※◇7.魔性ガール⇔クールボーイの悩み


「……俺が引っかかっていること、いいか」

「え、あ、うん。もちろん」

「……あの、についてなんだが」


 第一の物語のボス戦時、ブラックホールに吸い込まれつばさわたる杏鈴あんずと共に宮殿ではなく下街へと落とされた。翼が発見した頑丈そうな造りの建物、その出入口の扉を潜ったところにある受付カウンターに刻まれていた“Crystal Knightsクリスタルナイツ”のアルファベット。


 気負うことなく建物内の部屋の扉を次々と開けていった翼と、それにびくびくしながらもついていった航が一室で目にした一枚の大きな絵画は写真と間違えてしまうほどの才能で描かれていた。それだけであったら何も問題はなかったのだ。その絵画に描かれていたものを、問題がないとはとてもじゃないが言い切れなかった。


「あれさぁ、……?」


 描かれていたのは、紺の軍服を着用し、腰に青色の銃の入ったホルスターを二つ下げ、敬礼のポーズを取っている笑顔の男性の集団だった。その集団の顔を順に追っていき、二人は息を呑んだ。その中に、翼と航、それぞれとそっくりな顔をした人物が存在していたのだ。


 宮殿のほうから爆音が聞こえたため、じっくりと検証することは出来なかったが、瓜二つであるその顔に受けた衝撃は強かった。


「……俺達、だが、俺達ではない。考えるにあれは、俺達のCrystalを所有していた過去の人間ではないかと」

「俺達が引いている血の源って言うことだよね」

「……ああ。しかし、あの絵画、どうも腑には落ちんのだがな」

 

 翼は両手を組みその上に顎を乗せ、しかめっ面で地面を見つめる。航も同感のようだ。


「あのCrystal Knights。直訳的に騎士だから、当時の王国を護ってた今で言う警察的な組織なのかなぁ。どうして俺の所有者がその中にいるのかねぇ。あの集団の腰に下げてるホルスターと銃ってさ……」

 

 浮かび上がるのは、gameAdaptゲームアダプト中に翼が腰に下げるブルーのホルスターと銃。


「……ああ、俺のW武器で間違いない。ホルスターも銃も全く同じデザインだった」

「翼くんの所有者がCrystal Knightsの一員であったことは断定するとして俺は一体……自分の色はイエローだしその上Wは槍。あの人達が背中に背負っていそうな様子もなかったよね」

「……俺は、航の所有者はあの組織に一時的にいたのではないかと考えているんだが」

「一時的に……じゃああの後に俺の所有者が組織を抜けたとか何か展開した可能性があるって感じなのかなぁ」

「……恐らく、としか全てにおいて言えんのがもどかしいんだがな」


 航は悩まし気にポリポリと頭を掻く。翼は背凭れにだらけきっていた体勢を立て直した。


「……俺が思うに、Crystal宮殿事件の勃発した過去と俺達の生きている今。両方含めてこのgameで起こっている事象の全てには何らかの意味が存在している気がするんだ」

「それって、どんなちょっとしたことでも?」

「……ああ、例えばあの絵画を踏まえるが、俺達がボス戦時落とされた場所も過去の所有者との繋がりを示しているように思う」

「場所?」

「……俺と航、杏鈴は下街。五十嵐いがらし折笠おりかさ如月きさらぎは宮殿内。白草しらくさは後から到着したが宮殿の外からきたことから宮殿内には落とされていないと推測出来る」

 

 翼の知的な羅列に航は驚かされるばかりだ。軽く瞳孔が開き航は興奮気味になる。


「なるほどっ! Crystal Knightsの組織の建物は下街にあった。だから俺達は下街に落とされたのか! と、なると、ゆうくん達の所有者は宮殿内の貴族的な人達であった可能性がかなり高くなるってことだよね!」

 

 素早く頷き翼は推論を続ける。


「……他の疑問に対しても当てはまる。Dark Aダークエーから解放された二号の覚醒Crystalが黄であって、如月含めて航と三人のチームになったこと。俺のほうで言えば、戦闘能力は低いが俺とは違う模様の描かれた銃を所持している杏鈴とWが与えられていないくせに空のブルーのホルスターを堂々と下げている白草がグループになっていること。この人的配置に関しても、きっと意味があるハズだ」

賢成まさなりくん……でも、あの絵画の中には賢成くんのそっくりさん、いなかったよね」

「……白草があの集団の中にいなかったことが、Wを所持していないことと何か関係があるのかもしれんな」

「あ、待って。杏鈴ちゃんの持ってる銃が実は賢成くんのって可能性はないかな。杏鈴ちゃんは戦う要員じゃなくて、gameの設定ミスで手に渡ってしまっているとか」

「……何とも言えんが、可能性がゼロと言うわけではないかもしれん。ただそうすると身を護るためのWが杏鈴の手元からなくなると言うことになるんだがな」

「あっ、そうか。それもちょっと困るね。じゃあ違うかぁ」

「……なんせ」

 

 翼の瞳は一点を見つめ、深みを増す。



「……いけすかないやつだ、あの旅人は」

 


