竜の月 十四日

 物事にはなんにでもコツってもんがある。

 槍を人間の腹に突き刺す時は、寸前で前の手の握りを緩める。

 肉に牙を突き立てる時は勢い良く噛み付き、骨を噛み砕く時はゆっくりと顎に力を掛ける。

 人間の目は上よりも下に向いているから、潜むなら叢ではなく樹の上に。

 長く生きている奴ほどこういったコツをより多く、より深く蓄えている。そして

それに比例してより小狡く、汚く、厄介になっていく。

 そこに行くとやはりあの新入りギャリーは余りにもガキで、全然なってない。両足を平行に開き、肩と腕だけでピッケルを振っている。あれではすぐにバテて力も入らないし、刃先の食い込みも浅いから掘る速度が遅くなる。そのせいでより長くピッケルを振るう羽目になり、より一層疲れていく。間抜けの悪循環だ。

 足は前後に。踵に重心を置いて爪先を浮かせ、その浮きと膝を使って前に踏み込み腰を落とす。その結果としてピッケルが地面に食い込む。腕に力を入れるのは接地の一瞬だけだ。これでこのベルリア山のクソ硬い岩盤も砕くことが出来るって訳だ。

 このベルリア山はただの山じゃない。言い伝えによれば、初代帝王がこの地を魔界に変えるより遥か前からこの山脈はここに聳え立ち、あらゆるものを拒んでいたらしい。今の魔界地図にこの山脈の向こうは描かれていない。初代から続く歴代帝王の誰も、この山脈を踏破出来ていないからだ。俺達が今掘っている部分も、まだほんの

入り口でしかない。

 ギャリーの奴は案の定バテてへたり込み、周りの連中から怒鳴られ厄介者扱いされ始めている。しかし誰もコツを教えてやったりはしない。ここでの稼ぎは出た物に対し7割が元締め、3割が採掘者という酷い割り当てになっているが、当たりを掘り当てれば相応の報酬が出る。むざむざ邪魔者を増やす必要はないという訳だ。ガキは

そこらの草でも飽きるまでしゃぶっていればいい。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る