この素晴らしい子作りで子孫繁栄を!

ふだはる

この素晴らしい子作りで子孫繁栄を!

 父さん、母さん、今晩は。

 カズマです。

 あれから色々な事がありましたが無事に生きています。

 僕はララ…ダクネスと結婚して彼女の親父さんの後を継ぐ事になりました。

 いわゆる婿養子です。


 第一夫人は協議の結果、世間体を考慮してララ…ダクネスです。

 本人は不満そうでしたが、わざと第三夫人にして世間の冷たい目に晒して喜ばせてやる義理は、僕にはありません。

 そういう喜ばせ方をさせない為の放置プレイの一環だと伝えたら、彼女は悶えていました。


 第二夫人は、めぐみんです。

 頭がおかしいくせに先ず一番に世間体を気にして、ダクネスに第一夫人の座を譲った常識人です。

 感謝の言葉もありません。

 申し訳ないと思っています。

 この恩は今夜にでも身体で返すつもりです。

 

 第三夫人はアクアです。

 シャッキングです。

 歩く不良債権です。

 駄女神のくせに第三夫人だと申し渡すと、なんで私が一番じゃないのよ?とか文句を言いやがりました。

 第一夫人になったらララ…ダクネスが、やっている社交界向けの雑事を全部お前がする事になるんだぞ?と言ったら、


 "第三夫人も悪くないわぁ、むしろ私にピッタリね!"


 とか抜かしやがりました。

 殴りたいです。

 …僕ですか?もちろん、そんな慣れない社交界向けの雑事を手伝うつもりは毛頭ありません。


 色々ありましたが、こんな素敵で美しいお嫁さん達を三人も貰えるなんて、僕は本当に果報者です。

 元の世界で日本だったら重婚の犯罪者です。

 いやぁ異世界って、本当に良いもんですね。

 それでは、さよなら、さよなら、さよなら。


 - * -


 長かった…。

 首を竦めて、枕を抱いて、両手を軽く握って太腿に置きながら、ちょこんとベッドに腰をかけているパジャマ姿のめぐみんを見て、俺は感慨に耽った。

 本当に、これまで長かった。

 さらば素人童貞!

 さらばサキュヴァスのドリームVRの日々!

 いざ!本番へ…。


 後ろでソファに座りながらアクアとダクネスが見ている。

 …やりづれぇ…。

「お前ら、後で呼ぶから自室で待機していてくれない?」

「冗談じゃないわよ!基本的に何でも平等の扱いをしてくれるってーのが、結婚する時の決まり事だったでしょーが!」

 俺の心からの提案をアクアが無下に却下した。

「悪いが私もアクアと同意見だ。せっかく結婚して初めての夜なのだから、四人一緒に過ごしたいと思うのは我が儘なのだろうか?」

 ダクネスが追い討ちをかけてくる。

「我が儘だとは言わないけどさぁ…一巡したら後で全員集まりゃいいじゃん。他の連中に見られながらとか、やりづらくて敵わんわ。それとも何か?二人とも服を脱いで、こっちに来るか?」

 俺は空しい抵抗を我ながら最低な言葉で試みてみた。

「イヤよ!…その…初めてのベッドの中でくらい二人きりで…。」

「めぐみんとの初夜に嵌まりすぎて、疲れて翌日まで眠られてしまっては敵わん。最後に四人で一緒に寝るのはやぶさかではないが、お前が途中で朝まで眠る事が無い様に悪いが監視させて貰う。」

