第5話 目的


「つっかれたー……」

「よう走っておったの」

「あれは逃げないと死ぬ」


 歪みを補修した後、都季は重たい体を引き摺るようにして帰路についた。途中までは魁達も一緒だったが、彼らも疲れているはずだからと、自宅前まで送るとの申し出は断った。

 初めて見た「歪み」は、地面から数十センチほどの空中で、反時計回りに渦を巻いて景色が歪んでいた。確かに、その名で呼ばれるのが納得のものだ。

 中心には黒い穴が開き、身体が重くなるような澱んだ空気が溢れ出す。稲妻に似た紫色の電流が渦の表面を走ったかと思えば、穴から幻妖が現れた。

 穴よりも巨大な頭が出てきたときは、一体、どんな作りなのかと感心したほどだ。

 都季とほぼ同時に魁達も到着し、歪みの補修に取り掛かったものの、幻妖以外にも問題が起こった。

 澱んだ空気に当てられ気の触れた動物が襲いかかってきたり、幻妖が暴れて折れた木の枝や幹が倒れてきたりと、対処法のない都季には「逃げる」の選択肢しかなかったのだ。


「ふむ。体力をつけるだけでなく、攻撃の仕方を学ぶ必要があるのぅ。我の力も使いこなさねばならんし」

「はいはい、善処します」

「適当だのぅ……」


 投げやりな返答をする都季に呆れつつも、疲れを思えば仕方ないかと小さく溜め息を吐いて気を取り直す。

 都季の階段を上る足取りは重く、金属質の段差を踏む音が静かな周囲に響く。

 アパートの隣の家から聞こえてくる家族の談笑する声に、ここが先ほどまでの殺伐とした世界ではなく、平和な世界なのだと実感した。今までは気にならなかったその声やアパートの住人の生活音が、非現実から現実に引き戻してくれるようだ。

