09 悟るということ 9/12~9/14
〇2005年9月12日(月)
今日もコンクールメンツ練。
練習する気なんてあるわけないよ!
もう集中力ゼロ。どんどん楽器が下手になっていっていく……。っていうか、私はもうコンクールをまっすぐに見ることなんてできなくて。本気で全国大会に行きたいって頑張っている人たちに対してほんとうに申し訳なくて。ソロまで吹かしてもらっているのに。でも、いまは本当にそれどころじゃないんだよ。許してください……。
今日も、夜の9時くらいから夜中の3時まで、あやねとメールしてたね。この日、ついに呼び方を「あやね」にしちゃった! もう……我慢できなかったよ。あやねってずっと前から呼びたかったんだよ。あぁあやね♡って感じ。
でね、このあいだ教えてくれたけど、大里君も彩音って呼んでいるんだね。だから、私は対抗して、「あやね」って呼ぶことにした!! なんだか一緒はいやなの。
この日はあやねがたくさん私を褒めてくれたね。
カッコイイとか、クラッとしたとかドキッとしたとか……(笑)
なにより、「でもいつかは美紗都って呼んでみたいな」が本当に嬉しかった。ほんとうに……。
絶対……、いつか一緒になろうね!
あと、この日はあやねが大里君に対して罪悪感を持ち始めたって教えてくれた日です。
「あたし、こんな中途半端な気持ちで力斗さんと一緒にいてもいいのかなー。絶対これって、力斗さんに対する裏切りな気がする」「うう……。うん……、不安もあるけど自己嫌悪だよ……」とか。
なんか、私の気持ちがあやねをほんとうに苦しめているなあって思う。ただわかっていても、私はわがままだから、あやねに「離れたくない!」って言ってしまうんだよね。
だって……、本当に離れたくないんだもん。
ダメだな自分って……。
……どうしたら正解で、どうしたら間違いなのか、うちら二人とも分からなくなってきている時期だね。
〇2005年9月13日(火)
この日、大学のクラスメイトに性別をウソで隠して説明したら、「お互いすんごい意識しているなら早く一つになれよ」って言われた。
何も知らないから、簡単にこう言えるんだろうけど、この気持ちって私も大切だと思うよ。あやねは、こういう気持ち、やっぱりなれないのかな?
あやねはこの日、友達に相談するために静岡の実家に帰ったみたいだね。
笑いあり、涙ありのデートか……。
その友達は、私に対して否定的な意見ってなかった? 今度あやねに聞いてみよっと。
この日は、私の方からメールを送って、あやねが返事をくれたときには寝ていたんだよね。
「美紗都さんからメール来ただけでなんか泣けてきたよ」って……。
ほんとうにそこまで想ってくれているなら、あやねは大里君のことを忘れて、私のところにくるべきだと思うけど。どうなの? 本心が知りたいよ。まだ好きって言ってもらったことないんだよね。私は、本当に大好きだよ!
……ああ、私もはっきり好きって言ってないんだった。
それどころか恋愛事情すらちゃんと説明していないや。忘れてた(笑)
お互い、同じくらい想い合っていたら嬉しいなあ。幸せだなあ。そしたらホントに両想いなのにね。私があやねを想っているくらい、あやねも私のこと想ってくれていますように……。
あと、今日のメールの最後の、「おやすみなさい♡ ちゅっちゅ。♥。・゚♡゚・。♥。・゚♡゚・。♥。」が可愛かったよお……!
あーあ。あやねの言うとおり私ってけっこう単純だね(笑)
〇2005年9月14日(水)
あやねからこの日来たメール。
「てか、あたしたちの関係って一体何なんでしょう? 大里夫人同士の友情なのかな? 先輩後輩愛なのかな? うーんうーん」
……あやねはさ、そうやって相手の反応を求めるようなメールを送りすぎだよ。だって、絶対大里夫人同士の友情だなんて思ってないでしょ!? もし、本気で私が「あぁ……そうだったのか。あやねから見たらただの大里夫人同士の友情かあ……」って思ったらどうするわけ!? もう! 反省しなさいよ!
このメールに対して「本気でそう思ってるの? もっと特別な関係だって思っているのは私の方だけなの?」って送ったら、そのあと、あやねが電話くれたんだね。
――この電話の最中に、大きな事件が起きたよね。
二人で「うちらってどういう関係?」っていう電話を一時間くらいしていて、私の携帯電話の電池が切れて、一時中断したとき、私宛に大里君からメールが来てたんだよ。
「三日も待てないのかね?」って。
私がこれを、あやねに対する、「(沖縄旅行まで)三日も待てないのかね?」と勘違いしちゃって……。
大里君に私との関係がバレたと思って、あやねがすんごい罪悪感にかられてしまったんだよね。実際は、まったく関係のないことに対する、三日も待てないのかね、だったけれど。
そう、この時あやねは、私との関係が大里君への裏切り行為だって、この日ほんとうに悟っちゃったんだよね。
だから、「あたしは大里君と別れて、美紗都さんとも一緒にいれない」って言い出したんだよ。自分にしか落ち度はないとか、謝ってばっかり。どうしていいかわかんないよ……とか。フラフラしたあたしが全部悪いみたいに言ってさ。
その言葉、どれだけ私が苦しいか分かってた? 本当に離れなきゃいけないのか?って……怖くなった。
「美紗都さんなら他にもっといい子がいるから、寂しがらないで」って言われて。
ショックだった。悲しかった。
大里君がいるから、邪魔したくないから片想いでいようとしていたから、はっきり好きって言ってなかったかもしれないけどさ……。
全然、私の気持ちが伝わってないんだなって……ほんとう悲しかった。だから私は、
「あやねって私に恋愛感情ってあんまりないの?? ないなら大里君と一緒にいていいと思うんだけどな」って言ったんだ。
……、なんか私ってイジワルだね。
私に対して恋愛感情が全くないなんて、全然思ってなかったもん。私のこと想ってくれているとわかってたのに……でもはっきり言ってくれないから……やっぱり不安だったんだよ。
「ごめんね……恋愛感情がないわけじゃない。人を好きになることがこんなに苦しかったことって今までないよ……」って言わせてしまって。
「美紗都さんのこと、どう想ってると思う?」
この質問に答えていたら、あやねは泣いてしまって。そして、こう言ってくれたんだ。
「いまはこんなこと言う自分が許せないから言えないけど……、好きってはっきり言ってあげられなくてごめんね」って。
「いつかいろんなこと考えないで、好きって言える日がくるといいね」と言ったら……あやねは、「うん。」って答えてくれたんだよ。
よく覚えていないかもしれないけど、その「うん。」って言葉が、あの日一番嬉しかったよ。ほんとうに嬉しかったんだ。
すごい複雑で逃げ出したくなっちゃったりもするけど、うちらは両想いなんだよ。まわりの人が羨ましがるような、両想いな関係だったんだね。ほんとうに……ほんとうに嬉しい。
私はさ、あやねの気持ちを聞く前に離れ離れになることが一番怖かったんだと思う。
大里君とのことでうちらが一緒になれなかったとしても、「うちらはお互いに想い合っていたんだね」って思えるなら、まだ納得できそうでしょ? それならば、幸せだったって思えるかもしれない。
でも、この出来事があやねを大きく苦しめることになるだなんて、まだ私には気付けなかったんだ……。ほんとうに……ごめんね。
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