竜の月 十五日

 今日は休暇日だ。

 そんなものがあるのかと思われるかもしれないが、俺達の飯場にはある。

 そもそも、チームの面々に許可を取ればある程度は自由に休めるのだが(当然貰いは少なくなる)この日、月の最終日は一律で休みだと決まっている。飯はいつもの

小麦と豆だけではなく、葡萄酒やチーズに果物、元締めの機嫌次第ではハーブの効いた肉料理すら振舞われる時もある。普段は仕事上の連絡以外ではろくに口も利かない俺達だが、この日だけは違う。皆一様にテーブルを囲み、思うがままに飯と酒を食らい、くだらないジョークも飛ばしあう。擦り切れたカードを並べて、少ない稼ぎを種に博打にも興じる。どのカードにどんな傷がついているのかを覚えるのはもちろん、それを如何に迷彩しブラフに使うかがキモだ。それも分からない奴はただかっぱがれるだけだが。例によってギャリーの奴が「俺様はラッキーボーイだ」とか言いながら無茶な突っ張り方をしているが当然カモだ。ザッパが囃し立てるようにテーブルを叩き始める。インキュバスのラッドがそれに合わせて踵を鳴らし、やがてそれは音楽とダンスになる。ダークエルフのディースが何処からかボロいギターを持ち出し掻き鳴らす。気がつけばゲームは顔を真っ赤にしたギャリーと俺の友人であるバルドの一騎打ちになっている。俺達はそれをコロセウムのように囲い、歌い、騒ぎ立てる。


さあ度胸を見せてみろ、ここが魔族の張り所。4つの月に祈りを捧げ、ナイフをケツにおったてろ……


 まあ現時点でのチャンプである単眼鬼キュクロプスのバルドに新入りが勝てるはずもないのだが。結末は予想通りになった。しかし俺達は歓声を上げる。ギャリーも「畜生、次はねえからな」と負け惜しみを言っているがその顔はどこか晴れやかだ。この日ばかりはランプにたかる小虫も気にならない。

 明日の仕事を忘れ、昨日までの人生も忘れる。何もかも、狂騒の空気に飲まれ紛れてどこかへ消えてしまえばいい。高揚と、立ち上る葡萄酒の香りだけがあればそれでいい。

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