 今日の晩ご飯は何を作ろうか、と考えていた都季だったが、その思考はすぐに停止した。


「あれ?」

「なんだ?」

「誰かいる」


 階段を上って見えた自室の扉の前に、見覚えのある青年の姿があった。

 しなやかな細身の体に、後ろで一つに結わえた肩を少し過ぎる黒い髪。顔が整っていることもあってか、腕を組んで扉に凭れる姿は写真撮影をしているモデルのようだ。

 どこで会ったかと思い出すと同時に、つりがちの金色の目が都季に向けられた。


「あの――」

「何故、お主がここにおる」

「知り合い?」


 都季の言葉を遮り、月神が驚きと困惑の混じる声を上げる。

 局の関係者なのかと首を傾げれば、一瞬だけ眉間に皺を寄せた青年が扉から背を離して都季へと体を向けた。


「更科都季。アンタに話がある」

「話? というか、なんで俺の名前……」

「俺は『裏支りし』の“猫”、来栖くるす一夜いちや。お前のことは知り合いから聞いた」

「りし?」

「裏に支えるで『裏支』。裏支ってのは、十二生肖の補佐役のことだ。今は離れてるけど」

「離れた……?」


 いきなり新しい単語を聞かされたものの、一夜自身によって説明された。ただ、「離れている」という発言に頭の中が再び混乱したが。

 月神は一夜を見据えたまま口を閉ざしている。その表情は何かを憂いているようにも、考え込んでいるようにも見えた。

 張り詰めた空気を壊すように、都季はぎこちなく言った。


「えっと……とりあえず、中に入ってもらったほうがいい、かな?」


 気候は数日前より暖かくなってきたとはいえ、まだ肌寒さは残っている。しかも、今は夜だ。アパートの、それも他の住人もいる部屋の近くで長く話すのも迷惑になる。

 そう思って提案した都季に、月神は一つ息を吐くと頷いた。


「ああ。それがいいだろう」

「……来ておいてなんだが、俺を警戒しなくていいのか?」


 一夜がどういった理由で局を離れているのか知らない都季からすれば、月神が問題ないと判断しているのなら警戒する必要はないと思った。

 しかし、一夜の口振りから察するに、理由は明確にされていないようだ。

 月神は一夜を見据えると、呆れたように再度溜め息を吐いた。


「我を誰だと思うておる。離れた理由くらい、とうに知っておるわ」

「なら、部下の説得もしてほしいもんだけどな。追い回されて大変なんだ」

「前例にないしのぅ。戸惑っておるだけだ」


 緊張が解けたのか一夜の雰囲気が変わった。

 疲れが滲む彼は、局に追われているのか。それは離れた理由に由来するものなのだろうが、月神の口振りから察するに悪いことをしたから逃げているのではないようだ。

 ただ、都季には月神の横顔がどこか寂しげに見えた。


「続きは中でだ」


 月神は都季の肩から離れて一夜の横をすり抜けると、視線で鍵を開けるように促す。

 鞄の中から鍵を取り出して開けた都季は、短い廊下を進んだ先の部屋の中央にあるテーブル前に座布団を置き、一夜にはそこに座ってもらった。

 月神は彼と対面する位置にハンカチを折って作った座布団を置いて座る。

 都季がお茶を出そうとするも、一夜は「用が済んだら帰るから」と断った。

 テレビを点けていない部屋は静寂に包まれ、月神と一夜の間に流れる微妙に重たい空気に、都季は居心地の悪さを覚えた。

 そんな空気を壊したのは月神だ。


「局を離れて、何か分かったか?」

「…………」


 いきなりの質問に、一夜は肩を小さく跳ねさせた。だが、答えが見つからないのか何も言わない。

 都季は一夜から最初に「離れた」と聞いたため、驚くことはないものの理由は気になった。

 渋面を作る一夜が答える気配はなく、それならば、と都季は控え目になりながらも訊ねる。


「あの……なんで、局を離れたか聞いてもいいですか?」


 一体、過去に何があったのか。なぜ、局を離れることになったのか。

 やや間を開けてから、一夜はゆっくりと理由を話しはじめた。


「前任の午の件、こいつに話していないのか? 忘れたわけじゃないよな?」

「今代最初の犠牲者だ。忘れるわけなかろう。時期を見て話すつもりでいたのだ」

「えっ」


 「犠牲者」ということは、今、その人は亡くなっているのだろう。

 だから、一夜は局を離れたのか。それにしては思い切りすぎな気もするが。

 驚いて固まる都季に対し、月神は淡々と話を進める。


「あれは、相手に能力を打ち消す者がいたのだ。それを視てやれなかった我の落ち度だ」

「それは前にも聞いた。しかも、相手は破綻していたから、もう消滅してるって」

「えっと、すみません。その、前任の午の件って……?」


 二人で話が進んでいくのを見て、横やりを入れるようで申し訳ないが聞かなければ話についていけない。

 そう思い、小さく手を挙げて言えば、一夜は目を数度瞬かせてから「あー、そうだな」とどこか気まずそうに視線を泳がせた。

 そして、再び都季を見てから話しはじめる。


