rampage

第1話 癖の話

私には爪を剥ぐ癖がある。


いや、正確には 噛みちぎり口にする 癖だろうか。 まあいい、どちらにしろ私の爪は痛々しく醜く見にくいのだ。


私の癖は周りの人間からバッシングを受ける。しかしその都度胸糞が悪い。

自分としてはこの厄介な癖は昔から僕の後ろをついてきている友達のようなものなのだ。



こいつとは物心がついたときから友人だった。私は小さな頃から同年代の子となかなか馴染めず、学校も下校もいつも一人ぼっちだった。そのために暇な時間が多く、そんなときにいつもこいつと遊んでいたんだ。それはもう最高の暇つぶしだった。

幼心としては、なぜ指についているかもわからない固く分厚いそれを頑張って剥がし、その層を破壊する。 これが最高の快感だった。 剥がしにくく、剥いでも剥いでも現れる、それを口にしては噛み砕く。そしてまた剥ぐ。

これを繰り返していれば、学校の皆が楽しくお喋りしながら帰っている時間なぞ、あっという間でもう家に着いているのだ。

だから私は、一人なんて本当にへっちゃらだったのだ。



でもある日、父からこう言われてしまった。

「なあ、お前爪噛むのやめろよ。」

私はなぜ父がそれを知っているのかも、どうしてそんなことを言うのかもわからなかった。

「どうして?いいじゃん。」

「はぁ?何言ってるんだ、今すぐやめろ、みっともないし、それに親として恥ずかしい。」


私の中で何かが変わったのはこの時だろうか。私には父の言葉が理解ができなかった。

小学生にして私は、この世界の全てに嫌気が差した。

何故、私の身体なのにそんなことを言われなくてはいけないのか。これは私の一部であり数少ない友人なのだ。

なのになぜ、父が、いや、貴様にそんなことを言われなければならないのだ。

この時から私はこの世界に生きにくさを感じたのだ。





それから高校一年生になった今まで、私の一番の友人はこの癖なのである。

そしてこの日から、私の友人が一人増えた。

それが 「生きにくさ」 なのだ。

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