第2話

チャイムが鳴り、午後の授業の終わりを告げる。


ふぁあ、と欠伸をして、軽く伸びをする。


と、突然廊下側の窓から女子の悲鳴にも似た黄色い歓声が響いた。


何事か、とそちらを見ると、どうやら彩乃の言っていた高二の転校生への歓声らしい。


そんなにかと、半ば呆れながら顔を見た瞬間——————…思わず息を呑んだ。


みー…くん?


会っていなかったからとて、かれこれ十数年間片想いしているのだ。


見紛うことなどあるはずがない。


気づけば駆け出していた。


人混みを避けつつ、なんとか“みーくん”の前に出る。


「あの!…みーくん…ですよね?」


相手は今先輩なので、即席の敬語を使う。


———周りの視線が刺さる。


しばし沈黙があった後、微笑を浮かべた彼が、少し自信なさげに返答する。


「久しぶりだね…えっと、刹那ちゃん、だよね?」


会えた、また、…会えた!


彼のどこかよそよそしい態度も、もはや気にはならなかった。


「ずっと、会いたかった……です!」


目には涙が浮かび、必死に声を発する。


「ここじゃあなんだし…場所を移そうか。どこか、二人で話せるような場所、ある?」


うなづくと、そのまま呆然としている女子たちに背を向けて先輩は歩き出した。


第二理科準備室。


ここは普段使われていないため、滅多に人が来ることはない。


そう言うと、彼は安心したように笑い、しかし次の瞬間、彼の表情は消えた。


「あのさ、悪いけどオレ、お前のこととか知らないんだよね」


「………え?」


聞き間違いだろうか。


口調も、かつての“みーくん”のものとは、違う。


「どういう、こと…ですか?」


「いや、正確に言えば、覚えてない、…だな。オレ今、記憶がないんだよね。小さい頃の」


頭を強く殴られたような衝撃をうけ、視界が一瞬暗転する。


「悪い冗談…やめてくださいよ。さっき私の名前、呼んでたじゃないですか」


なんとか声を出すと、先輩は続けた。


「事故にあって、両親も死んだの。お前の名前は、アルバムに書いてあったからわかっただけ。…みーくんって文字と一緒にな。地元だし同じ高校なのは予想してたから、余計な詮索される前に手を打とうと思って、みーくんって呼んでくるやつが出てくるのを待ってた。」


目の前が真っ白になる。


どうにかなってしまいそうだ。


悲願であったはずの再会は、悲劇になってしまった。


「だからさ、もう金輪際俺と関わらないでもらえる?過去とか捨てたいんだよね…みーくんとか、もはや別人だから」


「……は、…い」


その一言が、私にとっては精一杯だった。


去っていくかつての“みーくん”の背中を見つめ、頬を零れ落ちていく雫をただただ眺めていた。

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