第2話 ファーストコンタクト

「まじすか」

 思わず漏れた第一声がそれだった。もう少し可愛いこと言おうよ私。まあ、でも仕方ない。

「実はね、」

 お母さんが小声で喋りだした。

「昴くん転校してから、全く学校が上手くいかなくなっちゃったみたいなのね」

「最近の小学生怖いもんね」

 この前イタリアンのレストランに行ったら、小学生の女の子三人組がいて、食べるよりもお皿指さしながら自撮りアプリ使ってたもん。テクノロジーと若さの両方に驚きましたよね。閑話休題。

「それでね。昴くん、不登校になったんだって。で、恵美ちゃんは不登校になったこと自体には心配は勿論あるけど、全然責めたりとかはしてないのよ」

さらに声をひそめる。

「だけどどうも、昴くんが不登校の自分ってのを気にしてるみたいで、家に居づらいみたいなのよね」

「なるほど」

 不登校、かあ。私は自分の小学校の思い出を反芻しながら、昴くんのことを考えた。小学校って考えてみると中学校とか高校より遥かにコミュニティーが狭いし、一度上手くいかなくなるとばらばらと崩れていきそうだよなあ。


 しかも小学生にとって小学校ってのは、ある意味世界のほぼ全てみたいなものだし。そこで上手くいかないっていうのは、とてもきついに決まってる。


「それで恵美ちゃんと色々話して、うちは頭こそクソガキだけど、一応大学生やってる奴ぐらいしかいないから預かれるわよ~って言ったのよね」

「うん。酷評しすぎだよママ」

 しかも恵美ちゃんにそんな言い方したのね。昴くん預けやすくするためのセールスポイント(?)に使われるのはまだ良いにしても、酷評の極みである。


「それにしても私、昴くんのこと知らなかったなあ」

「あんた子供に興味ないもんね」

 うっ。痛いところを突かれてしまった。

 そう。この世の大半の女性と大半の男性を敵に回してしまうかもしれないが、私は子供が苦手だった。接し方が分からないのだ。声を高くした方が良いのか、どういう笑顔を作ればいいのか、何を話せばいいのか。子供を相手にする、となると緊張が胸に走るのである。


 そんな私の心境を察したのか、お母さんが笑った。


 「嘘よ。丁度昴くんが産まれた頃から、お互い忙しくて連絡とってなかったし、帰省しても会ってなかったから、貴方は認識してなかったのは当たり前」

 

 あはは、と乾いた笑いをしながら私はとあることに気付いた。


 「ところでお母様」

 「なんでしょう」

 「わたくし、始めて昴くんを見た瞬間『うわあ!』と驚いてしまいました」


 そう。私と昴くんのファーストコンタクトは、私のとっても失礼な対応のせいで恐らく最&低の域に達しているだろう。ごめんなさい。

 恐らく人様の家にいるっていう緊張で身が張り裂けそうであろうお子様に、なんという酷い対応をしてしまったのだろう。穴があったら入りたいよ。


 子供の扱いのプロ・お母様にこの行いの謝罪の良い方法を求めようと思った私は、必死な顔で母を見つめた。


 「あらまあ」

 お母さんは本日のメインディッシュのハンバーグを炒めながら、くすりと笑った。


 「じゃあ尚の事、これから仲良くしなきゃね?」

 アドバイスくれないんかーい。子供との接し方分からないって知ってるじゃんかよー。そう考えている内に背中から冷や汗がたらたらを降臨し出したのであった。


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いつか、どこかで。 星川 @sasame_05

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