「そんな事を言いつつ俺が、めぐみんにやられるのを見てNTR感で悶えたいとかいうのが理由って訳じゃないよな?」

「ひょ!ひょんな事は、にゃい!」

 相変わらずダクネスの説得力は、言う事にあっても態度には無いなぁ…。


「誰が誰をやるって言うんですか?!まったく、もう!」

 めぐみんが俺の台詞にツッコミを入れてくる。

「もういいから、さっさとベッドの上にあがって来て下さい。こんな言い争いをしている方が、せっかくの夜の時間がもったいないです。」

 そう言って先にベッドの上にあがっていた、めぐみんはベッドをぽんぽんと叩くジェスチャーをした。


 俺がベットに上がると、めぐみんと向かい合わせになる。

「よろしく、お願いします。」

 めぐみんはベットの上で三つ指をついた。

「しゃーすっ!よろっくっがいしゃーすっ!」

 緊張していた俺はベットの上で土下座したうえに噛んだ。

 アクアが指をさして大笑いをしていやがる。

 ダクネスも何かを堪えてる様な顔をしやがって…。

 俺は、めぐみんと片手同士を合わせると、そのまま握り締めた。

「第二夫人とか呼ばれてゴメンな。俺は三人とも本妻のつもりなんだけど…。」

「法律で決められた戸籍の形式だから仕方がありませんよ。こうして最初の相手に私を選んでくれただけで嬉しいです。」

 いや、それはドMのダクネスは最後にして放置プレイしていた方が喜びそうだったからだが…。


 そして片手同士を合わせて握ったまま、めぐみんとキスから始めた。

 アクアが両手の人差し指と中指を口に入れて口笛を吹いて囃し立てる。

 …ぶん殴りたい。

 ダクネスは頬を赤く染めて両手で顔を覆っていた。

 両手の中指と薬指が思いっ切り開いている。

 横目で見ると目がランランと輝いているのが見えた。

 …隠れてねーし。


 やがて俺は、めぐみんの舌を吸ったり逆に俺の舌を吸わせたり互いの舌を絡ませたりした。

 お互いに少しずつ興奮してきた。

 二人に見られているからだろうか?

 そういえば最初は何か言ってた二人だったが今は妙に静かだ。

 俺は再び横目で二人をチラ見した。


 …おーい、ダクネスさん?ヨダレヨダレ…。

 ダクネスは既に顔から両手を離している。

 瞳は潤んで、鼻息は荒く、口角は上がって口から分泌液が溢れていた。

 そしてアクアは顔を真っ赤にして瞬きもせずに凝視している。

 彼女はゴクリと唾を飲み込んだ。


 ふっふーん、俺の勝ちの様だな…。

 …何がだろう?

 でも何だか二人をやり込めた様な気がして気分が良い。

 DTでもサキュヴァスのサービスでリアルな予行演習だけは経験豊富なのだ。

 やっぱシミュレーションって大事だな。


 めぐみんがキスしたまま俺の首の後ろに両手を回して引っ張って来た。

 誘われるままに俺は、めぐみんを静かにベッドに押し倒した。


「いったあーい!!」

 直前でめぐみんは、とても痛がり始めた。

 準備は、これ以上ないくらい上出来に終わっていた筈だったのに…。

 サキュヴァスの夢でも初めてのめぐみんとの経験は数回あったが…所詮は夢だという事なのだろう。

 夢の中のめぐみんは、ここまで痛がりはしなかった。


 …あれ?俺ピンチじゃね?

 アクアは声を上げてはいないが若干泣きながら様子を見守っていた。

 ダクネスも流石にハラハラした表情をしている。

 …やめろよ、そんな顔をするな、縮んじゃうだろ?

 焦った俺は強引に腰を前に突き出した。

 痛みから逃れようと、めぐみんがずり上がる。

 その瞬間に悲劇は起こった。


 ゴチーン!


