第2話 この爆裂娘と初めてのクエストを!

「成る程。つまりアンタは俺の前にここに送られて来たって事か?」

「そう言うことになる。理解が早くて助かるわ」

駆け出しの街、アクセルにある冒険者ギルドに向かう道すがら、俺はアクアとともに送られて来た日本人「サトウカズマ」と情報の交換をしていた…まあ、同じ日本人同士、ここであったがなんかの縁とパーティーを組む事になったので先ずはそれぞれの情報を共有しておこうと言う狙いもある。


「ねえねえ2人とも。私のことは女神様と呼んでもいいけど、それだと正体がバレて大変だからアクアと呼んで頂戴」

後ろをチョロチョロ付いてくるアクアの話を聞きながらしばらく歩いていると、やがて特徴的な看板が見えて来る。

「あれが冒険者ギルドか…」

確かにRPGでよく見る冒険者ギルドだ。

「みたいだな…よし、行くか」

期待に胸を膨らませた様なカズマに頷きながら、俺達は冒険者ギルドへと足を踏み入れた。



しばらくして。

「あなたのステータスは…ほとんどが平均より少し上みたいな感じですね。これでしたら、基本職の冒険者に魔法使い…上級職でなければどの職業にもなれますね」

それぞれの職業における特性が記載されている本を片手に俺は、ギルドの職員さんからそんな説明を受けていた。


冒険者になるには、このステータスにより職業を決めてから、冒険者カードを発行してもらわなければならないのだ。


で、それで今手数料1000エリス…1エリス1円と考えて1000円を払って、発行の真っ最中なのである。

カズマ達は大丈夫かな…さっきお金がないとか言ってたけど。

「あの…どれにしますか?」

そうだ。まだ職業を決めてないんだった。

「ええっと…」

どれにしようか…あ!

「この自由騎士っていうのは?」

「それは、冒険者ほどではありませんが他の職業のスキルも覚えられる万能職ですね。何せ自由ですから」

成る程…なら。

「この自由騎士でお願いできますか?」

「分かりました。では、これで全ての過程が終了しました!これから頑張ってくださいね?」

「分かりました」

そう言って出来立てホヤホヤの冒険者カードを受け取って感慨深いものを感じてる俺がカズマ達の様子を見に行くと…。

「では、ギルドの職員一同、あなたの活躍を期待しています!」

「いや〜。それほどでもあるわね」

そんな浮かれきったアクアの声。さっき他宗派の僧侶からお金を恵んでもらった女の声ではないと思った俺は、近くにいたカズマから何があったかを聞き出す。

「あいつ、なんかあったのか?」

「なんかあいつ、上級職…魔法使い以外ならなんでもなれるって言われて、結局あいつはアークプリーストにしたってところだ」

確か、あの本によると魔法使い職業には知力が求められるんだったような…あれ?何故か急にアクアがただのバカにしか見えなくなった。

「で、カズマはどうだったんだ?」

「俺?俺は…」

「高貴な存在である私と違って、なんとカズマさんは最弱職の冒険者なのでした!で、ヒカルさんはどんな職業に⁉︎」

「俺は、自由騎士…まあ、冒険者の上位互換みたいなもんだよ」

それを聞いたアクアのドヤ顔にイラっとしながらも、俺はギルドから外に出て、冒険者生活の幕を切ったのだった…

さあ!大冒険が始まるぜ!




と、思っていた時期がありました。

希望を抱いてギルドから出たものの、現実が厳しいのは異世界でも変わらなかったらしく、もらった金が底をつくのにあまり時間はかからなかった。

と言うわけで俺達はまず金を集めるべく労働者となっていたのだが…


それはカズマの一言から始まった。

「俺たちって労働するためにここに来たんじゃなくね?」

そう。俺たちはファンタジーな、アドベンチャーな事をしに来たのだ。

「そうだよな…ここのところすっかりそれを忘れてた」

ワラに毛布を敷いて作った寝床に座りながら俺はそうぼやく。


それで一夜明けた今日、何かクエストを受けようと言うことになったのだが…。

「…こいつ、呑気に寝てるなよ」

言い出しっぺのアクアはヨダレを垂らして寝ていた。一応、水の女神とか自称してるのにこの中にいる誰よりも早く、このクソッタレな馬小屋生活に順応しているのだ。


ちなみにこの町の冒険者は大抵金がなく、馬小屋生活が殆どなのだとか…まあ、冒険者なんてしがないフリーターみたいなもんだが、そろそろクエストを受けて見たいものである…と、昨日言ったらアクアが今日行こうとか言い出したから早起きしたのに、なんでこいつは…と、いろいろ考えてるとその女神…もう駄女神と呼んでも文句は言われなさそうなアクアが目を覚ました。


