いつか、どこかで。

星川

第一章 プラタナスの木

第1話 お世話になります。


 冬休みの終わる三日前のことだった。思い返すと、今日ファミレスで学科の友達とお喋りしてた時に「あんたはガキみたいなもんだから、子供と対等に接せるんじゃないの~?」なんて言われたような気がする。そうだ。フラグだったのだ。ドラマだと、上手い具合に伏線が張り巡らされていたのだ。うーん、私の人生面白いなあ。


                 *


 そんなくだらない事をしみじみと思いながら私はお家のリビングで目の前にいるお客様を見つめた。先ほど大変申し訳ない態度をとってしまったので、お客様は少し、いやもしかしたらかなりしょんぼりなさっていた。まずいまずい。

 これは、ヘルプを求めなくては。


「お母さーん」

 台所で夕飯の準備をしているお母さんがなーに、と声だけで返事をした。なーに、じゃないわよ。ちょっとだけ毒づく。私がただいまあ、と言った時に教えてくれたら良いじゃないか。すっごい私悪者みたいなことをしてしまったではないか。いや、悪者ですねこれは完全に。はい。

 

 目の前の彼から一旦離れ、台所へ行く。お母さんは味噌汁を作っていた。

「お母さん。あちらの彼は、一体どこの方ですか」

「貴方の弟よ」

 なんていうブラックジョーク。お父さん聞いたら泣いちゃうよママ。

「馬鹿なことを仰らない。そんなん言ったらいつこさえたんですか」

「今日からよ」

「だからあ」

 私は呆れながら食卓に並べるお箸とお皿の準備をした。


「恵美ちゃんって覚えてる?」

 お母さんが突然話し始めた。

「うん。お母さんの昔のお友達でしょ」

 お盆に箸とお皿を並べながら私は答えた。確か、お母さんの高校の級友の妹さんで、お母さんともかなり仲良しだったとか聞いたような。

「実は恵美ちゃんね、つい半年前くらいにここの近くに引っ越してきたの」

「ええ、それ早く教えてよ。恵美さんに会いたいなあ」

 結婚してしばらくして今の居住地に引っ越したお母さんとは違い、恵美さんはずっと地元に住んでいたとお母さんから聞いた。お母さんと帰省する度に、恵美さんによく遊んでもらっていたのを覚えている。にこにこしてて、ぽわーんとした感じの人だった。

「それでね、あの子―昴くんって言うんだけど、恵美ちゃんの息子さんなのよ」

「へえ、なるほど」

 お父さん似らしい。そいえば恵美さんの旦那さんあんま顔覚えてないなあ。

「あれ、じゃあ恵美さんも来てたの?」

「ついさっきまではね」

「へ? お帰りになられたの? どうしてさ」

 お母さんは味噌汁から私に目線を映し、ちょっと苦笑した。


「しばらくの間、昴くんをうちで預かることにしたのよ。お願いされてね」


 私、上野由菜。十九歳女子大生。彼氏持ち(重要)。

 なんとこの度、小学生の少年と期間未定の同棲することになりました。


 なんとまあ。ドラマかこれは。

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