第19話 はじめてのオフ会①
視界が真っ暗なことに驚き、ヘルメット型のゲーム機を外してみると、そこは見慣れた自室だった。
テーブルの時計に目をやる。
どうやらゲームをはじめてから4時間ほど経過していたらしい。そのせいか分からないが、体は倦怠感に包まれていた。
あれだけの膨大な情報を直接脳内に流し込むのだから、疲れて当然なのだろう。
しかしまあ、それにしても見事なまでにリアルな世界であった。
現実では不可能なことが実現できる仮想現実。
なるほど。
例えるならば、明晰夢のようなものか。
「……疲れた」
ポツリと呟いて、ベッドの上から起き上がる。まだ、完全には覚醒していない体でゆっくりと歩みを進め、小さな冷蔵庫からミネラルウォーターを取って喉を潤した。
さて、これからどうしたものかな。
明日は講義が午前中で終了するから、それから再度ゲームにログインするのもいいかもしれない。
だが、あのグレイ・マックスウェルのことだ。
きっと僕の前に再び現れて、見事な早撃ちで返り討ちにされてしまうだろう。
短い付き合いだったとゲームをやめてしまうのもなんだか味気ない。
いや、それ以上に自分の意思ではなく、誰かの意思によってやめさせられるなど不愉快だ。
それが僕に戦い方を教えた男であっても。
やめるタイミングは自分で決める。
それだけは誰にも邪魔をさせない。
そんなことを考えていると、スホマからメッセージの着信を知らせる電子音が聞こえてきた。
手にとってメッセージを開く。
差出人は――――グレイ・マックスウェル。
『ゲン。はじめての強制ログアウトはどうだ? 夢から現実に引き戻された気分だろう? 話したいことがあるから電話をくれ。番号はそのままだ』
メッセージを見終わる前に僕はすぐさまスホマの連絡帳からグレイの名前を探して、登録してある番号に電話を掛けた。
プルルルという小気味いい電子音が数秒流れたあと、電話口から聞き慣れた流暢ながらやや片言の日本語が返ってきた。
『やあゲン。電話をくれて嬉しいヨ』
『師匠こそ。元気そうでなによりだ』
『おかげさまで元気ですヨ。あのゲームをしていると時々リアルとバーチャルの境目が分からなくなりマス。本当の自分はこうして君と会話しているグレイ・マックスウェルなのカ、それとも金狼団のボスであるキラーウルフなのカ、君はどうオモウ?』
『どちらも師匠であることに変わりはないさ。ただ、ゲームでの師匠は少しばかり僕の知っている男とは異なっていたがな』
『フフフ。君のほうはまったく変わらないネ。君に色々とレクチャーしていた頃が懐かしいヨ。前に言いましたよネ。僕の教え子の中でも君は間違いなく最高の生徒ダト。その気持ちは今も変わっていませんヨ』
グレイは懐かしげに語る。
僕もあの訓練の日々が自然とフラッシュバックしてきた。
厳しいながらも充実した日々。
あの日々はもう戻ってこないのだろうか。
『それでなんの用だ? ただ昔話をしたいわけではないだろう?』
『ええ。そうですネ。どうですカ? 久しぶりに会って話をしませんカ?』
『直接会いたいということか?』
『そうです。君はまだあの場所に住んでいるのですカ?』
『いや、今は東京に引っ越している』
『奇遇ですネ。私もいまは東京に住んでいまス。それなら都合がイイ。訓練で使っていたあの公園にきてくだサイ。君がくるまで待っていますヨ』
『いいだろう。2時間後だ』
『フフフ。楽しみデス』
最後にそう言って、グレイは電話を切った。
まさか師匠との再会がこのような形になるとな。
さて、さっさと準備をするか。
Infinity Weapon Online 夏井優樹 @SUMMER_KID
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