「おはよ〜」

「おはよ〜じゃねえ…」

カズマの呆れたような声を聞きながら時計を…もう昼近くだ。

「工事の仕事がないと思ったらつい…」

「昨日の任せて頂戴ってセリフはなんだったんだよ…」

そんな呆れたようなカズマの呟きや、俺のジト目も気にせずアクアは声高に何かを…って待て!大声で騒ぐと…

「うっせー!静かにしやがれ!」

待てと言う前に横から壁を殴る音と共に罵声が。

馬小屋に防音材など無く、当然騒ぐと声がダダ漏れとなる。


流石に知能が低いと言えど学習したのか、今度は声を潜めて…

「この私がいるんなら、どのクエストも楽勝よ!さあ、どんどん稼いでやろうじゃないの!」

「うるせーってんだろ!しばかれてーのか!」

「「「すいません!」」」

話すわけも無く、またも壁ドンされた俺たちはそそくさと荷物をまとめて冒険者ギルドへと足を運んだ。



カズマside

ジャイアントトード。

その名の通りでっかいカエルだが、中々侮りがたいやつだ。

普段は大人しいが繁殖期に入ると体力をつけるために人里にまで降りてくるこいつは、農家の飼ってるヤギなどを丸呑みにするんだとか。

因みにその肉は少し硬いが美味いらしい…まあ説明はこれくらいにしておこう。


そして俺たちは、そんなジャイアントトードの討伐クエストを受けたのだが…。


「ぁぁぁああああああ‼︎」

何故か俺の方にやって来たカエルに追い回されていた。

「プークスクスクス!ちょーウケるんですけど!カズマさんったら涙目でちょー必死なんですけど‼︎」

あいつは後で埋めて帰ろう。


そんなことを考えている最中にもカエルは俺と距離を…

「なんでヒカルの方には全然行かねーんだよぉ!」

縮めるばかりでヒカルの方にはちっとも行かないのだ。

「…アクア曰く嫌いな金属に身を包んでるような状態の俺は食いたくないんだろうってさー!」

くそっ!それなら鎧も揃えてから来るべきだった…やばい!追いつかれる!


「アクアー!」

「助けて欲しかったら、まず私をさん付けするところから始めましょうかぁ⁉︎」

「アクア様ぁぁぁああ!」

未曾有の恐怖に半泣きで助けを求める。

「しょうがないわね〜助けてあげるわよヒキニート!その代わり明日からこの私を崇めなさい!」

「ロクデモナイこと言ってんな!狙いそっちに言ってるんだぞ⁉︎」

ヒカルの焦ったような声を聞いて振り向くと、俺の後ろにカエルはいなかった。さらに言えばそのカエルの駆けて行く方向には…

「明日からアクシズ教に入団して1日3回祈りを捧げること!ご飯の際には私が頂戴って言ったら抵抗せずによこすこと!」

既に遠くに離れているヒカルにも気づかずに舐めたことを口走っているアクアが。


そして…

「そして…ヒュグ⁉︎」

カエルの体内への侵入に成功した!



っておい。

「「食われてんじゃねぇええええ‼︎」」

痛む頭を抑えつつ、俺たちはアクアを食ってるカエルに向かって飛びかかった。



ヒカルside

「う…うぐ…ぐす…」

生臭い。


これは、粘液まみれで泣くアクアの放つ匂いへの第一印象だ。

そしてその隣には俺とカズマに頭を砕かれたカエルが横たわっている。つまり俺たちが、カエルを倒してアクアを引っ張り出したのだ。

「ありがどう…ガズマ…ありがどね…う、うわぁあああ…」

まあいくら駄女神でも、捕食は流石に堪えるよな…。

「な、なあ?アクア…あれだ。これはまだ俺たちが手に負える相手じゃない…さ、せめて俺たちも鎧をつけてからにしよう」

アクアに抱きつかれ生臭そうに顔を痙攣らせるカズマに同意する。俺がいい例だったが、鎧を着てれば追い掛けては来なさそうだったしな。

だがそんな俺たちにアクアは。

「私はもう汚されてしまったわ…。今の汚れた私の姿を、アクシズ教徒が見たら信仰心なんてダダ下がりよ!これでカエル相手に引き下がったなんて言ったら、美しくも麗しいアクア様の名が廃るわ!」


「「……」」

人の尊厳的にどうかと思われるような馬小屋生活に、真っ先に順応してるような奴が汚されたとか…今更すぎて笑えないわ。


と、そんな胡散臭いものを見るような目を向けてるとアクアはまたもやカエルに向かって走り出す。

「ああ⁉︎おい、アクア⁉︎」

「見てなさいカズマ!今度こそ私の力を見せてやるわ!」


そう言いながら放ったまばゆく光る拳は…



「……カエルって、よく見ると可愛いと思うの」

あっさり腹の脂肪に吸収され、またもアクアはカエルの餌となった…って!


