第二章 第一の世界“アンファング”          

第13話 ウォウウウウォウォウォウォ。ウウウォ!ウオオオオオ!

転生した世界で最初に見た母と父は、まるで原始人のようだった。母は粗末な布切れをまとい半裸。父は、ひげを伸ばし放題にし、ぎらついた目をしていた。二人ともきわめて不潔でだった。明らかに自分の父母とは異なる風貌に、確かに綾野理ではなくなったのだと実感し、違う世界に転生したことを悟らされた。



『ウォウウウウォウォウォウォ。ウウウォ!ウオオオオオ!』

「ウホ」



これが、この世界の言葉だ。

この父母のもとに生まれて、およそ18年を過ごしたが、言葉らしい言葉を聞いた記憶はない。きっとないのだろう。ちなみに、今の言葉は「ご飯おいとくね!ちゃんと食べるのよ!」だった。それに対して「分かった」と返答したのだ。これがきちんとした意味をなしているかは分からない。相手の表情や言い方の強弱などで判断するしかない。しかし、不思議と一度も間違わなかった。



人々は極めて原始的な生活をしていた。山や丘に穴を掘って洞窟にし、そこに一家ごとに暮らしていた。男は日が昇ったら食べ物を探しに行き、日が暮れたら眠る。女は、子どもを育てながら洞窟内の掃除をしたり、毛皮をなめしたりしている。そして、それらが終わったら果物の採取に森へと向かう。日が暮れたら、男たちが獲物を手に帰ってくる。人々は収穫物を均等に分けあい、家族とともに食す。それが、彼らの生活だった。



俺は、集落の中でもリーダー的存在の一家の息子の一人として産まれた。兄弟は、上に4人。下に10人。母さんと呼べるのは5人。その中の第3夫人の二男として産まれた。原始的な生活をしている彼らにとって、もっと尊敬されることは強いこと。次に尊敬されるのは役に立つこと。俺は、役に立つ路線で行こうかと思っていたが、父から強い男になるべく鍛えられ、母からはコキ使われ、18年間役に立つことをアピールできていなかった。15歳になったら、狩人になるべく、他の男どもと仮に同行して、獲物をしとめることを覚えなければならないが、あいにく小柄に生まれつき、平凡な身体能力しかない俺は、足手まといになるだけだった。それどころか、3年間も体格のいい同級生にはバカにされ、いじめられて過ごした。そして今や、立派なひきこもりになっていた。まさか、原始時代に来て、ひきこもりになるとは思いもしなかった。

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君に会えるまで何度も蘇る。 オオツキサトシ @kae65555

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