#142 Parallel Hearts(平行するココロ)
そんなこんなで上等な知的生命体にのみに許された特権―――神の如き創造を介する遊戯とそこから生み出される副次的な贅沢を分相応にも、存分に堪能し謳歌した僕は住み慣れた実家を後にして。
しみったれた性根のしょうもない男は木枯らし吹き荒ぶ荒野に似た外界へと飛び出した。
女々しさ全開でみっともなく注釈をして置くならば―――恋人との約束の時間を鑑みれば、かなり気が早く―――時間的にも相当に早い出発である。
しかし、僕が鬱陶しい言い回しと共に家を早々に出たのには訳がある。
男らしく誤魔化さずに早い話をしてしまえば、楽曲制作に煮詰まったのだ。
先日、
思い付きで作り始めて案の定煮詰まって、また積み木かジェンガの様にゴールの見えない階段を一段ずつ作り始める。何度も作って壊して。全く…生涯ただ一度で良いから一気に完成まで持って行きたいものである。
そんなこんなですっかり暮れなずんで朱に染まる街中をフラフラ徘徊しながら時間を潰す。電飾に彩られてギラギラと品無く輝く風景を目に収める事で一つ思い当たる。
「あっ…クリスマスプレゼントとかって、流石に用意しなきゃいけないよな……」
なんかバタバタ忙しなかったせいで存在すらを失念していたが、付き合ってから初めての
けれど、そもそもプレゼントはいつ渡すものなんだ? イヴなのか? それとも二十五日なのか? 時間帯はどうなんだ?
というか、確か出発日がクリスマスと重なっていなかったっけ? ズレてたっけ? ヤバいど忘れした、後で確認しとこう…。
僕の今後の進路はさて置いて、さて置いていいのか?
まあ何にしてもクリスマスプレゼントについては一考の余地があるし、近い内の忘れない内に相談することにしよう。幸いにも僕の
恋人へのクリスマスプレゼントなんて今迄縁が無くて、経験が無いから困るぜ。
考えてみればずっとこうだ。
僕は少々偏執的ではあるけれど、そういう世間一般に蔓延するごく当たり前の「普通」には触れてこなかったし、相性が悪かったんだなと遅まきながら気が付いた。
代わりに、ちょっと
違うに決まっている。
僕と
彼女は涙を流した。
だから僕が変えてやる。
彼女の抱える痛々しい傷痕を愛くるしいものに変容させるのは僕の役割だ。
ひょっとしたら、別に僕じゃなくても良いのかも知れない。
僕が何もせずとも時間の経過で何となく許容出来る様になるかも知れないし、僕の知らない誰かがスマートでクイックリーなパーフェクト解決策を持って、物語の整合性などお構い無く現れる可能性だって
だけど、現在分岐点に立っているのは僕だ。僕だけなんだ。
彼女を救える可能性を持っているのは僕だけだ。
だから、行くんだ。これは新山彩夏の為の革命前夜なのだから。
「よしっ、行くか…」
口内で小さな呟きを噛み潰して心を強く保つ。
ココ最近、覚悟を決める場面が多過ぎて常在戦場の物騒な装いを感じなくも無いが、困難に立ち向かう為の理論武装は必要だ。
奮い立たせる震源を密かに握ってから、僕は街並みを通り抜けて彼女の待つ家に向かう。
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