「少しは学習しろよぉおおおお!」

知力のステータスが低いとかの問題じゃないだろとか思いながら、俺は急いでカエルの頭上に向かって飛び上がり…



「喰らえぇ!」

渾身の鋼鉄棍での振り下ろしを食らわせるのであった。





その日の夜。

「あれね!3人じゃ無理だわ、仲間を募集しましょう!」

大浴場で粘液を洗い流してきたアクアが、ジョッキ片手にそんなことを言い出した。


まあ、たしかに賛成だけど…

「そんな都合良く、パーティーになってくれる奴なんているのかね?」

そんな当たり前の疑問を口にした俺に唐揚げを口に含みながら。

「ふぉのわたひふぁ」

「飲み込め!飲み込んでから喋れ」

カズマの注意の反映なのか、ジョッキを空にしてから尚も続ける。

「この私がいるんだから、メンバー集めなんて楽勝よ!と言うわけで唐揚げ一つずつ寄越しなさいな!」

そう言って俺たちの皿から唐揚げを奪い取るアクアに、胡散臭いものを見るような目を向けていた。




翌日。

「…来ないわね」

ギルドでの昼下がり、アクアがポツリと呟く。

「…そりゃ、この駆け出しの街で上級職のみの募集じゃあ無理ってもんだろ」

それに倣って、俺もポツリと言い返す。

ここアクセルは呼び名の通り、駆け出しの街。つまり殆どが低レベル、もしくは下級職なのだ。

つまり。ここにそんなたくさん上級職がいるわけがなくて、そんな数少ない上級職のみの募集ともなればパーティーメンバーなんて集まるわけもない。

それに…

「お前はいいけど、残りは基本職と中級職だぞ?そんなの俺たちの肩身がせまくなるよ」

カズマの尤もな発言に沿うように、そろそろ断念しようと俺が言いかけたその時だった。



「募集の張り紙、見させてもらいました…」

そんな声が俺の後ろから響き、期待とともに振り返ると…



魔法使いみたいな格好をした2つ3つ年下くらいの女の子がいた。


「おいカズマ、これって冷やかされてるのか?」

「待て、条例に引っかかるかわからんがここは様子を見るぞ」

幾ら何でもこんな子供が上級職とは思えず、思わずカズマに振ってしまうが、それに気づかずその子は続ける。


「この邂逅は、世界が選択せし運命。私は、あなた達のようなものの存在を待ちわびていた…さあ、我が力を望むならば我とともに深淵を覗く覚悟をせよ!人が深淵を覗く時、深淵もまた人を覗いているのだ…!」


………

「「冷やかしに来たのか?」」

「ち、違わい!」

てっきり暇そうな俺たちに厨二ポエムでも聞かせに来たのかと思ったのだが…。

「…その瞳、もしかして紅魔族?」

そんな疑ってる俺たちの隣、アクアが思い出したかのようにそんなことを言った。そしてそれに激しく乗っかったその子は。

「いかにも!我は紅魔族随一の魔法の使い手、めぐみん!我が必殺の爆裂魔法は岩をも崩し!山をも砕く…」

自己紹介とともに倒れ伏した。



何事かと思った俺は、駆け寄る途中で鳴った音を聞いてその理由を悟った。


「もう、三日も何も食べてないのです…何か、食べさせてはいただけませんか?」

唯の空腹か、と。

「まあ、飯奢るのは別にいいけどよ。その眼帯はなんだ?具合悪いならこいつに直してもらえよ。一応、回復魔法だけは得意みたいだから」

カズマの発言に「だけ⁉︎」と噛み付いているアクアは放っておくとその…めぐみん?は。


「フッ…これは我が強大な力を抑える為のマジックアイテム。これが外される時あらば、この世に大いなる災厄が訪れるであろう…」

まじか…ただの痛い厨二とかじゃなかったのか?

