08 喜びと苦悩のはじまり 9/10~9/11




〇2005年9月10日(土)


 この日のお昼に、磯ちゃんのいまの気持ちを聞きました。

「でもちょっと気をつけないとなあってちょっと思った。自分の気持ちをちゃんとセーブしないとなあって」メール。


 正直、こんなこと言う時点で、もうセーブできてないって!

 明日香ちゃんに会う20分前にもらったメールには、

「確かに、恋の相談相手失格だ(泣)でも本当にそう思うんだもん(泣)美紗都さんに彼氏とかができちゃったらやだなあって思っちゃうんだもん……」って。

 磯ちゃんって本当にわがままで自己中だなって思いつつ、私の中ではっきりと答えが出ました。


「あやねのこと、好きでいよう!」ってね。

 でもね、このときの磯ちゃんにとっては、やっぱり大里君がダントツ一番で、でも、優しくしてくれる美紗都さんも、少しは気になるって程度だと思ってたよ。

 それこそ、磯ちゃんはミスターチルドレンの『LOVE』くらいで、彼氏がいるけど、美紗都さんが他の誰かに染められるのが気がかりで、あたしの特別でいてほしいってことなのかと思ってた。

 でもね、私は磯ちゃんにとって二番目であっても、それでも構わないから好きでいよう! って思ったんだ。この日、明日香ちゃんと会う20分前くらいの、待ち合わせの駅に向かう電車の中でね、たしかに誓ったんだよ。


 私は、磯山彩音さんのことが本当に好きになりました。

 でも、大里君と磯ちゃんが付き合っている間は絶対に余計な手出しはしない。私の気持ちを伝えないで、片想いをしていればいい。

 そう、私が女の子を好きになるってことを、磯ちゃんに言わなければいいんだ。もう伝わってしまっているだろうけど、言葉にしなければ……。

 これって、絶対損なことしているけど、やっぱり……、誰でもいいから付き合いたいって頑張っている自分より、好きな人に想いを寄せている自分の方が私は好きなんだよ。どれだけ先でもいいから、いつか磯ちゃんが私だけを向いてくれる、そんな未来を夢みようって誓いました。

 もちろん、いつか磯ちゃんが私のことだけを好きになってくれるっていう自信が少しはあったから、こう思えたんだと思うよ。磯ちゃんが私のことを必要って思ってくれているのは、すごい伝わってきたし。それが嬉しかったしね。

 だから、明日香ちゃんと会うのもこれで最後にする。そう決めてきたから。

 ……そして、さっき片想いでいようって誓ったばかりなのに、磯ちゃんとすんごく重いメールになってしまったんだよね。


 このとき、私は本気で磯ちゃんに怒ったよね。

「謝るなんて絶対に違うよ!」ってね。

 私が長い長いメールを送ったのが原因だったね。

 内容は、「私は磯ちゃんと仲良くするのは楽しいけれど、大里君と今のままでいてほしいから、ちょっと磯ちゃんとは距離を置きます」って内容だね。

 私はもう磯ちゃんに恋をしていたから、ちょっと離れたってこの想いは消えたりしないって自信があるから、簡単にこんなことが言えたんだね。

「さっきの長いメールもらって、美紗都さんともう今までみたいに楽しく話したりメールしたりできないのかなって思ったら、あたし本当怖かった。美紗都さんがあたしのそばからいなくなっちゃうって怖いんだってすごいわかった」

 って返信メールを見たとき、私はどうして、もっと磯ちゃんのことを信じてあげることが出来なかったんだろうって反省したよ。

 私は本気で磯ちゃんのこと好きだったけど、磯ちゃんは、そんなに私のこと想ってないだろうって、勝手に考えた。

 磯ちゃんには大里君がいるのに、本気で私のことを考えてくれていたんだね。気づいてあげられなくて、本当にごめんね。

 でも本当に、本当に嬉しかったよ。

 ますます、いつか一緒になりたいって思った。

 道のりはとても険しいだろうけど、あやねと一緒になりたいって本気で思えるようになったよ。ちなみに、このとき私自身が磯ちゃんに送ったメールの中で気に入っている文章があるんだ!

 それは……、


「磯ちゃんに想いをよせるってこと。私に勇気があったら、そんな気持ちを磯ちゃんに対して抱けて、そんな気持ちになったりもするのかな」です。

 ぎりぎりの告白。私だけ自分の恋愛観を内緒にしているって、ちょっとずるいね。それに、本当はもうすでに磯ちゃんのこと好きだったからウソつきました。ほんとうは、あやねのこと大好きだったもん。

 この、好きだって告白する勇気がないのは本当だね。

 どうしても、自分の気持ちより、大里君の方が優先されてしまって、「大里君と磯ちゃんがうまくいってほしい」が最優先になってしまうんだよ。いつか、大里君を気にせず、「磯ちゃん大好きだよ」っていう勇気が生まれて欲しいなって気持ちを込めた、自分に向けた言葉。



〇2005年9月11日(日)


 この日は大里くんの資格試験日でした。

 試験会場が私たちの大学だなんて驚きだよね。たまたまコンクールメンツの練習日だったから、試験開始まえに一緒にごはんを食べたの。会いたいって言ったのは、私のほうから。

 なんだか変にどきどきしたよ。そして、何か私と磯ちゃんの関係を明かすことができないものかなっていう期待もあったと思う。コソコソしてたら、私と大里君の関係が壊れてしまうから。


 でも……、無理だった。何も言えなかった。

 もちろん、大里君が試験直前だったって理由もあるけれど。

 このまま、大里君に隠れて磯ちゃんと仲良くしていて、それがいつかバレたとき、いったい私と磯ちゃんの関係はどうなってしまうんだろうね。早く早く、このことを大里君に言わなきゃいけないのに……。

 この日、磯ちゃんも試験後に大里君に会うらしく、

「変なふうにドキドキしちゃってる自分がいます……」だって。

 この先どうなるのか分からないけど、私と磯ちゃんの関係は、もう後戻りできないところまで来てしまったんだなって……、このメールを見て思ったよ。

 それは、嬉しくもあるし、苦しくもある。

 複雑だなあ……。


 この日、相談相手の高梨さんに言われたこと、

「私が大里君だったらだけどさ……、美紗都と磯ちゃんがね、人に言えない複雑な恋愛観を持っていると知っていたなら、美紗都に磯ちゃんが取られても、美紗都とは友達でいられると思うよ。でもさ、それをずっと内緒にされていて、隠れて会ったり仲良くしてたら、今までの小学校からの関係すらすべて崩れてしまうような気がするんだよね」って。

 ただ、「美紗都の気持ちが固まりつつあるなら、いいと思うよ!」って高梨は言ってくれて、少しだけ救われたよ。


 でも……、私は自分の恋愛観も隠したままで、嘘までついて、大里君に隠れて磯ちゃんと仲良くしてしまっているよね。手をつないで、もう、それぞれの想いだって、お互い知りはじめていて。どうしよう……。どうしよう……。どうしていいかが全然わからないよ。

 ちなみに、この日は磯ちゃん家に大里君が泊まっていたから、磯ちゃんとは朝しかメールしていません。



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