第20話


 その後の話をする。


 私は亜美のグループを抜けて、一人になった。亜美たちは相変わらず、誰かを嫌ったり憎んだりすることに一生懸命になっている。一度トイレですれ違ったとき、亜美は私を一瞥もしなかった。一度でも亜美の心の中に私が棲んでいたことはあっただろうかと、眠れない夜に想うこともある。

 恭子は、運動部のショートカットの女の子と一緒にいるのをよく目にする。いつもビクビクしていたあの頃の恭子とは別人のように生き生きとして笑っている。恭子は恭子だけの居場所を見つけられたんだと思う。


 それからカナハは、軽音楽部に入った。私の知らない違うクラスの子たちと、CDを手に何やら楽しそうに話しているところを見たことがある。カナハは能面のような表情を崩し、本来の彼女の素を見せていた。大好きな女の子の魅力を他の人にも知られてしまったなんていう寂しさを感じないわけじゃないけど、私の心には余裕があった。

 何故なら文化祭のあと、カナハと私は長年の友人にそうするような自然さで話すようになったからだ。昼休みになると、私とカナハは連れ立って連れ立って中庭に向かう。あの子の隣でお昼ご飯を食べる時間が、今の私の大事な宝物になっていた。


 それからもギターはやめていない。

 マリカがもう少し上手くなったら、一緒に動画に撮ってみましょうか。

 ぎこちない私のギターを褒めておだてて伸ばしてくれるカナハの敬語は、未だに取れていないけれど、私は満足だった。

 ひとりとひとりで繋がる、ふたりぼっちの生活も、悪くない。


 私たちはいつも不安になる。仲間外れにされたり浮いたりするのが怖くて、人の顔色ばかり伺ってしまう。

 嘘で塗り固めた笑顔の中に、本当の自分を隠して。


 でも、そんなことばかりしていたら、自分の感情が分からなくなって、迷子になってしまう。そしてそれは決して、器用な生き方だとは限らないのかもしれない。

 好きなものや嫌いなもの、自分の心が動く「なにか」を言葉にした方が、ずっとクールでパンクだということを、私はカナハから教えてもらった。


 カッコ悪くても、みっともなくても、誰かから後ろ指を指されたとしても。繋いだこの手を、きっと離すことはない。

 群れから離れて泳ぐ二匹の魚は、いつまでもいつまでも、幸せに暮らしましたとさ。



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