「まず、お前が巫女の末裔って話は聞いた。なら、巫女は母親に当たるな」

「どこで聞いた」

「狐だよ。ここを知らせたのは、知らない奴だけど」


 都季の出自のことは、刻裏を除けば局の関係者以外は知らない。

 先の一件で関わった破綻組も、情報を洩らせるほどの会話ができない上に何人かは消滅した。残る破綻組は、今は局内に拘束されている。

 幻妖も局にて管理されているが、悠によって記憶を消された後に幻妖界へと還される手はずだ。

 最も、住所も知っているとなれば、破綻組や幻妖ではないだろう。

 顔を見合わせて首を傾げる二人に、一夜は住所を教えた人物を特に気にした様子もなく言った。


「あの巫女が亡くなってから、幻妖界と人間界のバランスは崩れた。各地で幻妖が暴れ、破綻組は増え、かつての破幻事件が再び起こるんじゃないかと言われてた」


 両世界の均衡を保つための道であり、幻妖が人間界へ来るための門でもある「神降りの木」が切られたことで起きた事件。

 その時は環境に大きく出るまではいかなかったが、それと同じものが起こってもおかしくない状況だった。


「前回は我が仲裁に入り、木の一部を再生して治めたが、巫女は同じようにはできぬからの」


 さすがの月神も死者を蘇らせることはできない。また、その行為は世界の摂理に反するため、できたとしても実行は許されないのだ。

 そのため、十二生肖をはじめとする局の者達は、事態の沈静化に向けて日夜、東奔西走していた。当時はまだ十二生肖として任命はされていなかった現在の十二生肖達も、これに加わることがあったようだ。

 しかし、事態は治まることなく、役の交代の時期に入ってしまった。


「役は十二年に一度、交代する。前任っていうのは、一代の中での交代が起こったとき、先の者を指す。後の者を後任って具合にな。代替わりのときは、先の者を先代って呼んでる」

「なるほど……」

「今回は異変が続く中での代替わり。着任後、すぐに新しい十二生肖も鎮圧に向けて動いた。でも、それは決して簡単な話じゃない」


 先代ならば、経験則からどんな状況下であれ対処法はいくつも思いついただろう。警邏部への指示も手早く、かつ的確にできたはず。

 今も助言は貰えるが、現場に立てばそれもすぐにとはいかない。茜は前回も十二生肖の亥を務めていたが、彼女一人では回りきらないところもある。

 それは、まだ局をよく知らない都季にも容易に想像できた。


「幻妖や破綻組との戦いは、日に日に激しくなるばかりだった。だから、局は強硬手段に出た」

「強硬手段?」

「十二生肖の午は空間移動の能力を持つ。それも、数多くを遠くへ飛ばせるほどの」


 その能力を使い、送還を行う調律師の元へと一気に運ぼうという作戦だ。幻妖界へ還してしまえば、そう簡単には人間界にやって来られない。

 破綻組については、警邏部や十二生肖が捕縛する手筈だった。

 一夜は当時を思い出したのか、自嘲じみた笑みを浮かべた。


「対象を一手に引きつけ、まとめて局へ。聞こえは簡単だけど、非常事態が起こってな」


 ふと、都季はつい数分前の話を思い返す。

 一夜の言う作戦を実行した午は、果たして前任なのか後任なのか。「犠牲者」という言葉から、答えは明白だ。


「前任の午だった紗智は、幻妖や破綻組を前に能力が発動できず、そのまま襲われて死んだ」

「な……!?」

「なんで誰も助けないのかって思うだろ? 『助けなかった』んじゃない、『助けられなかった』んだよ」


 幻妖や破綻組が一手に集まるよう、紗智以外は付近一帯から遠ざけていた。また、局に一斉に送るため、十二生肖や警邏部の大半が局に控えていたのだ。

 実行したのは深夜の東区で、オフィスビルが集中しているおかげで人気は他より少ない。もしいたとしても、道路工事だと偽れば道を塞ぐのは簡単だ。

 失敗したと知って向かったときには既に遅かった。


「なんで、たった一人に……」

「せめて、近くに潜ませておけばよかった。でも、それだけ十二生肖には『出来て当然』っていう信用と期待がかかっていて、けれど、何かあれば替えの利く存在なんだよ」

「替えなんて、そんな……その人は一人しかいないじゃないですか」

「十二生肖は依人の中でも特に強い力を持つ。その分、『これなら出来るだろう』と思われる。だが、役としての存在は唯一無二ではない」


 十二生肖に選ばれる条件は、何も力の強さだけではない。十二生肖の血統組の家系であれば、役こそ決まってはいるが誰でも可能性はあるのだ。

 だからこそ、何かがあったときに「後任」ができる。


「十二生肖は危険を伴う任務が多い。お前の護衛を含めてな」

「そんな……!」

「一夜」

「事実だろ。命を落とそうが、守るべきものを守るのが十二生肖の役目だ」


 想像していたよりも重い役目に、もはや言葉が出てこない。

 十二生肖は命を引き換えにまでして、他の者を守らなければいけないのかと自問して、魁達の戦う姿が脳裏に浮かんだ。


(そうか……。だから、魁達はあんなにも必死に……)


