6:証言③

「なるほど。いつもより通報が遅かった、というわけですね」

 最上は運ばれたパスタを食べながら、少しずつ当時の話を語る。

「そうです。少し不思議に思った程度なんですけど」

 逆に混乱させないか不安です、と最上は小さく頭を垂れるが、卜部はすぐにかぶりを振った。

「いえ、ありがたいです。こういう些細なきっかけから解決の糸口は見つかるものです」

「そう言ってもらえると助かります。まだ聞きたいことはありますか?」

「じゃあ僕から」

 今まで黙ってメモをとっていた山代が手を挙げた。こうやって貪欲に捜査に加わるところが彼の強みだ。

「通報してきた相手はどなたでしたか?」

「名前まではわからないですね。こういう時って相手も名乗らないケースの方が多いので」

 最上は宙を見上げて記憶を辿りながら答えた。

「男ですか? 女ですか?」

「ああ、男でした」

「通報する人は決まって同じ人ですか?」

「一概にはそうは言えないですけど、まあ付近の住民であることは間違いないでしょうね」

「いつも、通報してから動くんですか」

「恥ずかしい話ですけど、そうですね」

 恥ずかしそうに頭を掻く。

「管理室と焼却炉は離れてますので、こちらから気付くことは基本的にありません」

「そうですか。ありがとうございます」

 納得した様子の山代は簡単に退いた。

「実際、事件の進捗はどうなんですか?」

「まあ詳しくはお話できませんが、正直なところ、芳しくはありません」

「僕がこんなこというのもおかしいんですけど、事件の解明をお願いします。あんな無惨な死に方をしたんじゃ、被害者も死んでも死にきれないと思うんです。僕も娘がいるんですけど、同じ境遇になったらと考えると……」

 最上は話ながらうっすらと涙を浮かべた。

 焼け焦げた死体を見た唯一の一般市民だ。トラウマになるのも無理はない。

 それにもうすぐ二歳になる愛娘を今回の被害者と重ねてしまったのだろう。

 会社をやめた理由も、そこにあるのでは、と卜部は感じた。

 この事件の被害者はもちろん相澤恭香だ。しかし、最上のようにこの事件に影響を受けた人物も少なからずいることは間違いない。失った命は取り戻すことは出来ないが、まだこれからの未来あるものの平穏はなんとしても、我々が守らなければならない。

 卜部はそう固く誓わずにはいられなかった。

「ありがとうございました。必ず真相を突き止めます」

 強がりとも勇敢ともとれる言葉を吐き、最上への聞き込みは終了した。

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