蛇の月 三日

 今日の昼飯時に、何か食堂が騒がしいと思ったらギャリーが騒ぎの中心に居た。

あの野郎また何かやらかしやがったのかと思ったがどうやらそうではなく、むしろ逆で「やるじゃねえか!」「俺はお前の事を前から高く買ってたぜ」「能ある鷹はなんとやらか」だの口々に褒めたたえられている。一体何があったのかと聞いてみると、なんでもギャリーが分解魔光照射杖ブロウバーの起動と連続使用に成功したそうだ。杖の先端から出る魔力の光を当てるとその部分の岩壁が極度に脆くなるという高価な魔杖で、熟練の使用者は一瞬で大岩も砂に変えてしまうとか。ギャリーの場合そこまではいかなかったがかなりの精度だったらしく、元締めから魔杖の専属使用許可が降りたらしい。それでこの騒ぎという訳だ。


 「ようペイジ聞いたかよ、あのギャリーの奴がやりやがったぜ。こりゃお前さんの立場も危ういな」


 「何言ってやがるザッパ、元々俺に立場なんてもんはねえよ。しかしそうか、そういやあいつブラックゴブリンだったな。今までが今までだったから忘れてたぜ」


 ブラックゴブリンは通常のゴブリンと比べて魔術、魔力の使用に長けた種族だ。

ゴブリンが夢魔や精霊、或いは魔力の高い魔族と交わったときのみ生まれる種で、そんなことは滅多に起きないから極めて数が少ない。それ故にゴブリン社会では多くの場合ゴブリンメイジとして重用される。

 あの魔杖は起動だけでも高い魔力がいるが連続使用となると相当な魔力貯蔵量が要求される。効果は甚大だが燃費も相応ってわけだ。確かダークエルフのディースが挑んだ時は起動には成功したものの、30分も保たなかった。それだって大したもんなんだが、奴の魔力量はダークエルフを上回ったってことか。大したもんだというか勿体ねえというか。


 「ザッパ、人の事よりおめえさんはどうするんだ。ピッカピカのルーキーに抜かれちまったぜ」


 「ヘッ、そこはオツムの使いようよ。奴の後についていけば掘削の手間は段違いになる。そこで俺様が漁夫の利を得るって寸法よ」


 「……あー、まあ、お前さんがそれでいいならそうしとけ。上手くやれよ」

 

 「任せろよ、コボルドの世渡りの上手さナメんじゃねえぞ」


 そう言うと早速ザッパはギャリーにすり寄りに行った。当分ギャリーは旨い飯が食えるってわけだ。しかし俺を始めとした古参の連中はそんなバカ騒ぎを遠巻きにして見ている。こいつらは分かってるってことだ。ボルティスの野郎も事情こそ分からねえが全体を俯瞰して何かを感じ取ったらしく、騒ぎには加わっていない。戦場で鍛えた勘ってやつか。恐ろしいねえ。まあ理由はそれだけじゃないだろうが。ゴブリンにすり寄るなんざプライドが許さねえわな。バルドも相変わらず無言で何か言いたそうにしていたが、俺は目配せするだけで何も言わない。まあすぐに分かるこった。毎度のことだからな。

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