#144 Monochrome (K)night(白黒の…)
「本当にごめんなさい。
パタパタと忙しなく、勝手知ったる住居の室内を慌ただしく駆け回りながらも、愛しの
体重移動に伴って自然かつリズミカルに帯同する身体の動きに連動して、有機的に
とは言え、まあ彼女の推察通り待機中の時間が決して寒くなかったとは口が裂けても言わないが、無闇矢鱈に嘯いて彼女に無意味な心労を背負わせるのは本意じゃ無い。
今も、そしてこれからもだ。
つまり、ザックリ強引に結論付けるならば、ここは事実と本音を隠して強がる場面だろうと思う。
古今東西における逢瀬のデートの際に「今来たところ、全然待ってないよ」と
「それでも君を待つ時間が楽し過ぎて――身体に貼り付く寒さなんて忘れてたよ」
うわっ、何言ってんだこの金髪。きめえ。
髪色と一緒に知性までブリーチしちゃったのか?
灰色の脳細胞であればまだ格好のつくものの、色を抜き過ぎた結果が金色の脳細胞では笑えない現実である。
前述のクソみたいに低脳な発言を撤回…することは出来ないものの、何とか
「いや、まあね――その…唐突かつ一方的に呼び付けた上に、
そもそもそれ以前に、彼女は立派に社会に参画して貢献して、有り体に表現して働いているのである。
契約書の紙面上でだけミュージシャンであることを許されるペーパーミュージシャンよりも、社会的に拘束されるのは仕方が無い。
やばい、早くヒット曲を作らないと本格的に
自身の社会的立ち位置や生誕以来に籍を置く国家に対して果たす義務や責任なんかで空っぽの頭が満たされつつある時、再び内省的な気遣いの言葉が代わって注がれた。
「アラタくん、何か顔青くない? やっぱり寒かった? 大丈夫?」
首を傾げる恋人の…言ってしまえば頓珍漢な方向の気の遣い方が何だかとても愛しく愛くるしい。
長く厚い暗幕に用いるカーテンみたいな前髪の隙間からチラリと覗く瞳が僕の気持ちを奮い立たせる。いよいよ本題に入る瞬間が来たのかも知れない。けれど…、
「こう改まると…何と言うか、些か言いづらい感じはあるね」
土壇場になっても覚悟が曖昧で希薄なのは良い加減そろそろ治したい悪癖めいたメンタルコントロールであるが、二十数年を掛けて構築した人間性や性格とかは――そう簡単には修正不可なのも事実であると自己弁護…いや事故弁護かも知れない。
「だからさ、その…つまり…だな。うん、えっと…そのね? あーっと、つまり、僕が言いたいのはね――」
「や、やっぱり…、その別れ話…だったり?」
その彼女の言葉はあくまで冗談の範疇における、間違えようの無い本音と取り違えようのない本気を孕んでいた。
だから、僕は即座に否定する。
「違う。ありえない」
勿論、挙がったそういう気持ちを否定はしないけれど、僕の発言を促す源泉はもっと純粋で混じり気の無い
だけど、現実は思い通りには行かなくて、祈りの様な
「付き合ってるのに身体を許さない女に…その、ヤラせない女に愛想を尽かした?」
それは…深くは知らないけれど、平時の彼女からは想像も出来ない粗暴で俗っぽい――そして何よりも直線的な表現で紡がれた生々しい本心の言葉。
それらについて身勝手な幻滅に似た感情が多少なりとも存在するのは僕が色を知らない
「それは、紛れも無く違う…けれど。愛想は尽かさないけれど。決して君を見限ったりはしてないけれど……」
僕は高尚ぶってみても、どんなに紳士を気取ってみていても―――所詮醜い
「それでもまあ…身体を許してくれない
直接的な性的交渉についてのあれこれはまた次の機会に膝を突き合わせるとして。
その夢のような快楽を伴うはずの行為の是非や好悪、その他諸々における心根は確かに存在して尚、それをさて置ける現状がある。
だから僕は覚悟を決めて口に出す。
「僕はさ――、」
君の過去を聞いた。
君から。妹から。そして父親から。
そして、その全てが言った。
その源泉の殆どは彼女の経験した過去にあると、
勿論、それだけではあらわせない君の
僕はそれが知りたいし、逆に僕の過去を含めたすべてを君に理解して欲しいと願ってやまない。
ここから話すのは恐らく…限り無く真実に近い推察で推測だ。
同時に多分、かつて起こった不幸で不運な連鎖に――そこに僅かばかりの救いや祈りを秘めた結末を用意出来る唯一の解釈だ。
「ねぇ、
未解決事件の解明と言えば、本来ならば名探偵の仕事であり役割であるのだが、今回ばかりは地方出身者のギターボーカルが務めさせて頂く。
他の誰でもない。
新山彩夏の恋人が取り仕切るよ。
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