 ベッド上部にあるヘッドボードに、めぐみんは盛大に頭をぶつけた。

 両手で頭を抑えながら顔を真っ赤にして涙ぐむ。

 駄目だ…なんだか気が抜けた。

 俺は、めぐみんの両手の上から彼女の頭をポンポンと優しく労わる様に叩くと、

「また、今度にしよう?な?」

 とだけ言った。


「駄目です!」

 めぐみんは俺に摑みかかるかの様な勢いで否定した。

「せっかく最初に選んでくれたのに後の二人に渡したくありません!」

 めぐみんの嫉妬を初めて見た気がする。

「これだけは…ここだけは譲りたくないんです。」

 俺はアクアとダクネスの二人を見る。

 アクアは目を閉じて肩を竦めた。

 ダクネスは真っ直ぐ俺を見つめて静かに頷く。

 どうやら考えている事は同じらしい…。

「全員、日を改めてさ…今日はもう四人一緒に寝ようぜ?」

 俺は、めぐみんに三人の意思を伝えた。

 だが、めぐみんは、

「それでも駄目です。」

 と紅い瞳で俺を睨んで言い切った。


「カズマは、ちっとも分かってない!」

 めぐみんは怒り出した。

 俺の優しさは裏目に出てしまった様だが理由が、さっぱり分からない。

 そんな俺に、めぐみんは泣きながら説明してくれた。

「みんな…どれだけ、この日を覚悟して今夜に臨んでいると思うんです?!」

 あれ?俺ら、これから魔王か何かと戦うんだっけ?

「私達は、みんなカズマの事が好きで大好きで、それでも三人一緒にお嫁に行く事を決めるまでに、みんな悩んで悩んで悩み抜いたんですよ?!」

 めぐみんの目から涙がポロポロ零れていた。

「それを私一人が駄目だったせいで二人の今夜の覚悟まで無駄にする事は出来ません!」

 ベッドの上で全裸で仁王立ちをして手を横に薙ぎ払う様に振るめぐみんの前で、俺は何故か正座の姿勢を取っていた。

 あ…観音様だ。

 こんにちはー。

「確かに私に優しいアクアとダクネスなら許してくれるかも知れません?!でも何より私が、私自身を許せないのです!」

 あれ?俺は?俺は、お前に優しくないの?

「だから、だから…。」

 めぐみんは急に力を失ったかの様に膝を屈すると、そのまま顔を両手で覆って、こう言った。

「お願いします…今度こそ痛いのを我慢しますから…やめないで…。」


 アクアは滝の様に涙を流してる。

 ダクネスも目尻を指で拭いながら微笑んでいた。

 俺は覚悟を決めた。


 めぐみんの頭を抱いて耳元で囁く。

「もう、絶対にやめないからな?」

 めぐみんは瞼を閉じて黙ったまま頷いた。

 そのまま、めぐみんを押し倒すと彼女の両肩に俺の両肘を当てて逃げられない様に、がっちりホールドする。

 太腿を割って入る様に腰を入れて大事な部分同士をあてがった。

 そして俺は、そのまま…。


「ふう…。」

 開通式だけ済ませると、俺は一度ベッドから出た。

「え?」

 めぐみんは驚いている。

「まさか?!カズマもう終わっちゃったの?!」

 アクアが訊いてきた。

「人を物凄い早漏みたいに言うなっ!」

 …本気で殴ってやりたい。

「あの?カズマ…まだですよね?」

 めぐみんが恐る恐る尋ねてくる。

 そう、めぐみんなら分かるが俺は、まだ終わっていない。


「ああ…ゴメンゴメン不安にさせて、ちょっと着けようかと思って…。」

 そう言うと俺は、いわゆるライトニングなファミリープランを取った。

 はあ〜…これも巷で爆売れしてんだよなぁ…こいつの特許だけでも持ったままにしときゃ良かった…。

「え?でも、あの…私達もう夫婦なんですし、今はそんなもの必要ないんじゃ?」

 めぐみんの疑問は最もだ。

「いやでも確かに、みんなとの子供は欲しいけど…俺まだ、この世界での子育ての仕方とか不勉強だしなぁ…最近まで結婚に関する知識を得るので精一杯だったから…。」

「…。」

 めぐみんの顔から不安は消えたが寂しそうな表情になる。

「どんな名前だと縁起が良いのか?とか…小さい頃に掛かり易い病気とか…学校には、いつ頃から通わせればいいのかな?とか…まだまだ、この世界の子育てに必要な知識で知らない事も多いし…。」

「そんなの、子供が生まれてからでも…。」

 めぐみんの意見は、その通りなんだが俺にも言い分がある。

「そうなんだけど…なにしろ三人分で、みんな立ち位置が違うから不安なんだよ…。アクアは女神だし、めぐみんは紅魔族でダクネスは領主の娘だろ?結構、予め覚えなきゃならない事が多過ぎて…。」

