第3話 着物への誘い

 着物は日本人に馴染み深い。

 お正月や結婚式、成人式など人生の節目をいろどってきた着物。

 その種類は多く、今やカジュアルに、そして気軽に着こなせる物となってきた。

 日本国内だけでなく海外にまで影響を与え、誰もを魅了みりょうする着物。

 そのルーツを解く。



 なんだこれは。

 私は今、目の前のポスターを見て混乱している。


 スタバを出る前に康徳カレは私に一言だけ、

「どうしても連れて行きたい場所がある」と言った。

 私は神様に感謝した。

 着物ジャーナル以外のプレゼントを貰えることに。

 夢にまで見たジュエリーショップ。


 ふと、職場の先輩の言葉を思い出す。

はるちゃん、いい?アクセサリーは自分で買うんじゃなくて、男から貰うものよ」

 その言葉に対する私の返答は、

「いえ、私は貰えないので自分で買います」だった。

 だが今。私は心の中で先輩に

「ふふ。そうですね」と答えている。




 そんな私の期待は、お茶を済ませた五分後に滅びた。

 ポスターの前でとお退いていた意識が戻ったあと。私は、ポスター横のご案内に目を向けた。




 歴史博物館創立五十周年記念展


 着物世界へのいざな


 開催日 5月1日~31日

 開館時間 9:00~17:00(入館は16:30まで)

 休館日 月曜日




 はるは目を閉じて。

 今日の曜日を思い出す。






 ──土曜日。


 うん。開いてる。普通に。





 私の中で色々な感情が爆発しそうになったが、まだここに入ると決まった訳ではないので我慢できた。



 康徳やすとくは抹茶フラペチーノを私に手渡し、財布から紙を二枚、取り出した。

「はい。はるぶんね」

 まさか。

 康徳やすとくはるへ渡した紙は──。




 着物世界へのいざない ペア前売券

 先着50名様 豪華特典付


「急げ。特典がなくなる!」


 えっ、これ見に行くの!?てか、前売券買ってんじゃん、この人!!!


 康徳やすとくは着物姿の受付嬢(新たな魔物ブス)にチケットを渡し、笑顔で振り向いた。

はる!安心しろ、間に合ったぞ!まだ2番目だ」


 いや。もう既に一組いるのか。


 そう思い私は受付を支配する魔物にチケットを渡した。

 半券を受け取った私は、その時。驚くべき言葉を耳にした。


「館内の見学時間は、ご関心の程度によって大きく異なりますが、おススメ観覧コースだと3時間30分になります」



 私は光の速さで康徳やすとくを目で追った。

 だが、彼は既に「おススメ観覧コース順路」と書かれた看板の先にいた。

 死ねと思った。



 諦めた私は受付横に置かれていた無料パンフレットを手に取り、おススメ観覧コースを探した。


 んーっと。あった。おススメ観覧コース。

 えっと……流れは。




 着物ひろば(15分) →「着物の歴史」展示(40分) →着物ひろば(5分) →着物資料展示(25分) →「着物をつくる技術」展示(35分) →「現代の着物」展示(45分) →3階屋上テラス(10分) →ミュージアムショップ(15分) →「GACKT」(20分)



 ん。何、最後のGACKTって?

 一抹いちまつを越える不安を覚え、私は小走りで彼を追った。


 今。AM11:00。

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着物が好きすぎて @hyupunos

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