 廃工場で、彼らは傷だらけになりながらも必死に都季を守ろうと戦っていた。

 そこまでする必要はないと思っていたが、都季の体内には局が大事に保護している月神の器があった。定着した今はピアスに変わっているが、月神を保有していることには変わりない。戦う理由が「月神」を守るためならば合点がいく。

 また、月神が都季に定着するよりも前から、彼らはこの世界のために知らないところで戦ってきていた。それも変えようのない事実だ。

 愕然としたままの都季を現実に引き戻したのは、普段より幾分か低い月神の声だった。


「彼女の死は彼女が選んだ道だ。しかし、お主はそれを受け入れきれておらん。それゆえ、あの事件を発端に局に疑問を抱き、『外から見たい』と出て行ったのであろう」

「ああ。けど、何度考えても、お前やじいさん達が仕組んだんじゃないかって思うんだ」

「っ!」


 突然、敵意を剥き出しにした一夜に、思わず肩が大きく跳ねた。

 月神は険しい顔をしながら一夜を見据えている。


「能力を打ち消す者がいたのは分かる。けど、仮にも相手は十二生肖だ。大きな力を消すには、相応の力がいる」

「何が言いたい」

「十二生肖の血肉には相当の霊力がある。だから、アイツを破綻組や幻妖の鎮静剤に使うために、お前が能力を発動させなかったんじゃないのか?」

「…………」

「霊力を得れば、破綻組は一時的に落ちつく。幻妖も、俺達が駆けつければ一網打尽にできる。実際、警邏は自然な流れで破綻組や幻妖を取り押さえてた。違うか?」


 紗智の近くに人員を配置しなかったのは、先代達からの助言だ。今代の十二生肖達は、せめて十二生肖の補佐である一夜を近くに、と言ったのだが却下された。

 また、非常事態が発生しているというのに、当時の警邏の人達は特に慌てた様子もなかった。十二生肖の間には驚きや焦りはあったものの、同様に破綻組や幻妖を捕縛、もしくは討伐していた。

 そのやり方に、一夜は違和感を覚えたのだ。

 能力の発動が月神によって制限できるかは、すぐに否定せず黙っている彼を見れば不可能ではないと分かる。

 もし、一夜の言うことが本当ならば、局は前任の午を、その命ごと切り捨てたということになる。

 咎めるものと困惑のものと、二つの視線を受けた月神は大きく溜め息を吐いてから口を開いた。


「確かに、能力の制限は不可能ではない」

「やっぱり……!」

「だが、我自身が選んだ十二生肖の能力を我が制限したことも、命を捨てよと命じたこともない。そもそも、命を粗末にするような十二生肖を選んだ覚えもない。自らの命を犠牲にしているように見えるのは、必死に強者へ食らいついたその結果」