「封印…みたいなもの「まぁ、嘘ですが…単に、お洒落でつけてるだけ」……」

カズマがその子の眼帯を引っ張り出したが止めようとは思わなかった。


「ちなみに紅魔族は、優れた魔力と知力を兼ね備えてるから魔法使いの名門みたいなモノで…みんな変な名前を持ってるわ」

更に豆知識みたいなアクアの話を聞いてると、片目を痛そうに抑えているめぐみんが。

「変な名前とは失礼な。私からすれば、町の人の方が変な名前をしていると思うのです」

…それなら。

「ご両親の名前は?」

「母はゆいゆい、父はひょいざぶろー…お、おい!私の両親について言いたいことがあるなら聞こうじゃないか!」


ため息をついた俺に対して猛るめぐみんにメニューをちらつかせて、まずは面接に入ることにした。




「確かに、上級職の魔法使いなだけあって魔力値は高いんだな…で、この爆裂魔法ってのは?」

めぐみんの冒険者カードを見ると、確かにそこにはめぐみんという名前や高い魔力値が目立つステータス。そしてスキル欄にはエクスプロージョンと言うスキルだけが載っていた。

「爆裂魔法は、最上級の攻撃魔法よ。威力的には…そうね。ちょーすごいわよ」

「自分で確かめろってことかよ…」

相変わらず使えるんだか使えないんだかわからないアクアに頭を抱えていると。

「まあなんか頼めよ。アークウィザード」

「おい、この子とか彼女とかじゃなく、ちゃんと名前で呼んで欲しい」

カズマがメニューをめぐみんに手渡していた。めぐみんの要望については…まあ、前向きに検討しよう。


そんなめぐみんの入団試験と言ったところで、まず俺たちは昨日のジャイアントトード討伐クエストに再チャレンジするのであった。




「爆裂魔法は最強魔法。それ故、撃つには時間がかかるのでしばらくの間足止めをお願いします」

詠唱を始めためぐみんの言葉に頷き、カズマは腰からショートソードを、俺は背中からロッドを引き抜く。


「…カズマ、あっちも!」

長い棒を持ったアクアが指差した方向からは、カエルが地中から出てきた。


「2匹同時か…遠い方のカエルを魔法の標的にしてくれ。ヒカルはめぐみんのサポートを。近くの敵は…おい、行くぞアクア。お前一応は元なんたらなんだろ?たまには元なんたらの力を見せてみろよ」

「元って何⁉︎ちゃんと現在進行形で女神よ私は!」

…そういやあったなそんな設定。

「女神?」

不思議に思ったらしいめぐみんが俺に聞いてくる。

だが、幾ら何でもここで女神って正体を認めるわけには行かないよな…。

「を、自称してるだけだからそっとしておいてやってくれ」

「…可哀想に」

わかってくれて何よりだ。


「な、何よ!打撃系が効かないカエルだけど、今度こそ…!」

そう言って突っ込んで言ったアクアは、無事カエルの体内に侵入することに成功…学習能力はどこ行った。


若干頭が痛くなっていると、隣から不穏な空気が流れ込んでいた…こ、これが魔法なのか?


先端が光っているあたり魔法の詠唱が終わった様だ。


「お見せしましょう。これが人類最大の攻撃手段にして、究極の攻撃魔法!」

つまりこれが例の…!


「『エクスプロージョン』ッッッ‼︎」


それが唱えられた瞬間、カエルや俺たち全てが閃光に包まれた。咄嗟にロッドを突き立てて腰を落とすが、それでも吹き飛ばされそうなほどの衝撃と爆風に堪えきり、目を開けた先には…


「焼け野原だ…これが、エクスプロージョンなのか…」

どこぞのヴァリエールさんも使っていた様な気がするが、やはりこんな感じのだろうか?


そんなことを考えていると、その爆音で目覚めたのか新しいカエルが湧き出した。


ここは一旦引いてからもう一度…

「カズマ!めぐみんも…」

「おう!めぐみん、一旦離れて…」


と、思ってここまで言いかけて…俺たちは動きが止まった。


「「は?」」

なぜか…?近くで地面と同化してるこいつに聞いてくれ。


「我が必殺の爆裂魔法はその威力故、消費魔力もまた絶大…要約すると、魔力を使い果たしたので身動き1つ取れません」


「「え……」」


そうしてる間にもカエルはめぐみんに向かって行く。

「近くからカエルが湧きだすとか予想外です。やばいです…食われます。すいません、ちょっと助け…ふごばっ⁉︎」



こうしてめぐみんも、その身を賭してカエルの足止めを始めましたとさ…って!