「…。」

 めぐみんは、どうやら納得だけはしてくれたみたいだ。

「本当に最初の最初だけは大事な事だから着けなかったけど…ここから先は、ちょっとな…。勿論ずぅーっとって訳じゃない。半年…いや三ヶ月だけ本格的な子作りは待って欲しいんだ。」

「…三ヶ月…。」

 めぐみんの呟きに、いたたまれない気持ちになる。

 後ろでアクアとダクネスが口を片手で覆ってヒソヒソ話をしていた。

「ヘタレたわね。」

「ああ…ヘタレたな。」

 …聞こえてんぞ?お前ら…。


「カズマ…。」

 装着しようとしていた俺を、めぐみんが呼んだ。

 ベッドを見ると気怠げに横になった、めぐみんが潤んだ瞳で俺の事を見つめていた。

 片方の素足がベッドから、はみ出ていて床に爪先が着いている。

 露わになった太腿は付け根まで覗けそうで大事な部分が、あと少しで見えそうなくらいだった。

 その色っぽいポーズに俺は唾を飲み込む。

 薄眼を開けた、めぐみんの紅い瞳が妖しく濡れていて、俺は吸い込まれそうになった。


 なんで時々物凄い色気を醸し出して来るんだよ?!

 この頭のおかしい合法ロリアークウィザードわ!


 めぐみんは露わにした脚の膝から太腿の付け根までを指でなぞった。

 その終着点は掛け布団に僅かに隠れた彼女の大事な部分…。

 掛け布団の上から、そこを抑えて、めぐみんは言った。

「カズマ…私、カズマの赤ちゃんが今すぐ欲しいです…。」


 ブチン!!

 俺の中で何かが切れる音がした。


「そこまで言うなら赤ちゃんを授かるまで、やり捲ってやらぁーっ!!」

 俺は家族計画を捨てて、めぐみんにルパンダイブを敢行した…。


「ふうーっ…。」

 一仕事を終えた後の一服は格別だ…。

 立ち昇る紫煙を満月に重ねながら俺は、バルコニーで満足感に浸って休憩していた。

 あれから、いつもの夢の中での調子を現実でも取り戻した俺は…無敵だった。

 めぐみんはベッドの上で、うつ伏せになって気絶している。

 そんなにまでなる様な事が何かあったのだろうか?

 俺は思い出してみる。


「あ!あ!ごめんなさい、カズマ!もう!赤ちゃんが欲しいだなんてっ…言いません…からっ!そ、そんなに強くしないで…くだ…さいっ!し、死んじゃう!死んじゃうからぁっ…!」


 …。

 はっはっは…馬鹿だなぁ。

 俺が大好きな、めぐみんの事を死なせる訳が無いだろ?

 一体あの時めぐみんは何を考えて、あんな事を言っていたのだろう?

 俺には、さっぱり分らないや…。


 他には何を言ってたっけ?


「ダメッ!ダメ…ですっ!そんなに奥まで…来られたらっ…!私の赤ちゃんのっ…!赤ちゃんの部屋がっ!こ、壊れちゃいます~っ!」


 …。

 はっはっは…そんな馬鹿な。

 まだ生まれてもいないし、その予定も無いのに赤ちゃんの部屋なんか俺達の屋敷にある訳が無いじゃないか?

 まったく…めぐみんは何を言っているのだろう?


