第19話


うさぎの首にりぼんを巻きつけて

そのまま引けば死んでしまうとわかっているのに

どうしてわたしはこれを止めることができないのかな


弟は言う 先生は言う パパは言う

いい子 いい子 君はいい子だね

いつか誰かにもらわれていくその日まで

そのままでいてね

勉強なんてしなくていい 頭空っぽでいい

「かわいい」それがわたしの全てだから

大切にしなきゃね


Xデーは12月25日

12月24日までにスーサイド

愛してくれないなら殺して

ロマンティックを越えて

わたしに会いにきて


まじつまんないよね殺したいよね

川辺でいっしょに見上げた夕日の血みたいな赤色

嫌いなものを言い合いっこしたあの夜を ねえ覚えてる?


妹は言う 友達は言う ママは言う

キモい ウザい 死ねばいいのに

タバコシンナー割れた窓ガラスの代わりに

あなたがほしかった


息の仕方を知った 最適解は窓の外

「変なヤツ」あなたのかけてくれた魔法

月曜、駅で待ってるよ

トキノミノル 二本指 ストーンウォール

わたしとあの子のないしょのひみつ

大切にしなきゃね


Xデーは12月25日

12月24日なんて知らない

愛してあげる全部あげるよ


ロマンティックを超えて

あなたに会いにいくから




 歌い終わっても、ひとつの拍手もなかった。しーんとした沈黙が聴衆をつつんでいる。

 私は乱暴にアンプからシールドを引っこ抜くと、うつむきがちに早足で歩いた。無数の目が私の背中を追っかけてくるのが分かるから、顔はあげないようにした。

 これで私は変人のレッテルを貼られてしまったんだろう。とんでもないことをしてしまったという自覚だけは、ある。


 でも、だから、なんだ。それが、なんだっていうんだろう。

 私の心の中はスポットライトの明るい光で満たされていた。ガラスを思い切り破壊した時のような爽快感が、指先までかけ巡る。忠犬のように私の後ろをついてくるカナハと手をつないでバカみたいにくるくると回って、ありがとうと囁いて思い切り抱きしめたかった。

 振り向くと、目が合う。驚くことに、カナハは声も出さずに静かに涙を流していた。慌てて近くまで駆け寄ると、カナハはうぇーんと子どもみたいな鳴き声をあげた。人目につかない、中庭のベンチに連れて行き、ふたり並んで腰掛ける。

 しばらくして、カナハはぐすぐすと鼻をすすりながら、私の差し出したハンカチで目元をぬぐった。


「なんか、昔を思い出しちゃって。あたし、昔、仲の良い友達がいたんです。一緒にさっきの曲演奏したこともあるんです。あたしはベースで、あの子はギターでした。そのとき感じた高揚感を、マリカさんは思い出させてくれたんです。」


 ありがとうございます、と言うカナハの声は、いつもみたいに小さくもか細くもなかった。しっかりしたその声色は、耳を澄まさなくても聞こえた。

 今なら言えるかもしれない。ずっと言いたかったこの言葉を。

 私は立ち上がると、カナハに右手を差し出した。


「ねえ。私と、友達になってくれない?」


 そのときのカナハの笑顔を、私は一生忘れることがないだろう。

 それは3月の花が春の息吹にほころぶような笑顔だった。きゅっと握られた右手の温もりが愛しい。まずはここからはじめようと思った。

 友達以上の関係を求めるのは、その先でいい。

 17歳の私たちにはまだ、時間がたくさん残されているのだから。

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