姉様方、それにお兄様方。オリガお姉様が、人間の手に渡ってしまいました」

 つかつかと大テーブルに歩み寄った少女が発した言葉に、室内がにわかにざわめく。

「どう言う事だ、イライダ」

 白い男の一人が問い質すと、イライダと呼ばれた二つ結いの髪の少女の後ろに付き従っていた男が一歩前に歩み出て、その頭を垂れた。

「申し訳ありません、皆様方。私が拠点の移動のために屍人ズールを連れて出払っている隙に、人間共に踏み込まれました。全ては私の責任です」

「黙りなさい、ヴラジーミル。従者の失態は、主の失態。このイライダ、罰は甘んじて受け入れる覚悟が出来ております。何なりとお言い付けください、お姉様方、お兄様方」

 申し開きするヴラジーミルと呼ばれた従者を片手で制した少女は、唇を固く結ぶと、キッと前方を見据える。その姿は見た目の年齢に似合わず、凛として気高い。

 そして再び、場がざわめく。イライダと呼ばれた少女の処遇と、今後の対応を巡って議論が交わされているようだったが、場を納められる者が居ないのか悪戯に時間ばかりが経過し、一向に意見がまとまる気配は無い。

「罰なんて、受ける必要は無いのよ?」

 大テーブルの最奥から発せられた声に、その場に居合わせた全員が沈黙し、注目する。居住まいを正した男女の視線の先に鎮座するのは、一人の女。

 他に比べて一際大きく豪奢な椅子に、妖艶な肢体を沈ませた女は脚を組み替えながら、その厚く艶やかな唇に甘い笑みを浮かべて言葉を奏でる。

「ちょうど良い機会じゃない。現状維持にも飽きていたところだし、そろそろあたし達の方からも動こうじゃないの」

 女の眼が、赤い輝きを増す。

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