4:証言①

 第一発見者の最上高信は事件後すぐに会社を辞め、運送会社のトラックの運転手として再スタートをしていた。仕事終わりに何とかアポイトメントを取り、彼の自宅付近のファミレスで待ち合わせる。

 指定した時間の十分前に最上は姿を現した。頭にバンダナを巻き、はみ出る髪の毛は金色と黒色が入り雑じっている。

「どうも。お久し振りで……いいんですよね?」

 どのような態度をとっていいかわからないのか、中途半端なお辞儀をして、申し訳なさそうに座った。

「一年近くも前のことで、再度手間を取らせてしまい、申し訳ありません」

 卜部と山代も頭を深く下げた。

 最上は二人がコーヒーを飲んでいることを確認すると、ウエイトレスにコーヒーとパスタを頼んだ。

 お腹空いてるんですよね、と笑う姿は好青年そのものだった。

「いえ、こちらが呼び立てしまったものですから、こちらこそ申し訳ない」

「気にしないでください。警察の方が関係者に何度も聞き込みをしているのは、ドラマや小説で見たことがあるので、わかってますから。まあとは言っても、恐らく期待に沿える情報は与えられないと思いますけど」

「それでも構いません。生の声を聞くことで、こちらも今まで気にしなかったことが見えてくるかもしれませんから」

「そんなもんなんですか」

 感心した様子の最上は、何でも聞いてください、と両手を広げて見せた。

「まずは、通報があった時のことをお聞きしたいのですが」

「そうですね、通報があったのは、日付が変わるちょっと前のことで、二十三時五十分だったと記憶しています」

「時間は正確ですか?」

「正確です。前の会社のときも運搬がメインだったんですけど、運搬されないと次の動きが滞っちゃうので、とにかく時間厳守と上司からも言われ続けてきました。そのお陰か、時間に対してかなりシビアに考えるようになりまして。次の職としてトラックの運転手を選んだのも、その派生です。だから時間に関しては、絶対に間違いありません」

 最上は胸を張って答えた。余程の自信があるらしい。

「通報の内容は?」

「敷地内から煙が上がっているが大丈夫か、みたいな内容でした。まあうちの敷地じゃあよくある話ですが、火事にでもなったら大変なんで、とりあえず見に行こうと懐中電灯片手に向かったわけです」

「一人で、ですか」

「そうですね。あの会社は敷地のわりに人員は最小人数を更に割って切り盛りしていたので、さっき運搬とか言いましたけど、敷地の管理とか守衛みたいなことも持ち回りでやる必要があったんです。その日はたまたま俺を含めて四人しかいなかったんです。だから電話を取り次いだ俺が対応して、残りはそこで待機、という形を取ったんです」

 最上の働いていた会社の敷地は確かに広い。最上ら社員が待機している管理室からは、対角線上に位置し、件の焼却炉まで歩くのは億劫だ。きっと三人は面倒事を最上に押し付けたのだろう。最上の語る表情を見て、卜部はそう感じた。

「実際行ってみると、もう火はほとんど燃え尽きていました。少し煙突から細い煙が上がっているくらいで」

「周囲に人は?」

「もちろんいませんでした。ただ深夜でしたので、はっきり言うと自信はありません。ただ、物音とかもしてなかったし、人の気配は正直感じられませんでした」

 ビビっていただけなんですけど、と最上は申し訳なさそうに笑った。

「こういうことはよくあるんですか?」

「まあ、そうですね。でもいつもは昼間の明るいうちばかりだったような」

「いつもは、ですか」

 腕を組み、記憶の糸を手繰る最上に対し、卜部は質問を続けた。

「昼間に通報がある時と、何か違いはありませんでしたか?」

「違いですか」

 最上はううん、と唸りながらコーヒーをひと口啜った。卜部はそこで、自分の前にもコーヒーが置かれていることを思い出し、最上に合わせて口に運ぶ。冷めきったコーヒーから旨味より、苦味が喉を通る。

「そういえば」

 あ、と声をあげた最上は、飲んでいたコーヒーカップをテーブルに置いた。

「いつもの通報は、焼却中にあったんですけど、今回の通報は、焼却後だったのが違いですね」

「どういうことですか?」

「簡単に言えば、通報のタイミングがいつもより遅かった……くらいの話ですよ。いつもは通報があって駆け付けると、まだ燃え盛っている状態なんです。だけど、今回はもう燃えきったあとだったんです」

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