第24話 勇者の野望!

 飛竜を間引きに出かけていたレン・ジロードが帰ってきた。

 もちろん、飛竜の肉や骨、翼や角、棘など素材も潤沢に持ち帰っている。


「マールの事は分かったが、そろそろ白状しても良いだろう?」


 手乗り土下座をしている闇精霊を机上に降ろし、レンは黒いドレス姿の勇者を見た。


「えっ?・・わたし?」


「正直、放っておくつもりだったが、まあ・・深く関わってしまったからな」


「え・・ええと?わたし、何かやっちゃいましたっけ?」


「とぼけているのか、素で忘れているのか知らないが・・この山を訪れた目的を言ってないだろう?」


 レンに言われて、一瞬、キョトンとなったノルンが見る見る目と口を大きく開いた。


「あああぁぁぁあーーー!?」


「素で忘れてたか」


 レンは嘆息した。

 この黒いドレスの勇者は、レンの小屋がある断崖を登ろうとして落下してきたのだ。

 それが、初めての出会いの場面である。

 理由も無く、崖を登っていたとは言わせない。


「わ、わわ・・忘れてたっ!忘れてましたぁっ!」


 珍しく慌てて頭を抱えて騒ぐ。

 しばらく放置することにして、レンは食事の準備に取りかかった。


「ええと・・聴いてクダサイ?」


 ためらいがちに声を掛けられて振り返ると、ノルンが妙に真剣な顔をして立っていた。


「なんだ?」


「なんか、色々あって忘れてましたが、ジロードさんに助けて欲しいことがあって押しかけて来たんです」


「押しかけた自覚はあったんだな」


「なんですが・・そうだったんですけども。一番の・・もうジロードさんじゃないと無理っぽいやつが解決しちゃったので・・それで、ついつい忘れちゃってました」


 えへへ、と笑う勇者であった。


「参考までに、何だったんだ?」


 レンは厚めに切った飛竜の肉を焼き網に載せた。飛竜の肉は筋を切った後、遠火で炙るように焼いていくのが美味しくするコツだ。脂に癖があるので、それを半分以上溶かして落とすと、ちょうど良い味わいになる。


「王国がやってた勇者召喚を止めさせて貰おうと思ってたんですよ」


「ああ・・」


 王の塔に呑まれて王都が滅んだ時点で目的達成したわけだ。


「他にもあったんですけどぉ、そっちのはジロードさんじゃなきゃ駄目ってほどじゃなくってぇ」


「なんだ?」


「いやぁ・・ほら、わたし弱っちぃから、ボディガード的な?王国の追っ手から逃げ回るのに疲れちゃってたし、ちょっと仲良くなった友達とかに迷惑かけまくってたし、これはもう、王国が手を出せないような人のところに行くしかないぜぇ~~とか思って、それで来ちゃいました」


「よく、おれの事を知ってたな?」


「王国の追手から5年も逃げ回っていましたからね。裏っぽい稼業の人にも知り合いが出来ちゃって、まあ、その人は死んじゃいましたけど・・」


 王国が必死に召喚をしている勇者より、もっと恐ろしいのがここの山に住んでいて、王国も手出しをしないらしいとか、実は大昔に召喚されて隷属を逃れた元勇者だとか、色々と噂されていたようだ。

