Day 7
39, Epilogue
どんなときでも、地上で何が起ころうとも、貴方は朝でてきて、夜に沈む。そして空から皆を明るく照らしてくれるんだね・・・
そんな感慨にふけりながら、私はぼんやりとその暁に手を伸ばす。
すると、あたりが靄に覆われたように突然辺り一面が真っ白になった。
「辛い思いをさせてしまって、すまなかったな。」
頭のなかに直接話しかけてくるような声。
「えっ」
「驚くことはない。キミは私のことをすでに知っているだろう。」
混乱した頭を必死に回す。
「古の・・・魔女・・・」
「いかにも。そして君は試練をクリアすることができた。」
「はい・・・」
シレンヲクリアスルコトガデキタ
私がこれまで城で、城のみんなに対してやったことを思い出す。
目尻に涙が浮かんでくるのを感じた。
胸がぎゅと締め付けられ、息が苦しくなる。
「気にすることはない。若い頃に失敗はつきものだ。そして傷の治りも早い。」
失敗と言う言葉に、心に痛みが走るとともに、怒りがこみ上げてくる。
人の命を、失敗なんて一言で片付けてほしくない。
「若いな。」
言葉を発する前に、心を読まれたかの脳に頭のなかに魔女の言葉が入ってくる。
「国王とは国民の命を預かるものだ。そしてときに、100人の国民の命を救うために1人の命を犠牲にする決断を下すこともある。私は君が下した判断そのものは間違ってはいなかったと思うがね。」
魔女の年老いた、けれどはっきりと心の通ったやや低い女性の声。
「そろそろ、元いた世界に戻るときだろう。」
「いやだ・・・」
思わず口からそう漏れる。
「この一週間など、君にとっては夢のようなものだろう。これまで16年も過ごしてきた元の世界より大事だというのかね?」
先程見た夢を思い出す。
「それでも・・・」
この世界をめちゃくちゃにしてしまったのは私の責任だ・・・
その責任を私は取らなくてはいけない・・
「それで一体何をすると言うんだ?既にこの世を去ったものに対して、まだこの世に留まる物ができることなどなにもないぞ。彼女たちはもうこの世にいないのだからな。」
「・・・」
確かに、その通りなのだろう。
けれど今の私にはそのくらいしかできないから・・・
「そして、君の本心は別のところにあるようにみえる。」
「そんな・・・ことは・・」
言葉に詰まる。
図星だったのだろう。
自分で意識したことはなかった自分の気持ちが、他社に鋭く暴き出される。
あぁ、この期に及んでなんて私はわがままなのだろう。
「大人は子供の行き過ぎたわがまま叱りつけるため、そしてそれを叶えるためにいるのだよ。君は辛い経験をしながらも必死に頑張った。結果はどうであれ、それ相応の対価を受け取ることを、だれも君を責めたりはしない。」
そこで魔女は一回言葉を区切った。
「君の背中を後押しするとするなら、そうだな。犠牲になったという彼女たちは皆、君が不幸になることを望んでいると思うかね?皆、人の不幸を、そして自分のために君が不幸になることを喜ぶような人だったかね?」
「・・・」
「まあいい。老婆心ながら口を出してしまったが、それを決めるのは君だ。それで1つ、私は君の願いを叶えることになっている。それはなんだ?」
全く変わらない、強く私の意思を問うような調子で、魔女がそう尋ねてくる。
わたしは・・・
胸元をギュッと握りしめる。
「コルデリアちゃんと一緒にいさせて・・・ください・・」
「わかった。その望み、試練を受けてくれた礼として私が叶えてやる。」
先程までとは打って変わり、孫に話しかけるような優しい声。
それが耳に入ると同時に私はすっと意識を失った。
「別の世界に逃げ込んだところで、辛い現実から逃げ出したところでどうにもならないのだよ・・・それが過去に犯した最も大きな過ちであり、今の1人のために未来の100人を殺した私の最大の罪なのだよ・・・」
高校の最寄り駅。そのプラットホームの上。
この時間帯の主な利用客はわたしたちの学校の生徒と、この近くにあるらしい私立小学校の児童たち。
ラッシュ時とはうって変わって、プラットホームにいる人はまばらだ。
「あかりは頑張ってるよ」
「そうかな」
「そうですよ。」
私はぼんやりとした頭でそう答えた。
はしゃぎ回る児童たちに、大きな声で話す生徒たち。それを見てみぬ振りをする周りの大人達。
「そんなことないよ。それに・・・俺、あかりのそう言うとこ好きだよ。」
「ありがとう」
「・・・」
私は心からの作り笑いを、顔に浮かべた。
なぜだろう。唐突に横から不機嫌そうな雰囲気を感じた。
「今日行くところ、ホットケーキが美味しいんだって。」
「そうなんだ」
「楽しみです。」
電車が間もなく到着するというアナウンスが流れる。
私たちは乗車位置に移動しようとした、その時だった。
「あっ」
制服を着た小学生の男の子。前を見ずに走ってきた彼が私の体を思い切り押す。
そのつんのめりながら前方へ1歩、2歩、3歩・・・黄色い点字ブロックを超えたのが見えた。
「あかりっ」
まことの手がわたしのブレザーの襟をつかむ。
近づいてくる電車のヘッドライトと、次第に大きくなっていく甲高いブレーキ音。
ボタンが外れ、ブレザーの袖が抜けていくのを感じた。
「えっ」
「あかりさんっ」
聞き覚えのある、それどころかここ最近毎日のように聞き、話しかけていた。
ソプラノの、普段はあまり感情を感じさせない、けれど少し慌てたような声。
それが聞こえると同時に、腕をしっかりつと掴まれた。
それを支えに、ホーム端でなんとか踏みとどまる。
すぐ横を、ブレーキ音を甲高く鳴り響かせながら、電車が通り過ぎていった。
そしてその電車が起こした風によって、眼の前にいる、私の学校の制服を着たコルデリアちゃんのピンク色のロングヘアがなびいた。
「あかりっ、コルデリアちゃん、大丈夫?」
まことが、そして回りの他の人達が慌てて回りに集まってくる。
「ありがとう。そして・・・よかった・・・」
目から思わず涙がでる。
「あかり様・・・私をこの世界にお連れしてくださったのですね・・・心から感謝をもうしあげます・・」
コルデリアちゃんを抱きしめる。
「これからもずっと一緒だから。」
ピンク色の瞳をまっすぐに覗き込みながらそう言葉を紡ぐ。
「はい・・・一生お供いたします。」
コルデリアちゃんは、にっこりと本当にそんな音がしそうなくらい、嬉しそうな笑顔を浮かべてくれた。
暁に手を伸ばして ゆーが @yuuga
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