第12話 勇者の ス・キ・ル ♪
・鑑定眼
・紡 績
・撚 糸
・染 色
・織 り
・刺 繍
・手編み
・素材分解
・被服複製
・不 死
・豪雷砲
黒いドレスの勇者が自分のスキルを書き出して見せた。
「・・・これだけ?」
「サーイエッサー」
「不死と豪雷砲は見たから分かるけど・・複製というのは?」
「わたしが作った衣服の複製品を生み出す魔法であります」
「素材分解は?」
「手に持っている衣服を繊維に分解する魔法であります」
「・・・以前に会った勇者に聴いた話だと、異世界に召喚されるときに、神の代行者に出会って、特別なギフトとして希望する能力を授かるそうだが?」
「可愛い服が作りたいと望んだのでありますよ」
ノルンがにっこりと得意げに言った。
「戦う力とか魔法とか・・そういうのは望まなかったのか?」
「そういうのは、得意な人に任せれば良いのであります」
「まあ・・普通はな」
レンは呆れ顔で頭に手をやった。
なるほど、勇者召喚の場から追放されたわけだ。おそらく、追放と見せかけて遠く離れた場所で王国の追っ手によって殺害されたのではないだろうか。
「犯されそうになったので、喰い千切ってやったら斬り殺されたであります」
「まあ・・ある意味、勇者か」
「あんな思いは二度とごめんなのであります。軽くトラウマなのです」
「しかし、漂流物を運んだり、壊したり、かなり体の力が強かったじゃないか?あれなら、王国の追っ手くらい怖くないだろう?」
「あれは、御館様にひっついていたおかげで、もりもりとレベルが上がったからです。軟弱ボデーのステータスも、もりもりアップしたであります」
「・・そうなのか」
レンは頷いた。
戦闘向きでは無いということが明確になった。それで良しとしよう。
「服を縫う事の他は何かできる?」
「どこでも眠れます」
「・・他には?」
「根性?」
黒いドレスの勇者が小首を傾げた。
色々と駄目そうである。
レンはトレーラーハウスというらしい、銀色の箱家の扉や窓に魔導具で魔法錠を設定して回っていた。特定の指輪が無いと開け閉め出来なくなる魔法の封印だ。女が1人で住むには鍵無しでは不用心だろうと思っての事だった。
「でも、御館様なら壊せますよね?」
「まあな」
「象が乗るくらいは平気です?」
「象というのは知らないが、サイクロプスに殴られたくらいなら問題ないぞ」
「うほぉぉぉ・・・それは凄いであります。チンピラに追われても逃げ込めば勝ちです」
「勇者がチンピラから逃げてどうする」
レンが言うと、ノルンがにんまりと笑みを作った。
「良いツッコミであります」
「・・気味の悪い奴」
レンは魔道具で生成した指輪をノルンに差し出した。
「これが鍵になる。二つあるから一つは収納しておいたら?」
ノルンがくふん・・と妙な笑い声をたてて、手を差しのばした。手の平を下に、指を拡げている。
「なんだ?」
「どうぞ、おつけになってくださいまし」
白磁の頬を薄らと桜色に染めて、ノルンが伏眼がちに視線を逸らした。
レンは指輪を地面に落として踏みにじった。
「ちょ、ちょっとぉーーー」
「明日は村に降りる。ついて来るなら朝には起きとけよ」
レンは自分の小屋へと大股に歩いた。
「おっ・・お待ちになって!」
少女の必死の声に振り返ると、
「ご飯を・・食事をっ!」
「食材は十分渡しただろう?」
「えっ・・いえ・・そのぅ、えへへ・・」
ノルンが俯きがちに、もじもじとスカートの裾を握る。
「まさか、飯を作れないとか?」
「サーイエッサー」
びしりと敬礼した。
「おまえ、本当に・・色々と駄目すぎるな」
レンはしみじみとした憐憫の視線を向けて、一見、清楚可憐風な美少女を眺めやる。
縋るような視線で勇者が上目使いに見上げていた。
「まあ、夕飯には呼ぶよ」
「サーイエッサーーー」
満面の笑みで敬礼され、レンは首を振り振り、小屋に入ると何やら非常な疲れを覚えて溜息を漏らした。
(王国の馬鹿ども、何だって勇者召喚なんぞ、やりやがった・・)
上着を壁のフックへ掛け、椅子を引き寄せて座ると、
この魔道具の優れている点は、衣服だけでなく体にも使えることだ。
風呂に入るような満足感は得られないが、すっきりとした爽快感はある。
光りで体を包んでから、水瓶を取り出してヤカンに水を注ぎ入れると、かまどの灰をどけて小枝を放りながら
(ダンジョン用の封印扉を造るか)
湯が沸くまでの間に、少しでも作業を進めておいた方が良いだろう。
勇者のスキルほどでは無いが、彫刻の技能はそれなりに身につけている。魔導の道具を使って彫ることで、封印の魔法陣を描き出す事ができるのだった。
小屋の裏手にある作業台に、邪龍の大鱗を載せるとしばらく眺めてから、おもむろに彫刀を使って表面を削り始めた。
レン自身は魔法を使えない。
だが、様々な魔道具を使えば、魔法陣を生み出す事も出来るし、結果として魔法を使う事も出来る。まあ、魔物との戦いにおいては魔法の必要性が皆無だが・・。
魔法陣は暗記している。
誰でも勉強すれば覚えられる。
魔法が使えないと知ってから、一生懸命に勉強して、魔法陣だけは不自由なく描けるようになっていた。中でも、彫刻による魔法陣を最も得意としている。
魔法陣とは関係無いが、彫金細工で食っていた時期があるほど、彫金、彫刻の細工物は得意なのだ。
大胆に、しかし寸分も狂わぬ手さばきで、黙々と彫りを進めていると、ピーーという高音の笛の音のような音が聞こえてきた。
あれは勇者召喚された少年に教えられて造った細工物だ。
レンは一旦作業を中断して、小屋に戻るとヤカンをかまどから降ろした。
棚に並べた茶筒を眺め、一つを選んで取り出すと焼き物の急須へ茶葉を入れる。黄色みがかった茶葉だが、沸きたての湯を注ぐと綺麗な緑色に変じて香りの強い茶を出す。
大ぶりなカップに茶を注ぎ、そのまま作業場へと戻った。
熱々の茶をすすりつつ、ちらと西の空を見ると、何頭かの飛竜が朱に染まった空を飛んでいた。
(そろそろ、飛竜を間引くかな)
湯気の立つカップを作業台の縁へ置くと、彫刀を手につるりとした邪龍の大鱗を見た。全体を眺めて完成した形を思い描く、そこから部分部分の絵図を脳裏に描き出し、さらに細部へと落とし込んで行く。イメージがぴたりと定まったところで、彫りの続きを開始した。
この後、作業に熱中したあまり、夕食の準備が遅れて、
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