Pure love

@shiopy

第1話


本の世界は好きだ。

いつだって、私を勇気づけてくれるから。



「ねぇ刹那、高二にすごいカッコいい先輩が転校してきたらしいんだけど、知ってた?」


友人の彩乃の言葉に、読んでいた文庫本から少しだけ顔を上げる。


「そうなんだ。知らなかった」


そう返し、再び本の世界に閉じこもる。


「…もー、刹那はリアクションうっすいなぁ」


彩乃は呆れたような表情を浮かべ、ゆるゆると首をふる。


「興味もないの?見てみたくない?」


なおも聞いてくる彩乃に、半ば諦めにも似た感情を抱く。


「興味がないとかじゃなくて、私はまだ初恋引きずってんの。前にも話したでしょ?」


そう言うと、彩乃は目を輝かせながら納得したようにうなづく。


1つ年上の幼馴染、みーくん。


私は、ずっと彼のことが好きだのだと以前彩乃には打ち明けていた。


十年前に引っ越して行ってしまったが、私が今でも彼を想い続けているということは明確だった。


引越しは突然のことで、今彼について知っていることといえば、宮野朔夜という名前と、どこか海外の学校に行ったという事実だけだ。


みやの、の最初の文字をとって、みーくん。


「この恋がもう叶うはずないってことはわかってる…けど、少なくとも今は、この気持ちを大切にしたいから」


自分に言い聞かせるように、彩乃に悟られないように声を絞り出す。


「そっか。応援してるから、私」


彩乃はそう言うと、足早に駆けて行った。


おそらく、1人でもその先輩を見にいくつもりなのだろう。


再び、文庫本に視線を落とす。


私に本の楽しさを教えてくれたのも、みーくんだった。


引っ越す前は、よく本を読み聞かせてくれたりしたな、と、ふいに懐かしい記憶がよぎる。


できることならもう一度会って、気持ちを伝えたい。


幾度となく願ってきた願い事を胸に、窓の外に広がる清々しいほどの青空を見上げ、想いを馳せた。

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