 その死を責めるのは、果敢に立ち向かった本人の意志を否定することになる。逃げるなとは言わないが、月神は本人の選んだ道を尊重しているだけだ。

 ただ、周囲の目が逃げることを良しとしていないのは反省すべきところであり、直す必要がある。

 納得のいかない一夜は食い下がった。


「外で、同業者にも俺と同じことを言われた。大勢を救うのにひとつの犠牲を払うことはあるけど、それは本当に必要だったのかって」

「同業……はぁ。しょうがないのう。ほれ、じっとしておれ」

「な、に……」


 一夜の言う「同業者」に思い当たる節があったのか、月神の眉間に一瞬だけ皺が寄った。かと思いきや、溜め息を吐いて立ち上がると、彼は宙に浮いて一夜の額に手を翳した。

 淡い光が額と手のひらの間で発し、一夜は反射的に目を閉ざす。

 少しの時間そうした後、光は少しずつ収まっていく。

 再び目を開けた一夜からは、先ほどまでの敵意を感じなくなった。


「……『今の』は、本当なんだな?」

「本人の宝月から得たものだ。それにしても……」


 月神は再び座布団に戻ると、怪訝な顔で一夜を見上げる。

 先の光で、月神は「ある光景」を一夜に視せた。そして、ここ最近の一夜の様子を、彼が右腕に着けている宝月を伝って視たのだ。


「一体、何に会ったのだ? 目的が変わっておるぞ」

「目的?」

「お主が局を出たのは『外から見るため』。『壊すため』ではなかろう」

「……!」


 月神の表情は険しい。

 対する一夜は図星だったのか、はっとした後、戸惑ったようにテーブルに視線を落として口を閉ざしてしまった。

 沈黙が流れる室内で、都季は何と声を掛ければいいのかと言葉を探す。

 前任の午の事件があって、局に不信感を抱いた一夜。

 ふと、朝陽が零した「“猫”と前任の“午”も良い仲だったよね」と言っていたのを思い出した。

 どんな関係だったかは知らないが、よほど大事な人だったのだろうと分かる。また、大事な人を失った辛さなら、都季も知っている。


「あの……一夜さんの気持ち、少しは分かります」


 すべてを理解するには、まだ出会って日が浅い上、都季も局や幻妖を知らなさすぎる。

 それでも、今、はっきりと言えることは一つだ。


「でも、だからこそ、俺は局を守りたいです」

「!」

「あそこは、俺の両親が最後まで捨てきれなかった場所で……最期まで守ろうとした場所なんです」


 駆け落ちしてもなお、両親は局にいた。結奈の実家は別の町だが、局にいれば顔を合わせることは嫌でもあったはずだ。それでも、二人は局から離れなかった。

 また、両親が事故に遭った日、十二生肖は二人の護衛にはついていなかったと聞いた。それも、二人からの願いで。

 都合のいい解釈かもしれないが、それは二人がこれ以上、むやみに十二生肖を傷つけたくないからでは、と思ったのだ。

 幻妖と人が、また共に暮らせる世界を作りたい。

 二人の願いを直接は聞かなかったが、その名残を十二生肖や月神の様子に垣間見ることがある。今朝の分神にもだ。

 それらを見て、都季は局を守りたいと思った。悪い部分は改善すればいいと。


「だから、局を壊されると困りますし、他の依人達みたく器を狙ってきても渡せません」

「そもそも、同調した今は離れられんのだがな」

「あはは……」


 ピアスに変わったときに体から離せるかと試してみたが、不思議なことに外れなかった。キャッチは取れるが、肝心の芯がまるで皮膚と同化したかのようにくっついている。


「それに、前任の方も、多分ですけど……壊されたら、悲しむんじゃないでしょうか?」

「…………」


 激昂するかと内心で怯えていたが、予想に反して一夜は何かを考えるようにテーブルの上を見つめていた。

 再び、沈黙が部屋を満たす。時折、外の道路を車が走る音が聞こえる。

 話し声が隣室に響いていなければいいが、と壁の薄さを心配したとき、突然、一夜が立ち上がった。


「……分かった」

「え?」

「帰る」


 都季がきょとんとしたまま一夜を見上げれば、彼はあっさりと言った。

 彼の中で何か変化があったのだろう。


「局にか?」

「違う。……少し、考えたい」

「一夜さん……」

「邪魔したな」


 颯爽と去って行く一夜は、どこかすっきりしたようにも、新しい悩みができたようにも見えた。

 元は補佐だという一夜。それが、一つの問題から離れてしまっている。

 都季の予想でしかないが、前任の午が生きていれば悲しむだろう。

 彼が戻ってくれればいいと思いながら、ぼんやりと扉を見ている月神に声を掛けた。


「つっきー、すっごい間抜け面」

「う、うるさい!」


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