「さてと…。」

 休憩も終わった俺は、二人目の奥さんを愛し抜く為にバルコニーから寝室に戻った。

 ダクネスは絶賛放置プレイ中なのでアクアの元へと近づくのだが…。

 アクアは何故か酷く脅えている様子で部屋の隅でガタガタと震えていた。

 心なしか俺を見る目が恐ろしい悪魔でも見るかの様な目つきになっている。

「えーと?アクアさん?」

 俺はアクアに手を差し伸べた。

「ひいぃ!近寄らないでっ!ケダモノ!」

 差し伸べた手はアクアにはたかれた。

 アクアは壁に限界まで張り付くと首をイヤイヤする様にぶんぶんと振る。

「…ダクネス!大変だ!アクアが新兵の掛かる病気に!」

 俺は混乱して、よく分らない事を口走りながらダクネスの方を見た。

 ダクネスは警戒する犬の様な眼をして息も荒く俺を睨みながらソファの陰に隠れていた。

 …おまえもかい…。


「よーし、よしよし、出ておいでー。」

 俺は、とりあえず恐慌状態のアクアは後回しにしてダクネスの順番を先にすることにした。

 顔を見れば分かるが警戒はしているもののダクネスの表情はうっとりしている。

 彼女のドMセンサーが反応している証拠だ。

 きっと、めぐみんと俺の行為を見学していて、すっかり出来上がってしまったのだろう。

 何故かは、よく分らないが…。

 しかし先ほどから優しく、こちらへ来る様に促しているのだが全く来ようとしない。

 そこで俺は気がついた。

 ドMが優しく呼んで来る訳が無いよな…と。

 俺は立ち上がると片手で髪をかきあげて涼しげな瞳を作ってダクネスを少し睨む様な感じで見つめる。

「俺を困らせると後で、どうなるのか?分かって、やっているんだろうな…?」

 ダクネスはビクリと震えたが顔は嬉しそうに少しだけソファから身を乗り出してきた。

 俺はトドメの一言を放つ。

「来いよ…ララティーナ…怖いのか?」

 ベッドの上からブフッ!とかいう、めぐみんの吹き出す声が聞こえる。

 さっきまで泣いていたアクアがダクネスを指さしてゲラゲラ笑い始めた。

 ダクネスは顔を真っ赤にして俺に殴りかかる。

 …なんで、こういう時のダクネスの攻撃は当たるんだろう?

 顔面を歪ませつつ壁まで吹き飛んで、めり込んだ俺は心底不思議に思った。


「ふぅーっ…。」

 二つ目の仕事を終えた男の一服を星たちが優しく迎えてくれる。

 俺はバルコニーで上を向きながら紫煙を天涯の中央に坐した月に向かって吹きかける。

 ダクネスはソファに全裸で、うつ伏せにもたれかかりながら息も絶え絶えな感じだ。

 あの体力バカが、あんなになるなんて…いったい何があったのだろう?

 俺は記憶の糸を手繰り寄せる。


「ああっ!カズマっ!カズマっ!!これが…これがっ!雌犬の悦びなんだな…?!」


 …。

 おかしいなぁ?

 俺達の屋敷で犬を飼っている奴なんていない筈なんだが…?

 いったい何故ダクネスは犬の喜びなんて理解できているのだろう?

 分からん…。

 よろこびの漢字が違う様な気がするが気にするのはやめよう。


 困った。

 順番を入れ替えてしまったのは不可抗力だとしても次はアクアの番なのだが…。

 疲れた俺は通勤通学ラッシュ時の踏切の様な状態になってしまった。

 つまり遮断機が上がらないのだ。

 ここまで来て、まさか何もしないで寝よう…などと云う提案は許されるのだろうか?

 …アクアだから…まぁ、いいか?

 俺は、それでも恐る恐るアクアに近づいて男として最低な中断の提案をしてみようと思った。

 するとアクアは、こちらに背中を向けてしゃがみ込みながら何かの本に熱中していた。

 なんの本だろう?

 気になった俺は表紙を横から覗き見る。

「タイガーマ…。」

 あっぶねー…危うく大御所の作品のタイトルを全部口に出して引っ掛かる所だった。

 なんでアレが、この世界にあるんだよ?!

 …しかし、なんだ?

 アクアは、もしかして今までの子作りを見てプロレスか何かと勘違いしたのか?