 裏稼業の人間とは交流が無いのだが、どこで名前を知られたのか。


「マールも、結構食べる」


 闇精霊がリクエストするので飛竜の肉を追加で炙り始める。

 無論、ノルンやカリンの分はすでに焼いている。


「ここへ来た時はともかく、今のおまえなら、そうそう手出しはされないだろう?」


「まあ、王国の追っ手とか、もうどうでも良い感じですよねぇ。それより、思い出しちゃった記念に助けてくださいませ」


「・・なにを?」


「わたしの野望に支援プリーズなのです」


「何をする気だ?」


「安定的にお金を儲けられる仕組みと、無償で浪費する仕組み・・これをうまいこと繋げた、みんなで幸せになりましょうプログラムです」


「奥方、まったく分からない」


 マールが突っ込む。


「なんだとっ!?」


「おれも、分からんな」


「なんだってぇーーーー!?」


「申し訳ありません、お方様・・」


「か・・カリンちゃんまで?」


 黒いドレスの勇者が四つん這いに崩れ落ちた。


「大旦那、肉が焦げてる」


「この肉はしっかり焦がしてから、焦げを削って中を食べるんだ」


「安心した」


「いや、ちょっと聴いて?ちゃんと耳を傾けて?キャッチミーアップ、ヨロシク!」


「具体的には何をやる?」


「おぉう・・相変わらずの、ど真ん中直球好きですね?」


「おまえの肉は犬にやる」


「ちょ、待ってぇ、冗談ですよ。ね?いつものやつです。お茶目に、イチャラヴゥ~みたいな?」


「おまえ、しばらく飯抜きだな」


「生意気言って、申し訳ありませんでしたぁーーー!」


 恒例となった跳び土下座が決まった。


「で?」


「・・・へへっ、もう慣れっこですぜ、大将。おいらは、どこまでもついていきまさぁ~」


「・・で?」


「互助組合のようなものを立ち上げたいのです」


 ノルンが軽く咳払いした。


「ほう?」


「ぶっちゃけ、孤児とか多過ぎです。夜盗、山賊に家族殺されましたぁ、魔獣に親を食われましたぁ、貧しいから売られましたぁ、親が馬鹿で博打のカタに売り飛ばされましたぁ・・鎖でつながれてるのを含めたら、ものすんごい数の孤児が溢れかえってます」


「ふむ」


 レン・ジロードもそんな孤児の1人だ。


「助けて飯を食べさせるだけじゃ、お金とか無くなる一方です。なので、どこかでせっせと稼がないと駄目です」


「そうだな」


「それが、さっき言った、安定的に儲ける仕組みと、無償で浪費する仕組みです」


「よし、そこまでは理解した」


「この世界、お金を持っているのは、王侯貴族か豪商ですから、こいつらから搾り取れば良いかなって思ってたんですけど・・」


 その企ての一環が、肌触りの良い高級下着に、悩殺効果を高めた布地を減らした一品の数々だったらしい。


「頭が良いのか悪いのか・・」


 レンは軽いめまいを覚えて目元を手で覆った。


「ええぇーー?絶対売れますよぉ?女だったら、絶対に欲しがりますもん!少々の高値だって、飛ぶように売れますよぉ~」


「王都が無くなったじゃないか」


「・・いやぁーーそれなんっすよねぇ・・・買い手が、ごっそりと消えちゃったんすよねぇ・・・誤算でした」


 ノルンが項垂れる。


「地方、地方には領主なり残ってはいるが・・」


「お財布はショボいですよねぇ・・辺境の領主とか、やる気ない人か、隣の国と怪しい取引してるかですもんねぇ」


「で、どうする?」


 レンは、焼き上がった飛竜の肉を串に刺し、器用にナイフを動かして表面の焦げを剥いていった。中から、見事にローストされた赤みがかった肉が現れる。

 少し削るように切って、ナイフの先に載せたまま闇精霊に差し出す。

 待ち構えていたように飛びついて抱えるようにしてかぶり付いた。驚きと喜びが闇精霊の顔を染め上げた。相当に美味しいらしい。口いっぱいに頬張りながら、すでに皿に乗った肉へ眼が釘付けロックオンである。


「それでぇ・・もう、アレかなって」


「アレ?」


 レンは、焼き上がった肉を豪快に皿に載せながら訊ねた。


「お金持ってる人に頼っちゃえ~~、みたいな?」


 勇者がぺろんと舌を出して見せた。

 レンは、勇者ノルンの皿にあった肉を隣の皿へ載せ替えた。

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