第13皿 寧々の気持ち
今日中に生徒会室に顔を出すよう
「……ったく、どうしてこんなことになった」
「そうですね」
「まぁ、生徒会に入らなくちゃいけなくなったけど、おとがめなしってことだからよかったよ」
「はい」
寧々はすっかり元気をなくしていた。
保科先生から存外な扱いを受けたのだから仕方がないと言えば仕方がない。
しかし、それ以外にも寧々を落ち込ませていることがあった。むしろその要因の方が大きいのかもしれない。
――先輩って、保科先生のこと好きなのかなぁ。
ミツルのごまかしが寧々に懐疑心を抱かせた。
食べ尽くしたとはどういう意味なのか。
確か以前にも似たようなことを言っていた。初めて矢吹ミツルという男と出会った日に、喫茶店で『実は、人を食べちゃう癖があるんだ』と。
あの時は不良として喧嘩っ早いということを言いたかったのかと思ったが、今になってよくよく考えてみればすこしおかしなところもあった。話の辻褄があっていなかったような気もする。
実際に人を食べるということはありえない。
この言葉が比喩的な表現なのだとしたら、考えられるもうひとつの意味。それは男女の関係しかない。
食べ尽くしたということはすでに深い関係まで達しているということ。
二人は、とくに保科先生にいたっては、自分のことを邪魔者扱いするかのように会話に混ぜてくれなかった。そこにあったのは二人だけの世界。それに、保科先生は顔を赤めていた。あれは乙女の顔。自分の勘がそう言ってくる。
ミツルと保科先生は――。
「まぁ、あんまり気にするなよ。保科先生って口は悪いけど、根はやさしいから」
「……うん」
どうしてあれほど酷いことを言っていた保科先生をかばって、傷ついている自分のことを
どうして慰めてくれないことに悲しんで、怒っている自分がいるのか。
どうして自分はこれほどまでに悩まされているのか。
考えれば考えるほどわからなくなり、深い闇に呑み込まれていくような気がした。
「生徒会室ってどっちだっけ?」
「知りません」
「そ、そっか。困ったなぁ」
思わず冷たい態度をとってしまう。そしてそれに後悔してしまう。
「ここ、右です」
「なんだ知ってたのか」
「すみません」
「……元気出せよ。気にするなって言ってるだろ」
「うあわあぁあ」
頭をぐちゃぐちゃに撫でられた。
ボサボサになった長い髪を、寧々は手ぐしで整える。ミツルの触った感覚がまだ頭に残っており、なぜかそこだけ時間がたっても熱が消えずに残っていた。
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