火星の子 ~事故~
今日の部活はひと味違う。それぞれが、飼っているペットの紹介をすることにになっている。俺は家の三十七羽のウサギの中でも一番可愛くて毛並みの良い、ガープ(雌)を連れてきた。うん。いつ見ても可愛い。「宇佐美くんまだ~。みんな待てるよ。」ヘラの声が聞こえた。「わかった。今行く。」さて、学校に休日出勤だ。
「はぁ、お待たせ。」やっと学校に着いた。ガープを抱えて走るのはちょっと、辛かった。ヘラはペットをバックに入れているようだ。「宇佐美は今日も遅いね。」ヘルメスが一声あげるとみんなして「確かに」と言わんばかりに首を縦に振る。
教室を見回した。ヘラがいて、ウラノスがいて、ヘルメスがいて、レダがいて、メティスがいて、デメテルが…!?
「そこの子は、誰だ?」つい、声に出してしまった。何時もデメテルがいる席にデメテルではない子がいる。目は大きく、琥珀色をしている。髪も黄土色で肩甲骨の辺りまで下ろしてある。
「宇佐美くんは、分からないの?仕方ないか、いっつも寝てるし。思ってたより可愛くて惚れちゃった?僕だよ。僕がデメテルだよ。」それ連なるように、「サイテー」「分からないなんて、可哀想過ぎますわ。」「私でも分かりましたのに。」「まぁ、宇佐美さんは、お姉さんに見とれてますもんね~♪」レダの反応に対し、みんなの視線が冷たくなったのを感じたため、「そんなことはないよ。」とだけ言って、視線を下げた。
「それじゃ、茶番はここまで。今日の部活を始めるよ!」ヘラが手をパンパンと鳴らしながら、開始を宣言した。「まず、誰のから見てくの?」デメテルが質問すると、「デメテルで良くない?」とヘルメスの声がした。「わかった。じゃぁ僕の家の子を今持ってくるね。」と言うと、廊下に出た。すると、すぐに戻ってきた。「ジャーン、見てこれ。可愛いでしょ。グリムって言うんだ。」デメテルが持ってきたのは、グリムと言う、背中からは羽が生えている、小さなライオンの様な姿をしている。しかし、その色は白よしも白い、純白と言うに等しい色をしている。毛並みも素晴らしい。しかし、驚いているのは俺だけで他の人は、「お~。」と声を出すだけで、いたって普通の反応だ。
「次は私の子を見せようかな。」と、ヘルメスは言うと、ポケットから小さなシャーレの様なものを取り出した。その中には小さなウネウネ動く網状の物が入っている。「なんだこれ」皆がそんな顔をすると、「粘菌だけど。何か変?」いや、この女は周りから変な目で視られているのに気づいてないようだ。相当鈍感なのだろう。
「あの…私の子がウズウズしているようなので、出して良いですか?あぁ待って。まだ出てきちゃダメ!」とか言って、レダは何やら両手をしたの方に持っていって何やら取り込んでいる。側から見たら、もうやってはいけないことをしているようにしか見えない。それを見たメティスは「ガタッ」と立つと、レダの後ろを取った、すると、「ガバッ」と豊満な胸を鷲掴みした。「ここか?ここがエエんか?ここの子がウズウズしとるのか?あ、宇佐美くんのナニかもウズウズしとるのか?レダさんや。出番じゃないですか?その口でg……。」そこまでだ!と言わんばかりにデメテルの渾身のストレートがメティスの腹に入った。「ゴフッ」メティスは倒れた。すると、バックに入っていた虫かごが出てきた。…何やら色んな虫が入っていてカサカサと音を起てるかごの中は真っ黒になっている。もう何がなんだか分からない。これを籠から出す予定だったのだろうか…恐ろしくて鳥肌が立つ。
「ウネちゃん…まだ出てきていいって言ってないのに、あぁんダメだってば…。」レダはまだ何やら取り込んでいる。
顔を赤らめて口からは唾を滴、息を「はぁ、はぁ…。」と切らしている。すると、胸から何か出てきた。小さな樹の妖精の様な姿をしている。 テケテケと歩いては何やら「キィエェェェェェーーー」と奇声を発している。…があまり大きな声ではない。これで体が大きかったら…と考えると恐ろしくてたまらない。
…嵐の後の静けさ(ウネちゃん?はたまに叫ぶが。)と言うのだろうか?そんな沈黙を破ったのはウラノスだった。「私の子見せますわね。」と言うと、「マコレ出ておいで。」とい、パチンと指を鳴らした。それに合わせるかのように、ヌッと机上に現れた。ずっとステレス状態になっていたようだ。
マコレと呼ばれるそれの姿は山吹色をしている。蛙竜と言うのがふさわしいだろう。サイズはサッカーボール位で身体も丸い。大きな半開きの口からは長い舌が出ている。背中には小さな羽が生えている。
出てきたと思うと、何故か動かない。「こいつ、寝てるな。」確信した。「ええ、寝ていますわね。」ウラノスも認めた。彼女はマコレを抱くと床に置いた。
家のガープ様がモゾモゾしている。「すまない。俺のガープ様が動いているんだが、俺が先で良いか?」 「うん。構わないよ。」ヘラは答えた。
周りは落ち着きを取り戻し始めた。メティスはルンルンしながらキチンと座っている。レダはまだ少しモジモジして落ち着かない様子だ。ウラノスは目線を落としている。デメテルとヘルメスはジャンケンをしている。ヘラは少しワクワクしているようだ。
「これが家のガープ様だ。可愛いだろ?ちっちゃくてモコモコだぞ。」俺は熱く語った。