 ボソッと吐き捨てるように呟いた翼。その声色からは翼の賢成に対する複雑な感情を嫌にでも読み取ることが出来てしまう。


「……他のMemberメンバー達がやつはデッドのスパイなのではないかと少なからず疑っている中で俺は全く別のことを思っていたんだ」

 

 翼が続けたある単語に、航の瞳は静かに大きさを増した。


「……白草がAliveアライブの持ち主なのではかと密かに考えていた」

「Aliveって?」

「……忘れたか? このgame全体のタイトル。―Crystal game Dead or Aliveゲームデッドオアアライブ―」

 

 黙り込んだ航の瞳を捉えながら、翼は口を動かし続ける。


「……宮殿事件で“死の光”と“生の光”は激しくぶつかり勝利を掴んだのは“生の光”とフォールンは語っていた。“死の光”、つまりデッドがそこまでして直接的に殺し合いたかった相手なのだろう」

「デッドは、アライブを憎んでたってこと?」

「……ああ、それもかなり強くな。まぁひとつの可能性だが。憎しみだけではなく恨みも持っていたかもしれん」

「それがどうして賢成くんだと思ったの?」

「……あいつが自分で自身のことを恨まれやすいと豪語していた。それにWがないことや戦闘能力が超越してMember達の中で高いこと。俺の中のアライブのイメージに単純に多く当てはまったと言うだけなのだが……」

「でも違ったよね。賢成くんの覚醒したCrystal」

「……そうなんだ。それも大変残念な名称のな」

 

 賢成が持つはEARNEST一途なの意味を司るCrystal。アライブの持ち主でないと分かった以上、彼が杏鈴のストーカーなのではないかと言う疑ぐりが高位となるのは仕方のないことだ。


「残念って……俺、一個気になってたんだけどさ、そもそも杏鈴ちゃんって本当に賢成くんのこと知らないのかなぁ」

「……知らないと言っていた」


 航の返してきた「そう」と言う短い返答は翼の耳には入ってない。

 

「……本当に、知らなければ、いいんだがな……」


 翼の切な気な横顔から航は目が離せない。彼が賢成に抱いてしまう嫌悪を生み出している主な原因は確実に杏鈴なのだから。こんな時にだけどうして自身の超鈍感は発揮されぬのだと航は咄嗟に自分を責めた。


「え、えっと、さ。杏鈴ちゃんってさ、普段ど、どんな感じの子なの? 俺まだあんまり話したことなくて、これから梨紗りさちゃんのことを知るのに参考になればと思ったんだよね、今」

 

 分かりやすく慌てふためいてしまった航だったが、少々ぼんやりとしていた翼には悟られずに済んだようだ。


「……正直、読めん」

「読めん?」

「……怖がっているのかと思えば意外と冷静であったり、かと思えばいきなりにこにこ笑ったりもするんだ。理解したいところなのだが、何を思って何を考えているのか、考察すればするほどさっぱり分からんところにもやつくんだ」

 

 度肝を抜いてくる翼の言葉に航の胸は潰れてしまいそうに縮まる。“それは恋なんだよ翼くん!”と喉仏の辺りまで込み上げてくる少女マンガのテンプレートのような台詞を押し込めるのに必死になった航は、何とか返答を絞り出した。


「それってさ、もはや梨紗ちゃんみたいに何にも考えてないんじゃないかな」


 冷ややかな翼の視線。しくじったと航の慌てる動作は相乗しかかったが、翼が表情を緩めたのが分かると少しずつ落ち着いていった。


「……なるほど。“仮”の文字はつくがやつらは友人同士だ。似ているのかもしれんな」

 

 ふと、航はACアダプトクロックの時計針が差す時間を見てギョッとした。


「翼くん。大分話し込みすぎちゃった! 帰り大丈夫?」

「……あ、ああ。そろそろいくとするか」

 

 航がバスケットボールを手にすると、二人はベンチから立ち上がり公園のゴミ箱に空になったペットボトルを捨てた。翼がバイクのシートを開け取り出したヘルメットを装着する。


「優くんには今日このあと、俺から共有しておくよ」

「……頼む。には報告義務があるしな」

「翼くん、絶対今わざとリーダーって言ったよね」

 

 航は苦笑いをしたが、すぐに表情を真剣なものへと戻した。


「纏めるとさ、全ての物語をクリアするには嫌でも読み解いていくしかないんだよね。一個一個」

 

 シートに跨りヘルメットの隙間から翼は力強い視線を向けてきたかと思うと、ポンッ、と手を航の右肩に置いた。


「……案ずるな。壁にぶつかったその時はまた共に苦悩しよう。Crystal Knights同士なのだから」

 

 航の肩から手をスルリと離すと、翼はハンドルを切りバイクを走らせ公園から姿を消した。その背を見送っても、航はその場をあとにせず、ダンダンッ、と強めにドリブルする。手から放たれたボールは弧を描き、ゴールへと入り込んでいった。


「よっし……」


 地面に転がったボールを手にし、これから先のことに思いを馳せながら、航は星のちらつく夜空を見つめていた。





 ◇Next Start◇

 三章:Knocking memoriesノッキングメモリーズ





 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜


 ◇Link◇

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054881417051

 

 ・EP1:※◇16

 ・EP1:◇19

 ・EP1:※◇22

 ・EP1:※◇23

 ・EP1:※◇24

 ・EP1:◇29

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