おい。

「めでたくねえし、終わるなよアホ!」

「それに、お前も食われてんじゃねぇえええ‼︎」

俺とカズマはヤケクソ気味に、またもカエルに飛びかかった…凄い既視感がしてるんだが気のせいだと信じたい。



その日の夕方、帰り道。

「生臭いよ…生臭いよぉ…」

カズマがめぐみんを背負って先導して行く後ろで、俺とアクアが並んで歩いていた。

「それが嫌なら今度からバカみたいに突っ込むんじゃないぞ」

あのあと結局、俺とカズマで一人一殺してクエストクリアにこぎ着けたのだが…これなら俺たち二人で組んだ方が遥かに効率が良い気がしてならない。


「使えません…わたしは一切、他の魔法は使えないのです」


そんなことを考えていたからか、このまさかの発言への反応が少し遅れた。


「…ちょっと待って。爆裂魔法が覚えられるなら、他の魔法だって使えるでしょ…?私なんか、宴会芸スキルを習得を一通り習得してから、アークプリーストの全魔法を覚えたもの」

確かに。あれほど魔力を使わなくても、他の魔法でもやれそうな気がする…だが。

「宴会芸スキルって何に使うんだ?」


俺がアクアに振るも、それに応えようともしない…まあロクなことじゃないんだろうが。

「私は、爆裂魔法をこよなく愛するアークウィザード。爆発系統の魔法が好きじゃないんです。爆裂魔法だけが好きなのです!もちろん、火、水、土、風。これらの属性の他の魔法も覚えれば楽でしょう…でもダメなのです。私は、爆裂魔法しか愛せない!たとえ1日1回しか使えなくても、その後地に倒れるとしても、それでも私は爆裂魔法しか愛せない!だって私は…そのために爆裂魔法の道を選んだのですから!」


な、なんかテロリズムなのかオタクなのかよくわからんが…とりあえず使えないのはわかる。


だって…

「素晴らしい!素晴らしいわ!非効率ながらもロマンを追い求める姿に、私は感動したわ!」

とりあえずお荷物担当たるアクアが同調してるし…


「おいヒカル。これは…」

「爆裂魔法は惜しいがそれ以外論外だろ」

「…だよなあ」

とりあえずカズマと小声でのやり取りを交わす…アクアが厄介な方向に話を持っていかない様に俺たちが身につけた技能だ。


と、そんな話は置いておいて。

「そ、そっか!茨の道だろうけど頑張れよ!報酬は山分けして、機会があったらどこかで会おう…グフッ」

さりげなくカズマが断ろうとしたが、途中でおぶっている後ろからのロックでその声は出なかった。

「我が望みは、爆裂魔法を撃つこと…なんなら無報酬でもいいと考えている。そう、アークウィザードの強力な力が、今なら食費と雑費だけで!これはもう、長期契約を交わすしかないのではないだろうか?」

どこのテレビショッピングだお前は。

「いやいやいや!俺らみたいなへっぽこパーティーには宝の持ち腐れだから…くそっ!ええい、元気が有り余ってるなら降りてやれよ!てかお前、どーせ他の所でも捨てられた身だろうしダンジョンの狭い中じゃ撃てないしいよいよ役立たずじゃねーかよ!カズマも言う通り報酬は分けてやるから!」

めぐみんをカズマから引き剥がそうとしているが、中々握力が高く外れない。


更には捨てないでなんて叫ぶもんだから…

「見てあの男たち、あんな小さい子を捨てようとしてる…!」

こんな風評被害まで生まれてくる始末。


そこにめぐみんが追撃しようとした所でようやく俺たちは折れて…このパーティーに魔法使いがやって来た。



字面だけ見れば良い感じなのに、中身を見ると全然良くないこの状況、なんかとんだ貧乏くじだなぁ…。




「…どうだった?」

冒険者ギルドに併設された酒場にて、報酬を持って来たカズマに問いかけると内訳を渡された。


見た所…11万エリスで、1人27,500エリス?なんと言うか…

「壊滅の危機が起こったのを考えると割に合わねぇよ…」

思わずため息をついてしまう。


「だよな…はあ、日本に帰りたい。他のクエストは無理ゲーなやつばかりだし」

バカ!

「言うなよ…せっかく気にしない様にしてたのに」

いやでもホームシックになっちまう。


そうして2人でため息をついていると…


「募集の張り紙、見させてもらった…」

後ろから声をかけられたので振り返ると…



金髪の女騎士。しかもすごくまともそうなのが後ろに立っていた…それなのに俺は、どこか嫌な予感を拭えないのだった。



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