しかし、周りは、閑古鳥が鳴くレベルの静かさだ。…そんな沈黙は三十秒ほど続いた。第一声は「か、…可愛い。」ヘルメスの言葉だった。「本当に可愛い。」次はデメテルが口を開いた。「宇佐美さんのような可愛さです。」レダはよくわからないことを言っている。「美味しそうなお肉ですねぇ。食べてしまいたいくらいですぅ。」とメティスは食欲を張っている。「この子は角が生えてないのね。」ウラノスは不思議なことを言っている。それに便乗するように「確かに。私たちがいつも見るのは、『アルミラージ』だもんね。角が生えてないウサギを見るのは初めてかも。」とヘラは言った。
「ねぇ、少しさわって良い?」デメテルは目をキラキラさせて聞いてくる。「ああ、構わないよ。でも気を付けろよ。ガープ様はデリk…。」もう聞いていない。みんなしてガープ様を囲んでモフモフ、ナデナデしているようだ。
暫くすると、ヘラが「ねぇこれ、ガープ様。息してなくない?」と声をあげた。嘘だろ?と思い急いで駆け寄るとそこには死後硬直で固まってしまっている、ガープ様の姿があった。「ガープ様ァァァァァァァァ。そんな馬鹿な!ガープ様が死んでる何て!」思わず膝を着いた。いっつも輝いていたガープ様が死んでまうなんて。
「ごめん。悪気は無かった。」ヘルメスは少し気がちっちゃくてしまった。「ああ、もう構わないよ。家にあと36羽はいるから。」そうだ。まだまだウサギはいるんだ。そう。きっと大丈夫。…なはず。「さて、き…気を取り直して、最後のヘラのペットを見ようよ。」ウンウンと言わんばかりにみんなして首を縦に振った。
「ちょっと待って。今出すから。」と言ってバッグも中から出てきたのは手に乗るくらいの三頭獣の子供だった。出すと机の上に伏せの状態になった。「家のトリオ丸ちゃん。大人しいけど怒るとホントに怖いの。ご飯はいっぱ食べるけど大きく成らないんだ。」とヘラは言う。すごく可愛い犬だ。それも顔が三つと来たもんだ。たまらない。
「ヘラ。トリオ丸のこと少しさわって良いか?」聞いてみた。「うん。構わないよ。ガープ様の事もあるし。でも気を付けて触ってね。」と言われた。とは言っても、少し撫でるだけだ。それくらいなら大丈夫だろう。手を伸ばす。うん。普通だ。なにも危ない事はない。至って普通の子犬の様だった。しかし、事件は起こった。撫で終わり、頭から手を話そうとすると、「ガウッ」と吠えられた、次の瞬間。
「うわあぁぁぁぁぁぁぁ!。」右手に痛みが走った。見ると、薬指の第二関節から先が無くなっている。そしてその場所からは、血がだらだらと流れ出してきている。「っどどどどどうしよう。宇佐美くん。ごめんなさい。あわわわ。どうしよう。」ヘラは完全に落ち着きを失ってる。そこに、
「安心してください。私が直してご覧に入れましょう。」とレダ話には入ってきた。「今から宇佐美さんの指を直すのでその間皆さんは外へ出て下さい。」と言うと皆を外へ出す仕草をした。
教室には俺とレダしかいない。「さあ、宇佐美さん。私とあなた。二人だけの空間となりました。どうです?大人の階段昇ります?」レダは笑いながら語りかけてくる。冗談なのか、本気なのか考えている余裕はない。こうしている間にも指からは血がドクドクと流れ出ている。「治すなら早くしてくれ。」
「わかりました。そう焦らないで下さい。」と言うと、俺の目の前まで来て座った。「良いですね。これから行うことは二人だけの秘密です。宇佐美さん。あなたは目を閉じて、自分の指はどの様な物だったかを思い出して下さい。それだけで良いです。他のこと考えないで下さい。それでは始めます。」
と言うと俺の手を掴んだ。それに合わせて目を閉じる。指の先がじんわりと温かい。何か大きなものに包まれるそんな感じがする。
「終わりました。良いですよ。目を開けてください。皆さんも入ってきてください。」目を開き指を見る。何ともない。そこにあるのは正真正銘、俺の薬指だ。「凄いよレダ!ありがとう。」最高の敬意を示す。「いいえ、お気になさらず。」レダは満面の笑みで答えた。周りからは歓声が上がった。しかし、ヘラは少し悲しそうだった。
「暗くなったし、今日はもう終わりにしようよ」デメテルが声を上げた。それに応じて、「そうだね。それじゃ今日の部活は終わり。皆気を付けて帰ってね。家に帰るまでが部活だからね。」ヘラはそう言うと足早に帰って行った。
「俺も帰るか。」ガープ様の遺体を抱え、俺は家に一人で帰った。
4月26日 〈日付〉今日は部活でペット紹介をすることになったが…。いろいろ可笑しかった。てか、メティスとレダのやり取りは色々ヤバかった。そしてガープ様がお亡くなりになられてしまった。非常に悲しいことだが仕方ない。そう言えば、俺の指も切れたんだっけ。あれは痛かった。でも、レダが治してくれたから良かったのかな。でも、「宇佐美さんの血って甘い…。」のレダの発言は怖かった。
ヘラは元気が無かった。明日元気付けてやろう。 終
星の子 -star of chidren- 火星の子編 甘噛み姫 @Cancer715
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