1.5 応答

四月一九日 一七三六時 鹿島臨海特別行政区沖四海里地点 一一号訓練艦(旧天津風)艦上



 その後は至って簡単だった。


 波音さんが命令した通り、艦は浮上し、駆け付けた学校所属の駆逐艦によって艦は押収された。


 しかし、一つ困った事がある。事情説明だ。


 駆逐艦に乗り込むなり公安委員会に拘束され、質問攻めだ。


 正直、ポートにして提出を求められた方がいい。


 幸い自分の学籍番号や部屋番、担任の名前等は覚えていた為、機兵が外せないこの状況下でも自分の証明が出来たが、やはり経緯が面倒くさい。


 秘密の地下室で未知の機兵を入手し、潜水艦を強奪した工作員グループを検挙してしまったのだ。


 何から説明していいのか分からない。


 それに……


「じゅんくん、じゅんくん、凄いよ! 悪い奴らをいっぺんにやっつけちゃうなんてっ! ねねっ、どんな技使ったの? ロケットパンチ? ゲッタービーム?」


 いくら説明しても、立っていただけで勝負がついたと信じてくれないのだ。(特に波音さん)


「分かった、ゲッタートマホークでしょ?」


 先程から第一砲塔脇の甲板で同じ様な話を続ける俺達。


 何とかして理解してもらえなければ……


 理由としては色々挙げられるが、その中でも一番の理由としては不純な動機だがこの五年式一二・七サンチ電探連動連装砲(主砲)をもっと眺めたいという所にある。


「違うよ、だからこの機体の装甲で防いだんだって」


「えっ、じゃぁこれって超合金Zなの?」


「うーん、ちょっと違うかな? でもそれくらいの装甲かもしれない」


 従来の機兵工学ではライフル弾はともかく、極至近で、しかも密閉された空間での手榴弾の爆発に耐えられる設計など存在しない。


 それが現在の常識なのだ。


 この重量、この厚さで防いだというのならそれこそ架空の合金が必要なレベルだ。

恐らく、これも軍事機密で覆い隠されたものなのだろうが、にわかには信じがたい。


「じゃぁ、ミノフスキー粒子で……」


「はいはい波音さん、今は一九七〇年代、スーパーロボット全盛期だよ、八〇年代から出てくるリアルロボットの話はしない様にねー」


「はーいっ!」


 まるで先生の話を聞いた小学生の様に手を挙げる千歳さん。


 うーむ、こうしてみると可愛いな。


 小柄で華奢な体つき。


 しかし、胸の大きさは年齢相応。


 こんな体系の持ち主がこの世にいるとは今まで考えもしなかった。


「純太郎! 話してきたわよ」


 威勢のいい声とともに、一体の機兵の姿が現れた。


 どうやら、茜が返って来た様だ。


 先程まで公安委員会の生徒に事情聴取を受けてきたらしい。


 相変わらず機兵は外せないでいたが、個人的には補佐があって楽なのでうれしい。


「どうだった?」


「一通り納得はしてくれたみたいだけど、事が事だから上に報告しなくちゃいけないみたい」


「上って、公安委員長?」


「そう。あと、書記長だって」


「書記長……しなきゃだめなのか?」


「うん。そうみたい」


 返事と共に、何やら騒がしい音が聞こえる。


 振り向くと、遠くに見えるヘリコプター。


 おそらくこの艦に着艦するのだろう。


 そうすると……


 案の定、五人ばかしの生徒たちが俺たちを囲む。


 腕には公安委員会の腕章。


 そして、大型の自動小銃を持っている。


 弾丸は装填済み、安全装置も解除済み。


 武装が許可された委員会だけの事はある。


「申し訳ありませんが、本人確認ができたとはいえ、顔を確認できていないので……」


 取り出される手錠。


 頑丈な機兵用の手錠が二つだ。


 恐ろしく大きく、そして持っている生徒の手が震えている。


 機兵用の手錠が存在する事にも驚いたが、それ以上にこの状態で書記長と面会するのも驚きだ。


 書記長は至極一般的な議事録を作成する書記の長だ。しかし、諸事情により今は中央委員会の委員長の役割を兼任している。これは一般高校で言い換えれば生徒会長と同じ立場であるが、この特殊な学校の生徒の長という事もあり、そうは面会できるものではない。


 事情説明で出るとしても、この様な状態ではなく、きちんと学帽被った第一種学装(学生服)の状態で会うのが一般だ。


 ましてや誰だかはっきりとしない機兵と面会するなんて先ずあり得ない事、少なくとも前委員長ならそうしたはずだ。


 よっぽど興味があるのだろうか?


「わかりました」


 俺と茜が手を差し出すと、取り付けられる。


 些か腕が重くなった気がしたが、この機兵の出力が従来の機兵とは桁違いに強力なせいか、重さをあまり感じない。


 力を入れれば、この手錠も外れるだろうか?


「では、行きましょう」


 公安委員会の生徒に言われるがままに俺たちは歩いて行った。


「あっあのっ……」


 ふと、後ろから声がした。


 振り返ると、波音さんがこちらをじっと見ている。


「助けてくれて、ありがとう……」


 頬を若干赤く染めている。


「褒められる事柄は何一つしていないよ。俺は立っていただけだから」


 事実を述べた。


 まるで犯罪者の様な状態にされた俺たちは、ヘリに乗って学校へと向かった。





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