 …めぐみんはともかくダクネスとの一戦は勘違いされても仕方が無い気はするが…。

 なんかの参考になるのか?あの漫画が?漫画って言っちゃったけど…。

「あの~?アクアさん?」

 俺はアクアを振り向かせる為に肩に手を掛けようとした。

 その瞬間、アクアが忽然と姿を消した。

 彼女の服だけが下着も含めて床に散らばっていた。

 恐ろしいまでの早脱ぎの技である。

「あーっはっはっはっは!」

 笑い声のする方を見ると案の定アクアがいた。

 先ほど、めぐみんが盛大に頭をぶつけたヘッドボードの上に立っている。

 …無駄にバランス感覚いいな、流石芸人…。

 アクアは毛布をマントみたいに身体に捲いて高らかに宣言した。

「チャンピオン!カズマ!私が貴方を倒してみせる!」

 既に俺の遮断機は倒れているので試合申し込みを断ろうと一歩近づいた時だった。

 アクアが俺の目の前で毛布を取って後ろに投げ捨てる。

 …初めて見るアクアの全裸は神々しいまでに美しく、とても奇麗だった。


 …いかん、踏切を人が通行できる様になっちゃった…。


 白いベッドの上で俺とアクアのジャングルが激しくぶつかり合った。


 まだ朝には早いが月が、すっかり沈んで部屋の中も真っ暗になった頃。

 俺達四人は同じ大きなベッドの上で疲れて眠っていた。

 と思ったら…。

「ねぇ、カズマ…起きてる?」

 横で寝ていたアクアが俺を見ながら尋ねてきた。

「いいや、寝てる。」

 俺は答えた。

 実際疲れたので、もう眠りたかったのだが、まだ起きてはいた。

「なによ、それ?」

 アクアは怒った。

「じゃあ眠りながらでいいから聞いててよ…。」

 アクアは微笑んで話し始める。


「私ね…みんなと一緒になれて本当に嬉しかった。

 もしかして、みんなと別れる事になるのは、もっと早かったんじゃないか?って不安だったの…。

 でもね…こうして結婚して、これからもまだカズマが死ぬまでは、みんな一緒なんだなって思うと安心するの…。」

「なんで俺が先に死ぬ前提なんだよ?」

「…え?えーと…なんでだろ?あははは。」

「おまえ…何か知ってるのか?」

「…。」

「まぁ、いいや…それで?」

「…永遠にずーっと、このままなら…いいなぁって…。」

「…。」

「このままダクネスがいて、めぐみんがいてカズマがいて…冒険したりしなかったり…飲んだり食べたり騒いだり…四人で、ずーっと、ずうぅーっと、このまま…。」

「…。」


 アクアは泣き出した。


「私、イヤだよ…。みんなが死んでも…私一人だけが女神で…永遠を過ごさなきゃならないなんて…そんなの…イヤ…寂しいよ…。」

 俺はアクアの頭を撫でると言った。

「今から、そんな先の事を考えて、どうすんだよ?」

 アクアは、いつになく真剣に答える。

「一瞬だよ?私にとっては一瞬なのよ?!だから、みんなと一緒にいられる時間が、どれだけ大切なのか分かっているの…私だけ…。」

「みんなも同じくらい大切だって分かっているよ。」

「…それは、そうかもしれないけれど…。」

 アクアは少しだけ考えると俺にある提案をしてきた。

「ねぇ…カズマ?カズマ達が望むなら私と同じ永遠の命を…。」

「駄目だ!!」

 俺は、つい声を荒げてしまう。

 アクアは驚いていた。

「あ、いや…すまん。」

 俺は三人と結婚する前にエリスに呼び出されて聞かされた話を思い出していた。


 カズマさん。

 先輩と結婚するなら一つだけ守って欲しい事があります。

 …違います。そっちは何をやっても構いません。いや、構わないって言うと語弊があるかも知れませんが…。

 先輩から永遠の命を与えるという相談を持ち掛けられても断って欲しいんです。

 散々生き返らせておいて何なんですが…いい加減、神様の先輩に対する堪忍袋も限界なんですよ…。

 もちろん貴方を度々、生き返らせている事は私も神様も諦めているので、これからも構わないのですが…。

