第12話 あてのない旅立ち


数時間後、俺は廃屋の地下、最深部にある扉の前にいた。人間が二人すれ違えるほどの大きさを持った、装飾は、ドアノブ代わりの取っ手しかついていない何の変哲もない木の扉。しかしベラドンナは、その扉の先には現世につながっていると言う。


「貴方が扉を開けた時に、一番あなたと運命値近しい世界が選ばれるわ。そこは“アンファング”という文明が滅んだ世界。生き残った人間は独自の進化を遂げているわ。そして貴方は、この扉をくぐったら死ぬまで引き返すことはできない。アンファングで生きる覚悟はいいかしら?」

「大丈夫です」

「いい子ね。ここに戻ってきたときに、貴方に特別なご褒美をあげましょう」

「ありがとうございます。楽しみにしています」

「あら、内容は聞かないの?」

「帰って来たときの楽しみにしておきます」

「そう。それじゃあいってらっしゃい。貴方が語ってくれる話を楽しみにしているわ」


ベラドンナとの会話を終え、俺は扉を開ける。そこには、暗闇が広がっていた。はるか彼方に、砂粒のような光が見える。まるで、ここに初めて来た時のようだった。一歩を踏み出せば、もう二度と帰ってこれなくなる。不安なのだろうか、期待なのだろうか、怖れなのかもしれない。心臓が、飛び出るかのように、自分の存在を訴えるように、激しく鼓動を打つ。

「それでは女神さま、行ってまいります」

その言葉に、ベラドンナは微笑みで返す。俺はあてのない生に向けて、一歩を踏み出した。


×  ×  ×


どれだけ歩いているのだろうか。俺が一歩を踏み出すと、扉はすぐに消えた。限りない暗闇の中で砂粒のように輝く光は、あまりにも頼りなく感じたから、俺は脇目もふらずに歩き続ける。


「一体どうなるんだろうか…。どんな世界が待っているんだろうか」


どれだけ歩いているのだろうか?疲れからか、徐々に足が棒のように感覚がなくなってくる。疲れからか、全身が重くだるくなる。しかし、歩みを止めたら光が遠のいていくように思える。頭が自然と垂れるほどの疲れを覚えても歩き続ける。


「こんなに体が重く感じるのは初めてだ。少しずつ、全身に重りをつけられている気がする」

どれだけ歩いて、ここまで来たのだろうか。手を伸ばせばボール大に輝く光をつかめるほどの近さにいるにも関わらず。俺は倒れこんで動けなくなっていた。


「もうちょいじゃねぇーか。頑張れよ俺」

手を使い、光に向かって這う。誰が見ているわけでもない。こんなところで、何も始まらないまま終わりたくない。何とか光に触れる。とたんにその光は輝きを増し、すべての暗闇白く染め上げるように広がっていく。あまりにも強烈な白の中で、俺は意識を手放した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る