#145 It's my CUE(僕の出番だ)

 高らかに上々と演説する様な立場を持たないのを前提として、声高に喜々として語る議題でも無い。

 その上で加えて言うならば――そもそもの前提として一個人的には気分の乗らない話題であるので――僕の中のテンションのギアはローを発端にして…そっから全然アガらない。なんならゲインの量とかも普通にイマイチだ。


 これまでの人生、口下手的に喋り下手故に――毎回相当気の乗らない普段のライヴ中のMCですら、もう少し…今よりは多少なりとも気乗りするもんだけれど。


 今回ばかりはお喋り上手で世渡り上手な頼りになる相棒バディもいなければ、地域のご当地グルメ情報や次回のイベントや新譜のリリース告知なんかで場を濁せない。濁したくない。


 などと未練がましく――恐れを知らない思春期みたいに勇ましく格好をつけてツッパってみるものの。

 やっぱり口の滑りがニブく重いのも事実であり、こうしてつらつらと逡巡の言葉をみっともない姿に厚塗りして重ねて行く。


 それはまるで、懸命に砂で作った斜塔の様相で、きっと余所見や瞬きの間にすぐにでも崩れてさらさらと何処かへ行ってしまう頼りない代物シロモノだと思う。


 故に想像よりも呆気無く、予想よりも頼り無く、最初から定められたみたいにあっさりと…裂ける。


「ちょっと待って…? なら、本当にヤメて欲しいかな? ほら、身内の恥の話だし…それにアラタくんには関係無いし――大体、全部。もう、話だから」


 口数の少ない恋人の口から一気にセキを切って出て来た言葉は、部外者たる僕を突き放すニュアンスを明確かつ多分に含んだイバラ満載の冷たい凶器コトバ


 けれど、それは主観的かつ偏執的な個々人である僕だけが特有で抱く感傷であって、柔軟に見方を変えて客観視すれば紛れも無く『正』である。

 とどのつまり、僕には関係無い新山ニイヤマ彩夏アヤカとその血縁関係にある家族の身内の話。まるっきり無関係の不祥事スキャンダル


 しかし、それすら尚を飛び越えた視点からすれば、あくまで肝要なのは僕自身が掛かる場所だよ。

 それは僕の立ち位置と関係性が何処に係るかで如何様にも当事者足り得ると言える。それ故にどんなモノにも成り代わることが出来る!


 だから、僕は君がずっと抱えねる重たい棺桶コフィンの中に躊躇ためらい無く手足と全身を浸すことが出来る。

 本来存在しないはずの一線を踏み超えて、厚顔無恥の皮を被って素知らぬ顔で歩き出せば遠くの月にだって容易く手が届く。


「確かに、直接関係無いよね…それに加えて、君的には事だってのも勿論分かってる。重々理解している。だけど…それを承知で僕はあくまで…関りたい」


 うねった道を無駄に遠回りをして、重たい身体とキシむ精神をおっかなびっくり引き摺って…そこまでやって、ようやく覚悟の決まった僕だけど、それは単純に口を開く事だけを指し示すものじゃない。


 きっと君の過ごした全てに関わって、君の隠した重荷を一緒に背負って生きたいという未来へのミソギを含むんだ。なんて、重いかな? 引くかな?


 まあ関係無いけど。


「馬鹿なりに色々含む所が無いとは言わない。愚かなりに君に隠れて諸々画策したし、愚かにも少々品の無い行為もあった気がする。だけど、それでも僕は――」


 宮元新と新山彩夏の為に最善を尽くすつもりだよ。

 僕に直接関係があろうと無かろうと、それこそ関係無い。単に君達を含んだ君自身をほっとけないから。


性格キャラじゃなくても、今回ばかりは出張でばらせて貰う。かけがえのない僕の為に…! 君の父親の犯した全てをこの場に提示する」


 けれど、勿論を聞くか聞かないかは君の自由だ。


 僕は荒ぶりそうになる声を意識的に抑えて、さえずる様に呟いた。

 あくまで選択肢は君に有ると。全ては君の心持ち次第だと。


 僕は、僕の聞いた真実すべてを残らず君に話す。


「彩夏…強調するけど。代わり映えも無く言うけれど――君の父親は限りなく有罪に近い無実だ。背信はしても浮気はしていない」


 それがかつて起こった現実だと僕は口を酸っぱくして、苦味に沈む心を押して告げる。


 きっと君には受け入れがたい事実では有るけれど、僕にはきっとその責任がある。

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