10 理屈抜きでは 9/15
〇2005年9月15日(木)
今日はコンクール直前の大切なホール練習です。なのに、ほとんど寝れなかったな。
あれ? 昨日の電話で、好き!って言ったよね? もし言ってなかったら、言わせておいて最悪だな……。でも確か言った気が……。
とにかく、あやねが沖縄から帰ってきたら、あやねの目を見ながら「あやね、好きです」って言わなきゃ。あやねは大里君とまだ付き合っていて、私に言えないかもしれないけど、私のほうは言ってもいいはず。早く沖縄から帰ってこないかな。
って全然大里君のこと考えてないじゃん。最低だ自分……。
おっと、この日の話をしないとね。
朝、あやねから来たメールね。
「あたしは今の自分の気持ちを美紗都さんに伝えちゃったことがやっぱり、やっぱりすごい大きな間違いだった気がして自己嫌悪です……」
「あたしは一体何を望んでこんな事言ったんだろうって、そればっかりです。あたしの気持ちは絶対隠しておくべきだったんだって……」って。
正直、最初よく意味がわからなかったよ。
なんでいけないことなの? 大里君に対して申し訳ないって思うからでいいのかな。
私に対しては、何もないよね? 私は嬉しかっただけだから、このときのあやねの気持ちが、いまこう書いていてもよくわからないんだよ。
……あっ、大里君と付き合っている最中に、別の人に想いを告白する、そんなことをした自分自身のことが許せなかったのか。そして、彼氏の大里君に対して申し訳なさでいっぱいになって。
だからこんなにあやねは苦しんでいたのか。
そんなあやねの気持ちも知らないで、「あやねは反省すれば、私のとこきていいんだよ」って……あぁ、ほんとうに困らしてたんだ……。私自身があやねを困らしていたんだね。だから、「あたしは最愛の人を裏切っちゃったんだよ。」かぁ。
私に想いを伝えたことが、こんなにもあやねを苦しめるなんて。私と逆だったんだね。私はただただ嬉しくって、あやねはただただ苦しくて。
昨日は、私のワガママだったんだね。想いを伝え合っちゃ……やっぱりいけなかったのかな。
でも、闇の中に落ちてしまったあやねを助けたい気持ちはほんとうだよ。このまま、あやね一人がどんよりしていたら、そんなの私、悲しくて耐えられない。
だから、「ありがとう美紗都さん」ってくれたメールは、少しほっとしたんだ。この日は一日中メールをしていたわけだけど、夜になると、少しだけあやねのメールが明るくなってきたね。
ただ、私に気をつかってわざとそうしてくれるのかなって思ったりもした。この日の最後の方は、ほんとうのこと言ってくれてない感じがすごいしたから。
なんでこの日は、強引にメールを終わらせようとしたんだろう。私が明日もホール練だから? 違うよね? なんだか、恐くなってきた。私に気をつかいはじめてるのかな。まっ、考えすぎかな。
ただ、この日もこんなやりとりがあったね。
「離れたほうがいいって本気で言わないで!(涙)」
「んー。その発言はかなり本気なんだけどね……」
でもさあ! あやねって、すべて理屈の話を書いているんだよ。ああだから、こうしちゃダメとか。自分を理屈で納得させないと動けない子って印象をうけるなあー。つまりいい子ってことなんだけど、悪い子になりきれないの。
人ってさ、考えれば考えるほど理屈を求めて、正解を探してしまって、世間的に間違っている方向に進めないって感じがするんだよね。
こないだ友達に、「理屈は置いといてさ、どうしてもこうしたい! とか感情的な気持ちだって大切なんだよ。理屈を求めて考えて、考えまくったあとなら、最後はそれに頼らず、自分の一番大切な感情で動いていいんだよ。それはけっして悪いことではないと思う」って言われて。この気持ちが、あやねには欠けてるなあーとほんとうに思った。
これだけあやねは考えて悩んで傷ついていたんだから、これ以上理屈で自分を苦しめないでよ。もうあやねは最終的にどんな答えを出したって、悪い子なんて言われないよ。
私は、やっぱりあやねと一緒になりたい! 付き合いたいと思うよ。っていうかは、一緒にいるために付き合いたいかな。
いつも一緒にいれるなら、付き合えなくても、彼女でなくてもいいかも。あ……、でもさすがにそれは言いすぎかも。いい子ぶりすぎかも。
あやねは理屈抜きだと、どういうふうに思っているのかな? 「美紗都さんと一緒になりたい!」って言ってくれるのかな? うーん不安だ。怖くて、とてもじゃないけど聞けない。
ほんとう怖いな。いつか、いつか聞くことになるかもしれないし。一生この答えは聞かないかもしれないね。ほんとう、この先うちら3人はどうなるんだろう……。
そうそう、この日は大里君から「コンクール頑張れよ」ってメールがきて、「何やっているんだろう私。大里君を裏切って一体何をしてるんだ……」って、おもいっきし泣いた日だった。
大変だったな。もうずっと泣いていた。駅の駐輪場から家まで、自転車こぎながら、ずーっと。かなり変な人だった。車に轢かれなくてよかった。ほんとうに泣いたな。たぶん、人生で一番長かった。どうしてなんだろう。
……そっか、私って、大里君のことも好きなんだね。
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