第14話 悪夢が覚める時、そして……

◯注意事項

・相変わらずのラクシアもとい、ソード・ワールド2.0何処行ったなSSです。

・ベイド関連はこのSSで決着をつける。今後関連者が出てきたとしても、それはベイドとはもう無関係に成り果てた残骸でしょう。

・NPC枠のキャラクターオンリーで回してるので、正直好き勝手しすぎである。そろそろ自重せねば。

・なお、読みたくない人は読まないことを強くオススメします。だってこれ、いわゆるひとつの……ビターエンド。



◯登場人物

NPC

・ファザーベイド[ナイトメア・男]

・ビターヌ[人間・男]


・バフィク[バジリスクウィークリング・男]

・ダンタリアン[ハイマン・女]


PC

このSSでは出番なし




〈魔動機遺跡・地上三階・所長室〉[tb:昼]


10、20、30……一体何体の魔神を切り伏せ、突き穿っただろうか。

息が上がる。腕が重くなる。足から感覚が抜け始める。だが、魔神の群れは未だその数を増すばかり。

聖なる力の爆発を願う。一気に周囲の魔神が吹き飛ぶ。すぐにその穴を埋めるように三つ首のケダモノが走り込んできて、飛びかかってくる。

打ち払わず、ギリギリのところを噛みちぎらせて躱し、通り過ぎたその背を槍で払って飛び退く。魔神の刃が寸前まで居たところを叩いた。

このままでは押し切られるだろうな、と頭の端で浮かんだ考えを即座に否定する。致命傷は避けている。身体は悲鳴を上げているが、不思議と頭は冴えている。

飛び退いた先にいた魔神を踏み台にし、更に後ろへと跳ぶ。

「せぇぇりゃぁぁ!」

「む……!」

振り向きざまに剣で横一閃。受け止められたのを見ながら槍を振り下ろす。鈍い手応え。

「貴様……!」

「この距離なら、魔神の援護も要請できまい!」

剣を弾かれるが、杖部分での打撃は槍の柄でいなす。確かに鋭い反応だが、純粋な戦士としての腕前は私とそこまで差はない。

魔神の増加が一時的に止まる。次の瞬間響くは魔神の断末魔。

すぐに、魔神を薙ぎ倒してファザーベイドがその姿を見せる。視線を交差させ、今度は魔神の群れの方に私は飛び込む。

「ライフォス神よ、聖なる力をここに……フォースイクスプロージョン!」

……魔神の増加が止まる今、雑魚の担当は私の役目だ。


魔神が吹き飛ぶ中、刃と刃がぶつかり合う。

片や漆黒の刃。

片や白銀の刃。

魔法の雨は、主を巻き込まないように降り注がず。

刃の応酬は、互角の勝負を繰り広げる。


「ぐ……く、くそっ! 身体さえ、身体さえ万全に力を振るえる器であれば……!」

「奪い取っておいて、身体のせいにしてんじゃねぇよ! と、ビターヌ卿、魔力はまだ保つか!?」

「……流石に、そろそろ厳しくなってきた……!」

10を超える打ち合いが繰り広げられ、その間に周囲の魔神がもはや数えられる数まで減る。

ビターヌの返事に、打ち合いの最中にファザーベイドは腰のポーチから球体を取り出し、ビターヌへと投げつける。

広がる魔香水の香りに、彼は目を丸くした。

「これは……マナが、体に満ちてくる?」

「とっておきの濃縮された魔香水だ。悪いが雑魚は頼む」

「おのれ、剣では敵わないならば、魔法でならばどうだ!」

一瞬のスキを突いて離れたメルエムの杖の先から雷がほとばしる。雷撃は2人を飲み込み、その身を焼け焦がしていく。

苦痛に顔をしかめるビターヌに対し、ファザーベイドは雷撃を受けながらも一歩、メルエムへと歩を進める。

「おぅ、魔法相手じゃ確かに分が悪いわ。だったら距離を詰めて先に倒せばいい!」

「貴様の弱点は知っている……! ラーリス神よ、不浄なるものに裁きの光を!」

駆け込んだファザーベイドの身体が、メルエムを中心に起きた神聖なる光の炸裂に吹き飛ばされる。その表情には、苦痛と驚愕。

一種のアンデッドと化しているベイドにとって、神聖魔法の力は劇毒にも等しい。

「ぐぁぁ……! ホーリーライトの強化版か……!」

「そうだ、貴様にとっては特に効くものだろう?」

「……はっ、神様に背を向けた以上、確かにオレにはよく効くな」

全身から煙を上げながらも、ファザーベイドは手に持った剣を鞘に収め、手のひらから出した種状の結晶体を剣の形へと変化させて握る。

