遠距離恋愛

07:51送信『おはよう。栄輔、起きてる?』


08:12送信『栄輔! 寝てるでしょ! 遅刻するよ!! 起きて!!』


08:14送信『栄輔が返信してくれるまで、送り続けるからね!!』


08:16送信『栄輔栄輔栄輔!!』


08:17送信『起きて起きて起きて起きて!!』


08:19送信『栄輔ーーーーーーーー!!!!』


08:26返信「今起きた」


08:28送信『早く支度しないと、また遅刻だよ! いい加減、減給だよ!!』


08:36返信「はいはい」


08:39送信『それから、午後から雨降るって予報だから、傘忘れないで』


08:44返信「了解」




09:12送信『栄輔、遅刻しなかった?』


09:26返信「ギリギリアウト」


09:29送信『もっとメールの着信音上げなよ。私がモーニングメールしたって、それじゃ意味ないでしょ』


09:38返信「これが最大」


09:39送信『あと傘持ってきた?』


10:01返信「忘れた」


10:06送信『やっぱり……仕方ないから、帰り一緒に返ろう。私の傘大きいから、多分二人でも大丈夫』


10:07送信『あ、ごめん誤字。「返ろう」じゃなくて「帰ろう」、ね』




12:06送信『栄輔、お昼何食べてるの? 肉ばっかりじゃなくて、ちゃんと野菜も食べなよ』


12:21返信「牛サイコロステーキ」


12:26送信『ちゃんとサラダも食べなよ!』




13:59返信「寝てた」


14:04送信『もう……。ちゃんと今日中の報告書、終わらせてよ? 一緒に帰るんだから』




15:41返信「寝てた」


15:50送信『栄輔! 私まで残業になるじゃない! 今日くらい真面目にやってよ!!』


16:00返信「ごめん」




18:16送信『栄輔、私一階のエントランスに居るけど、報告書終わった?』


18:22返信「まだ」


18:26送信『どれくらいかかりそう? 外、凄いどしゃ降りだよ』


18:38返信「あと二枚」


18:42送信『じゃあ待ってるから、早く来てね』


19:01送信『栄輔、まだ?』


19:19送信『栄輔ーーーーーーー』




19:31返信「部長に捕まってた」


19:34送信『終わった?』


19:42返信「今行く」




 今行く。その返信を最後に、もう十五分経つ。美奈は、再びスマホを取り出し、『栄輔』と打っていた。予測変換で、『え』と打てばすぐに『栄輔』と出てくる。


 また休憩室ででも行き倒れて、寝てるんじゃないかしら……と、美奈は若干不機嫌に、スマホの画面をタップする。




19:59送信『栄輔! 何処にいるの!?』




 その時。着信音と共に、後ろから抱き竦められた。


「ごめんごめん。飲み会の誘い、断ってた」


 スマホを手にしたまま、美奈はびっくりして首だけを後ろに仰ぎ見て、一瞬固まった後、その逞しい腕の中でもがいた。


「ちょっと……栄輔! 社内だよ!」


「今日一日、美奈の顔見れなかったから。僕絶対、遠距離恋愛とか無理」


 栄輔は笑いながら言って、美奈の艶やかな前髪に軽く口付ける。美奈はますます、その抱擁から逃れようと身を捩った。頬を淡く染めつつ。


「だから栄輔っ……会社じゃ駄目だったら!」


「じゃ、美奈の部屋なら良い?」


 ようやく美奈を解放してやると、身体ごと向き直った美奈に向かい、栄輔は爽やかな笑みで企てる。


「っ……と、取り敢えず、貴方傘ないんだから、私のアパートまで一緒に帰るしかない……」


「そうだな。雨様々だね」


「まさか栄輔、わざと傘忘れた訳じゃないよね?」


「さぁ……それはピロートークで教えてあげるよ」


End.

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