11:最後の手掛かり

 但馬美代子の自宅を後にした卜部の下にちょうど山代から連絡が入る。

「もしもし、俺だが」

「あ、ウラさんですか。相澤恭香に関連する事件が一件だけ見つかりました」

山代は電話越しにでも興奮気味だとわかるくらいに声が上擦っていた。

「わかった。すぐそちらに向かおう」

卜部はタクシーを捕まえ、署へと急ぐ。

署に戻ると、山代が入り口で出迎えてくれた。飼い主のご褒美を待つ子犬のように、卜部を視認すると足早に駆け寄ってくる。

「調査は順調だったか?」

「はい。不審な自殺や事件は確かに多いのですが、相澤恭香らに関係する者で検索したとき、ひとつ気になることがわかったんです」

「気になること?」

「相澤恭香の恋人――高崎陽翔の行方が今現在も尚、不明であることがわかりました」

高崎陽翔は相澤恭香の恋人として、事件当時も事情を聞こうと試みたが、体調不良を理由に断られ続けた。大切な恋人を失ったのだから、それも仕方のないことだと、卜部もあまり追求しないようにしていたが、その配慮が仇となり、高崎陽翔の行方不明という状態に陥ってしまった。

「行方不明になったのはいつからだ」

「正確には不明です。ただ相澤恭香が自殺をして間もなくだったようです」

 なるほど、と卜部は両腕を組んだ。

「自殺した可能性も考えられますよね」

「いや、それは可能性としては薄いかもしれんぞ」

山代は手で卜部を制した。

「今回の事件に関連する死は全て、表沙汰になっている。高崎陽翔も今回の事件の関係者であると仮定するならば、やはり高崎陽翔の死も公になっていないと辻褄が合わないと思う」

「確かにそうですね」

「即ち、高崎陽翔はまだ死んでいないはずだ」

 不確定な要素が大きく、半ば希望的観測ともいえる卜部の予想だが、当人は確信めいたものがあった。それがどこからくるのか不明だったが、高崎陽翔が見つかれば、それも自ずと分かるのだろう。

「まずは消えた高崎陽翔を見つけよう」

 この事件の終着点も近い――とうっすらながら朧気に見える犯人の姿を、卜部はしっかりと捉えた。


卜部と山代は地道な聞き込みと、独自の情報網を駆使し、高崎陽翔の住むアパートを突き止めた。今まで散々探しても見つからなかった行方不明者が、簡単に見つかるのは、ただ自分達の運が良かっただけなのか。二人の執念が行き着いた結果なのか、定かではなかったが、ここは素直に喜ぼう、と卜部は思った。

そして、高崎陽翔が住む部屋の呼び鈴を鳴らし、扉をノックして出てきた男は――。

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