2.2 確認


四月二〇日 一二二五時 第三学生食堂




「うぅ頭いてぇ……」


 茜、龍次と三人で昼食の席。俺は焼きそばパンとルートピアを前に頭をポンポンと叩いていた。


 今朝、保健室で起きてからこの頭痛が続いている。保健の教員からは気分がすぐれないなら今日一日休めるように手配するといわれたが、さすがに休むほどのものでなかったので登校して今に至る。


 にしても、長引く頭痛だ。


 今は楽になったが、それでもあの頭を掻きまわされた感触が未だに残っている。


「純太郎、大丈夫?」


 茜が心配そうな顔でこちらを覗いてきた。。


「大丈夫、抜き打ちテストで失敗しなくて良かったさ」


 そう言い放つと、ルートピアを一口。


 湿布の様な鼻をつく臭いと共にバニラの風味が口の中に広がる。うん、これがまたいい。


「そう、抜き打ちテストだよ。依田先生も酷い事すんよ。問三解けた?」


 飛びつく様に反応したのが龍次。どうやらどっかミスったらしい。


 龍次も学科二位なのだから多少ミスった程度では留年しないはずだが、そんなにひどい間違いでもしたのだろうか?


「一応。ベクトルポテンシャル使う奴だろ?」


「ベクトルポテンシャル? うっそ、前々回の授業にチラッとだけ言った奴じゃん。お前よく解けたな」


「単純だよ、スカラーポテンシャルさえわかっていればやりかたほとんど同じなんだから」


「スカラーポテンシャルはまだ習っていないぞ……」


「あれっ? そうだっけ?」


「そうだよ。たっく、お前だけ独学しているから解けちまうんだよ。おれ、あれさえ取れていたら満点だったのに」


 不服そうな視線を向けてくる。


「また二位だったのか?」


「聞くな」


「好きだなぁ。そんなに二位が好きなのか?」


「うっさい、俺だって好きで取っているわけじゃない」


 ぶすっとした表情になるとピーナッツパンを頬張る。


 相変わらずだな。


「前から気になっていたんだけど、龍次君と順太郎はどっちが頭いいの?」


 首を傾げながらこちらを見てくる。


「龍次」


「純太郎」


 互いに相手の名前を言い合う。


「龍次は総合成績で学科二位だ。それでなく、殆どの科目において二位だ。すごい良い」


「純太郎は理工学系科目はいつもトップだ。俺が勝ったためしがない」


「俺は学科一七位だ。平均的と言って何ら差支え無い。国語に至っては赤点ギリギリのビリだ」


 あんまり自分の成績は言いたくないのだが、思わず言ってしまった。


 文系科目は苦手だ。


「つまり……純太郎は両極端で、龍次君はまんべんなく良いって事?」


「まぁ、そうだな。 俺も龍次くらい点数が取れれば補講受けずに済むんだけどなぁ……」


 あー頭が痛い。


 少し頭を押さえる。


「にしても、純太郎大丈夫なの? 頭痛長引く様だったらまた保健室に行った方がいいんじゃない?」


 心配そうな表情でこちらを眺めたのは茜だ。


「大丈夫だ。朝よりはマシになった」


 茜は大丈夫なのだろうか?


 茜はウィンナーを箸で持つと「はいっ」と目の前に差し出した。


「ん? いいのか?」


「気休め程度になるかなって」


 芳ばしい香りを漂わせるウィンナーは口の前で静止する。


 茜のウィンナーは弁同用に少し味が濃いので気を紛らわせるのには都合がいい。


 自分なりの解釈をすると、ウィンナーを一口で食べる。


 口の中に広がる肉の味。


 うん、美味しい。


 昨日と比べるとやや味が薄くなっている気がするが、こちらの方が丁度良い。


「そういやぁ、お前さんはなんでそんな頭が痛いんだ? 今朝からだろう。風でも引いたのか?」


「厳密には昨日からだ。まぁ、茜が大丈夫ってことは俺も直ぐに引くと思うけど」


「えっ? なんで茜ちゃんが?」


 やべっ、口が滑った。


「昨日ちょっとな、いろいろあって」


「うわっ、何だよそれ。後ろめたい事でもあったのか?」


「そうじゃなくてな、その、ちょっと演習の後冷えただけ」


「冷えたって、もう春だぞ。なんだ? 風を引くだけの薄着でいたのか? そうなのか? 薄着ってどのくらいだ? 厚さを〇へ極限とったくらいか⁇」


 さっきとはうって変わって興奮している。


「とりあえず、うしろめたいことはしていない。それは確かだ」


 とだけ伝える。後ろめたいことはしていない。公表できない事ではあるが。


「うおおおおお、何でだよぉ、何でお前なんだよぉぉ……くっそ、俺は何でも二番か……そうだよな、俺って名前も龍次。『次』だぞ? 分かるか? 俺は生まれた時から二番って決まっているんだよ」


 おお、今度は自暴自棄になった。


 感情の起伏が激しいな。


「ああ、そういえば茜。時計の修理、ちょっと時間もらえるか? ちょっと校内の雑貨屋だと入手しづらい部品があってさ」


 時計の話に切り替える。 昨日の戦闘で壊れた奴だ。


 授業中にこっそり確認した所、掠った程度だったので内部構造は保たれていたものの、一部部品が損傷しているのが見受けられた。


 学校の工作機械を使えば部品を作るのも難しくないのだが、何せ精密機器だ。


 そう直ぐに作れるものではない。


「別にいいわよ。 ありがとっ」


 笑みを零すと再び弁当を食べ始める。


 俺も食べるか。

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