(24)これにて一件落着?

「それでは当審議は、これで終了する。皆、ご苦労だった」

 その宣言に講堂内の全員が立ち上がって一礼し、国王夫妻が退出するのを微動だにせず見送った。


(これで終わったわね。最後にお姉様に率先して拍手をしていただいて、助かったわ。あれでケリー大司教の責を問わない流れが、決定的になったと思うし。大司教も国教会に、踏み止まってくれるわよね)

 そんな事を考えながら振り返った視線の先には、最前列から真っ先に駆け寄ってくるコーネリアの姿があり、エセリアはそんな姉を苦笑交じりに出迎えた。


「エセリア、無事に終わったわね。あなたの事だから殿下から難癖を付けられても、余裕で粉砕できるだろうと思ってはいたけれど、これで安心したわ」

 無邪気な笑顔で声をかけてきたコーネリアに、エセリアは頭痛を覚えながら苦言を呈した。


「お姉様……、少しは自分の立場を考えてください。直に見学したかったのは分かりますが、幾ら何でもその制服姿は無いでしょう……。お義兄様やご両親に、何か言われたりはしなかったのですか?」

「お母様達には『戻ったら是非詳細を教えて頂戴ね』と頼まれたから、別に問題は無いわ。一部始終をお話したら、喜んでいただけるわよ」

「……そうですか」

 今回の事が、既に噂話の格好のネタとなりつつある事実に、エセリアは色々諦めて遠い目をした。


「それに学園側が黙認して、通してくださっているのだから、構わないでしょう? だけどこれで本当に、面白い話が書けそうだわ。殿下の醜態っぷりもそうだけど、彼を嵌めた勢力がどんなものなのか気にならない?」

「確かに気にはなりますが……、推測するしかありませんから、滅多な事は言えませんわ」

 それは実は自分です、などと言えないエセリアは、微妙に引き攣った笑顔で答えた。すると出遅れた女生徒達が次々とやって来て、エセリアとコーネリアの周りを幾重にも取り囲んで、歓喜の声を上げる。


「エセリア様!」

「無罪潔白認定、おめでとうございます!」

「私達は勿論、エセリア様の事を信じておりましたが、心配いたしましたわ!」

「ありがとうございます、皆さん。そして私事でご心配おかけして、申し訳ありませんでした」

 エセリアが周囲を見回しながら軽く頭を下げると、彼女達が明るく笑い飛ばした。


「まあ! エセリア様が頭を下げる必要はありませんわ!」

「そうです! 悪いのは全て、あの性悪女と王太子殿下ではありませんか!」

「あら、陛下が既に宣言されたのだから、諸手続きはまだでもあの方はもう“元王太子”で“元王族”ではないの?」

「確かにそうね」

 そして楽しげに笑い合っていると、教授の一人がその輪に歩み寄り、恐縮気味に声をかけてきた。


「皆様、ご歓談中のところ誠に申し訳ありませんが、“元在校生”の方々は、そろそろお引き取りいただけますか? 後片付けがありますので」

「あら、申し訳ございません」

「それでは皆様、参りましょう」

「そうですわね。ごきげんよう」

 本来入ってはいけない所に通して貰った自覚のあった面々は、長居をせずに互いに笑顔で別れを告げ、講堂を後にした。そして幾らか言葉を交わしてからエセリアはコーネリアとも別れ、この間講堂の片隅で審議の様子を見守っていた、ルーナの所までやって来る。


「待たせたわね、ルーナ」

 それに対して、ルーナは冷め切った声で返した。

「エセリア様。今日のあれは、一体何だったんですか?」

「何って、審議だけど?」

「単なる自爆披露会と、嘘八百告白会じゃありませんか。どこが審議だと言うんですか。あまりにも馬鹿馬鹿しくて、途中でよっぽど帰ろうかと思いましたよ」

 明らかに責める目を向けてきたルーナに、エセリアは少々居心地悪そうに答える。


「……そうかもね。気持ちは分かるわ。ああ、ルーナ。帰り道で国教会総主教会に寄るから、そのつもりでね」

 誤魔化すように歩き出しながら、エセリアがさり気なく口にした内容を聞いて、ルーナがギョッとした表情で主に詰め寄った。


「今度は総主教会で、何をなさる気なんですか!?」

「人聞きの悪い……。人助けよ。安心して」

「全然安心できません!」

 涙声で訴えられたエセリアは、(ケリー大司教の方は何とかなったけど、ルーナを宥めるのにはもう少し時間がかかりそうだわ)などと考えながら、彼女を引き連れて学園を後にしたのだった。


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