 唯一手をつけてはならない神様の決めた摂理もあります。

 …寿命です。

 寿命を終えてから天国へ行くのも転生して生まれ変わるのもカズマさんの自由ですが…。

 サトウカズマとしての人生と、その寿命だけは引き延ばしは出来ないと覚えておいて下さい。

 もちろん先輩の力なら、それを覆す事も可能です。

 しかし、そんな事をすれば今度こそ神様の怒りを買って先輩は悪魔に堕とされてしまうでしょう…。


「どうしたの?カズマ…怖い顔してるよ?」

 俺は怖い顔のままアクアの方へ振り向くと自分の眉間を指で押さえて上に持ち上げた。

 アクアは他の二人を起こすまいと笑いを必死に堪える。

 俺はアクアの耳の前へと垂れている前髪に触れた。

「…本当に、どうしたのよ?」

 こいつがサキュヴァスのお姉さん達みたいになるのを見てみたい気もするが…。

「アクアは女神の方がいいよな…って思ってただけ。」

 アクアは頬を赤く染めた。


「なぁ、アクア…。」

「なによ?」

「俺や、めぐみんやダクネスが先に死んで寂しかったらさ…。」

「やめてよ…その話は、もうやめようって…さっき決めたばかりじゃない…。」

「…俺達の子供とか孫とか、ひ孫とかをさ…見守っていてくれよ。」

「…。」

「ずっとさ…多分、退屈はさせないと思うぜ?なんせ俺達の子孫だしな。」

「…そうね。」

「きっと、お前と俺の子孫なんかも生きてると思うからさ。」

「…うん。」

「頼むよ…。」

「分かった…。」

 そうして俺たちは、ゆっくりと眠りについた。


 - * -


「アクア先輩…また下界を観ているんですか?毎日毎日…よく飽きませんね?」

「うるさいわねー。エリスのくせに生意気よ?仕事さぼってる訳じゃないんだから、いいじゃない。」

「よく言いますね。この間なんて下界で戦争が起きようとしたら割って入って止めようとして、仕事に遅刻しそうになってたじゃないですか?」

「…あ、あれは…だって、めぐみんの子孫とダクネスの子孫が戦おうとしてたのよ?二人を知ってた私としては、とてもイヤだったんだから…しょうがないじゃない。」

「…まぁ、いいですけどね…。」


「あ、ほらほら見て見て…あの紅魔族の男の子めぐみんにそっくり…あ、女の子のスカートめくっている…性格はカズマそっくりね…。」

「イヤなことを思い出すから、やめてください。」

「あの青年騎士は短いけど私みたいに奇麗な青い髪をしているわ。おまけにダクネスみたいに凛々しくて素敵…。あれ?胸が大きい…。」

「ドMな所まで受け継いでいなければ良いのですが…。」

「あははは。カズマそっくりな女の子が転んでドブにはまって泣いているわ。なんかカズマに似ているから愉快だわー。」

「…多分、中身は先輩なんじゃないですか?」

「…なんか言った?」

「いいえ、別に…。」


「…ねぇ、エリス?」

「なんですか?アクア先輩…。」

「エリスそっくりの男の子がスティールを使って女の子のパンツを盗んでいるんだけど?」

「気のせいですよ。」

「…ウィズに似ている男性もいるんだけど?」

「そりゃ女神二人に子供を授けられるんだから、リッチーだって出来て当たり前だったんじゃないんですか?」

「…今、女神二人って言った?」

「気のせいですよ。」

「なんかギルドの受付のお姉さんに似ている人も…。」

「気のせい、気のせい。」

「…性転換したカズマにしか見えないサキュヴァスもいるんだけど?」

「…。」


「エリス…。」

「何でしょう?」

 アクアは指をポキポキと鳴らした。

「私…ちょっと野暮用を思い出したから天国へ行ってくるわ。」

「奇遇ですね…私も、お付き合いします。」

 アクアは微笑むと、ゆっくりと天国へ向かって行った。

 その微笑みの意味を今はエリスだけが知っている。


 -完-

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