「だが、それで負けを認めるわけにはいかねぇんだよ!」

「ほざけ、クズでしかないものが……!」

光の炸裂が再び起き、ファザーベイドは剣の間合いに踏み込むまえに吹き飛ばされる。

その光景が何度も繰り返され……辺りはファザーベイドの肉体が蒸発して起きた煙で包まれていく。


ぜぇぜぇと、肩で息をしながらも、剣を支えにしながらも……ファザーベイドはまだ立っていた。その眼には、未だに光が灯り続ける。

他の魔法を唱える時間を与えずに突撃を繰り返すファザーベイドに対し、苛立たしげにメルエムは次の突撃に合わせてのホーリーライト2を準備する。


だからこそ、気づかなかった。

「じゃぁぁぁぁっ!!」

「しつこいぞ、クズめ! ラーリス神よ、不浄なるものに――」

「させるか!」

横合いから突き出された槍が胴を貫き、詠唱が止められる。

「がぁ……!?」

「……ナイスタイミングだ、ビターヌ卿」

間合いに踏み込んだファザーベイドの剣が、深く、メルエムの身体……ピエール伯爵の身体に食い込む!

周囲には、魔神の姿はなく。そこで立っていたのは、三人のみ。

切り裂かれたピエール伯爵の身体が崩れ落ちる。


……だが、その眼から光は失われず。

「……くそ、ならば、ビターヌ、貴様の身体を寄越せぇぇぇぇ!」

突如、その身体から禍々しいオーラが吹き出す!

身構えるビターヌに対し、ファザーベイドは冷めた眼でオーラを見つめる。

「……な、なんだ!? 何かに、引っ張られる……!?」

「逃がすと思うか? テメェは、輪廻の輪から外すって言っただろうが」

「ファザーベイド、貴様、何をした!?」

食い込ませた剣から右手を離さず、左手で二本差していた腰の剣を、鞘ごとビターヌに放りながらファザーベイドは淡々と語りかける。

「ビターヌ。オレの剣をやる。オレの生きた証だ。お前が持っていてくれ」

「ウェゲス殿……分かった、受け取ろう」

「メルエム。テメエはオレ達ベイド全員で消滅させなきゃならん相手だ。……奇跡に頼るんじゃなく、確実に滅ぼす」

食い込んだ琥珀色の剣が、輝きを増していく。

どこからともなく現れた、琥珀色の人魂が剣とファザーベイドへと集まっていく。

「魔剣ベイド。その力、その魂、その器、全て、全て夢へと還せ。決別の時だ、我らは永劫に、痕跡すらも残さず泡沫に消えよう」

「き、貴様!? まさか、まさか……!?」

「……オレ達ベイド全員の消滅に、お前も道連れだ。共に悪夢として消えようぜ?」

禍々しいオーラが、剣に吸い込まれるように消えていく。ファザーベイドの身体が、崩壊し始める。

「ふ……ふざけるな!? こうなれば、貴様の身体を奪い取ってくれる!」

「あ? ……う、が!? て、テメ……ェ……!?」

……否。消えかけながらも、ファザーベイドへと流れ込む!

一瞬目を見開いた彼の身体が、ビクリと跳ねる。その目に浮かぶは、先程までのピエールの身体がしていた意思の光。

「消えて堪るか、消えて堪るかぁ!」

「が、ああああ!?」

「な!?」

剣が引き抜かれ、ビターヌへと振るわれる! とっさに剣と槍で受け止めるが、次の瞬間二本とも砕け散り、その身体は宙を舞う。

ふらり、ふらり、とぎこちない動きで、ファザーベイド……否、メルエムは倒れ伏したビターヌの方へと歩きだす。


「ぐ、ぅ……」

「貴様の、身体を……貴様の身体を、寄越せ……よこせ……!」

身体を起こすと、亡者のごとく歩み寄るメルエムの姿。

「くっ、武器は……剣を借ります、ウェゲス殿!」

ウェゲス殿から渡された両の剣を引き抜く。

片方は、漆黒の剣。何時だったかウェゲス殿が語った限りでは、邪別剣ベイダルンと言う銘らしい。

片方は、純白の剣。何時だったかウェゲス殿が語った限りでは、聖別剣アンバルアと言う銘らしい。

「私は、今を生きる者だ……貴様に渡す身体など、ない!」

剣を支えに立ち上がる。

すると、突然剣から光と闇が溢れ出す。それは混じり合い、ベイダルンとアンバルアが手から離れる。

2つの剣の柄頭が融合したかとおもうと、上下に刃のある剣へと変化していた。

「う……ぉ……?」

メルエムの動きが鈍る。それは困惑したかのように。その隙に新生した剣を手に取る。

体をひねって回転させ、切りつけ、突き立てる!

深々と突き刺さった刃に、メルエムの身体が縫い止められ……

「……悪いな。最後の最後にドジった」

ウェゲス殿が苦笑したのを最後に、その身体は突き立てた剣とともに崩壊しきった。



〈魔動機遺跡・地下二階・最深部〉[tb:昼]


ファザーベイドがベイド全員の消滅と引き換えにメルエムを道連れにした時間軸より、少し時は巻き戻る……。

膨大なマナが満ちる中、ワイヤーと斧が幾度もぶつかり合い、魔法がぶつかり合う。

至近距離まで詰められながらも、仕掛けワイヤーを駆使してメルエムコピーはバフィクを翻弄し、ダンタリアンの魔法にも魔法をぶつけて相殺してみせる。

霧散した魔法が、空間のマナ濃度を更に濃くし、呼吸するだけで魔力が暴走しそうな程に体内へと過剰供給されていく。

「ちぃ、クズ共のくせにしぶとい……!」

硬質素材を斧に割られ、肉体部にも大小の斬撃痕を負いつつ、メルエムコピーは悪態をつく。

「魔法使いの割に、この距離でも粘るな貴様……!」

擦過傷、貫通痕等から血を流しつつ、バフィクが足元から飛び出したワイヤーに鼻の先を斬られながらも距離をさらに詰める。

「流石に、魔法技量では貴方のほうが上ね……!」

膨大なマナをかろうじて制御しつつ、ダンタリアンの口から紡がれるのは、低級攻撃魔法の数々。

マナを気にせず魔法が使えるだけの空間供給量を叩き出すこの空間は、上級攻撃魔法を迂闊にぶつけ合わせれば、激突面から崩壊しかねないほどの領域と化している。メルエムコピーとダンタリアンは、そのことに気付くだけの魔法の才があった。

そのことが導き出すのは一つ。

「お互いに、大魔法を封じなきゃいけないってのも、厳しいと思わない? ねぇ、メルエム?」

「ふん、神聖魔法を喪ったせいで、お前らベイドを殺しうる手段が一つ使えないのでな。お前らの魔法封じとして使えているさ、この環境はな」

そう言い放ち、彼は壁際にまで下がり、ワイヤーを天井に突き刺して上昇する。

壁が開いて覗くは、巨大な砲門。

「な……!?」

「だがまぁ、魔動機術でも殺す手段はある。吹き飛べ失敗作」

放たれるは、銀の砲弾。

避けようとしたところをワイヤーが絡まり、砲弾をバフィクは真正面から受け、ダンタリアンのところまで吹き飛ばされる。

「バフィク!?」

「が……はっ……!」

血を吐き、崩れ落ちた彼に気を取られ、ダンタリアンの手が止まる。

「真、第十四階位の攻。空間、次元 (ヴェス・フォルツェル・ル・バン。コーロス・ディメント)」

その隙を逃さず、メルエムコピーの詠唱が響き渡る。

「っ……! 真、第十四階位の攻。空間 (ヴェス・フォルツェル・ル・バン。コーロス)」

それに気付き、ダンタリアンも同じ魔法の詠唱を開始する。

「解放、切断――空断(オブカ・カンジェン――オルドレスタ)!」

「次元、解放、切断――空断(ディメント・オブカ・カンジェン――オルドレスタ)!」

メルエムコピーから伸びた空間を切り裂く刃に少し遅れ、ダンタリアンからも同じ刃が伸びる。

……彼女の表情には、焦燥と絶望の色。刃は互いを喰らおうと突き進み――

「この高密度のマナ空間の中で、空間を切り裂くような魔法のぶつかり合い。……さぁ、貴様らクズはどこに消えるかな?」

「しまっ……!?」

――ダンタリアンとバフィクに近いところで、刃がぶつかり合う。


瞬間、音もなく空間が割れる。

世界に、穴が開く。

穴は広がっていき、2人の姿がその穴に引きずり込まれるようにして消える。

……だが。

「……なっ!? 馬鹿な、想定よりも空間修正が遅い!?」

部屋を包み込むように、穴は広がっていく。

……そして、その牙は、メルエムコピーのところまで伸びた。

「くっ、ワイヤーアンカー射出! 落ちて堪るか……!」

部屋が飲み込まれる中、穴からより遠い天井にワイヤーを突き立てて避難しようとする彼の傍で、穴の拡大が止まる。

「と、穴が収縮していがっ……!?」

……ぶちり、と音がした。

驚愕を顔に浮かべ、下を見やるメルエムコピーの視界に映るのは、荒れ果てた部屋と、上腹部から下が消えた自分の身体。

ばかな、とその口が動き、どしゃりと肉塊が床に落ちる。

動くものは、何も居なくなった。

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垣間見る一場面 SW2.0 黒染めの淋し夢 @kurozomenosabisiyume

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